探偵、解決する
猛は当然わかっていた。それが今回の依頼だからだ。
「さっきのあれあれだって、私を狙ってきたんですよね?」
死喰いