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賢者様の小間使い  作者: 玉雪 芙泉
第1章 城塞都市エオドール

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9話 得意魔法


 パーティーを結成した3人は、正式な登録と何より任務の完了報告のため、ギルドにやってきた。


「随分遅かったですが、事情は聞いています。

 そして、任務の薬草の採取は完璧です。

 薬草の摘み取る位置もまとめ方も素晴らしいです…!!

 是非、今後とも薬草採取をお願いしたいですが、ゼイドさん、監督役として彼らの合否はいかがでしょうか?」

「…こいつらの冒険者としての技能は問題ないし、素行もまぁ問題ないだろ。

 ってことで、登録試験は合格だが、薬草採取は無理だな」

「なぜですか!?正直本日採取されたこの薬草はこのまま見本として飾りたいくらい完璧な採取だというのに…!!

 一体何が不満なんですか……?」


 表情を消し、瞳に強い光を宿した受付嬢がゼイドを凄む。

 このギルドにやってきてから半年以上経つゼイドはこの受付嬢とも一応半年以上の付き合いになるのだが、ここまで取り乱す姿は初めて見た。

というより、そもそも取り乱す姿を初めて見たため、より不気味さと圧の強さに圧倒される。

しかし、こちらも押されるわけにはいかないのだ。


「あ〜、こいつらとパーティーになんだよ。

 パーティー申請するから、用紙くれ」

「パーティー申請!!?」


 ギルド内に響くその声に、ロビーに残っていた人々の視線が集まる。

パッと報告してパッと申請をすませるつもりでいたのに、なんで今日はこうもうまくいかねぇんだとゼイドが内心で悪態をついていると、後ろから声が響く。


「おっ、パーティー組めたのか!よかったねぇゼイド君」

「げっ、なんでもうここにいんだよ、ランドルフ…」


 背後にはアビゲイル(商人)たちを回収し、対応に奔走しているはずのランドルフが悠然と立っていた。


「ちょうど話したいこともあったし、こいつらと一緒に会議室かりるわ。

 申請もまとめてそっちでやるか」

「……わかった。お前ら、行くぞ」


 兄妹を連れ、ランドルフの後ろについて2階の角の部屋に入る。早々に席についたランドルフの向かいにゼイドは兄妹と並んで座った。

そして、そのまま本題に入るかと思いきや、


「いや、なんであんたもここにいんだよ。

 受付にいなくていいのか?」

「パーティー申請は受付の仕事です。受付カウンターは別のスタッフにお願いしましたので、ご心配なく。

 また、ゼイドさん方が関わった本日の件につきまして、私も報告を受けておりますし、以前から対策メンバーとして関わっておりますから、守秘義務も問題ありません。

 ですよね、副ギルド長」

「まぁ、そうだな」


 笑みを噛み殺すランドルフに、こいつ絶対面白がってるなとゼイドは確信する。


「まずは、申請の方をすませるか。

 俺が確認するつもりだったが、本職がいるから譲るぜ」

「はい、お任せを。

 では、こちらの申請書にご記入いただきますが、その前に本当にこの3()()でパーティーを組まれるのですか?」

「そうだよ。何か問題でもあんのか?」

「ゼイドさん、本当にこの2人を貴方の受ける任務に同行させる気ですか?」


 鋭い目を向けられたゼイドは思わずぎくりと肩が跳ねる。

いや、ちゃんとこいつらの了承を得てのパーティー申請なんだから何も悪いことはしてないはずだろ。

それでも口からついて出たのはどこか言い訳がましい声だった。

 

「……俺の受ける任務についてはちゃんと話した上で問題ないってこいつらも言ってんだからいいだろ」

「ですが、アロイスさんの方はまだしも、クロシェさんをAランクの魔獣討伐に参加させるつもりですか?

 いくら2級魔法使いの試験の応募期間が迫っているからといっても冒険者にとって焦りは禁物ですよ」

「2級魔法使いの試験?」


 首を傾げるクロシェに受付嬢の眼光がさらに鋭くなる。


「ゼイドさん、どうやら"ちゃんと話す"の定義が私とは違うようですね。

 クロシェさん、2級魔法使いとは、魔法評議会に所属する魔法使いの等級のことで、2級は上から2番目の階級です。

 魔法使いの昇格試験は年に1回あり、試験を受けるには受験資格の条件を満たさなければいけません。

 2級魔法使いの受験資格は、Bランクの魔獣100体、またはAランクの魔獣10体以上の討伐、もしくは、魔法・魔法陣・魔導具のいずれかの開発とその論文の提出が条件となります。

 ゼイドさんはこの2級魔法使い昇格試験の受験資格を満たすために冒険者ギルドで魔獣討伐の任務を受けているのです。」


 そうクロシェに説明する受付嬢の声音は淡々としているものの心なしか優しさが滲んでいたが、ゼイドに対してはチクチクと針で刺すような圧を滲ませていた。

そして、2級魔法使いとゼイドの事情を聞き終えたクロシェは、おずおずと口を開く。

 

「あの、それでしたら、ゼイドさんからは、受ける任務は魔獣討伐でAランク3体もしくはBランク21体の討伐が目標とうかがっています。

 私も兄もそのランクの魔獣の強さを説明していただいた上でパーティーになることを了承しました。

 2級魔法使いについては知りませんでしたが、ゼイドさんは私たちに誠実に向き合ってくださっていますので、その、パーティーの申請をさせていただけないでしょうか…?

 それとも、やはり冒険者になったばかりの私たちでは何かの条件を満たせていないのでしょうか?」

「・・・」

「それくらいでいいだろ。

 本人たちが了承してんだ。ゼイドが脅して無理やりパーティーにしたわけでもなさそうだし、問題ねぇよ。」


 口を閉ざした受付嬢に代わり、それまでニヤニヤと愉しく聞くことに徹していたランドルフが割って入った。


「にしても、ゼイドがそっちの兄ちゃんはまだしも嬢ちゃんもパーティーに入れるとはなぁ。

 魔法杖を持っているが、その歳で魔法が使えんのかい?」


 ランドルフの問いかけにむっと唇を尖らせたクロシェが答える。


「その歳って私は12歳ですよ」

「「12歳!!?」」

「どうして皆さんそんなにも驚くのですか…私、こんなにもお姉さんになったのに…」


 年齢を教えるたびに驚かれるクロシェは流石にいじけてきた。

うじうじとするクロシェの頭を撫でるアロイスが冷え冷えとした冷たい視線をギルドの大人2人に向ける。

そんな兄妹の様子に苦笑いをこぼしたランドルフが口を開いた。


「いや、すまないな。12歳っていやぁ学園に通える歳だからよぉ。

 どちらにしても、初級魔法を習いはじめたかどうかの歳でゼイドがパーティーに誘うとはな」

「私は学園には通っていませんし、通う予定もありませんが、魔法は大好きなので結構得意なんです」

「ふ〜ん、家で教えてもらってたか、師匠がいる口か…

 得意ってんなら、嬢ちゃんの得意魔法はなんだ?」

「生活魔法です!」


 むんっと得意げに胸をそるクロシェにその場に沈黙が落ちた。


「生活魔法…?」

「はい!お料理、お掃除、お洗濯などなど、お家のことに関する魔法はなんでも得意です!」


 意気揚々と得意満面にそう宣言したクロシェになんとも生ぬるい空気が流れる。

 

 魔法は一般的に戦闘魔法と生活魔法の2つに分類される。

それぞれ文字通り、戦うための魔法と生活のための魔法だ。

生活魔法でも戦えないことはないが、戦闘魔法と比較すると大剣と包丁、溶岩とマッチの火、嵐と扇で仰ぐ風くらいの差がある。

理念的にはどちらが優れているかではなく、あくまで適材適所なのだが、魔獣討伐において必要なのは誰がどう考えても戦闘魔法だろう。

 思わずこめかみを押さえたゼイドがクロシェに確認をとる。

 

「おい、()()()()、言ってもいいか?」

 鼻と頬を指差し、ゼイドはクロシェにそう尋ねた。

最初は首を傾げたクロシェも、その指差す位置がクロシェが使った魔法に関する場所だと気づき、こくりと頷く。

 

「クロシェは、回復魔法が使える。

 結界もはれるから、戦闘魔法が使えないなら結界の中にいさせるつもりだ。

 あと、身体強化を鼻に集中させて嗅覚の機能を底上げした索敵もできる。

 今回の荷台に隠されてた魔獣の幼体に気づいたのもこいつの鼻だ。」

「……へぇ」


 クロシェを見つめるランドルフの瞳に爛々とした光が宿る。

 冒険者ギルドの任務のほとんどは魔獣討伐や護衛依頼といった怪我がつきものの荒事だ。

そんなギルドの副ギルド長が貴重な回復魔法の使い手、それも教会の手がまだ回っていなさそうな魔法使いの重要度がわからぬはずがない。

さらに、身体の一部を身体強化で強化するというのが魔法使いにとっていかに離れ業か気づかぬはずもなかった。


「もしかして、今日捕まえた奴らに拘束魔法を使ったのも嬢ちゃんか?」

「はい、そうです。」

「なるほどな……おいおいゼイド、こいつら引き合わせた俺に感謝しろよ?とんだ青田買いじゃねぇかよ」

「うっせぇよ。元々は厄介ごと押しつけてきたくせに恩着せがましいな」

「ハハっ、まぁ嬢ちゃんの能力も問題ないとわかったことだし、はやいとこ書類書いて申請すませちまえ。

 お前もそれでいいよな?」

「……はい、問題ありません。

 少々取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」


 その受付嬢の謝罪後はすんなりと申請が進み、手続きが終わると再びランドルフが口を開いた。


「それじゃあ、俺は今日の件とか諸々ゼイドと話すからアロイスとクロシェはこっちのお姉さんから初心者講座でも受けとけよ。

 冒険者のルールやマナーを一通り網羅した講座だから世間知らずっぽいお前らにはちょうどいいだろ」

「ありがたいです!ぜひお願いします!」

「ふふっ。では、下の空き部屋で行いましょう」


 そう言って立ち上がる受付嬢にゼイドは信じられないものでもみるような目を向けた。

彼女が笑ったところを初めて見たからである。そして、それはランドルフも同じだった。


「お前が笑ったとこは初めて見たな。

 意外と子ども好きだったのか」

「いえ、私は座学も嫌がらない丁寧な仕事をする人が好きなだけです。

 あとは小さい子ががんばっている姿で加点が500ほどありますね」

「もはや加点がメインだろ、それ」

「それでは私たちは講座がありますので、失礼いたします。」


 ゼイドの呟きを華麗に無視した受付嬢は、ラスヴェート兄妹を連れ席を立つ。

 パタンと扉が閉まる音が部屋に響くと室内にはランドルフとゼイドだけが残された。

 


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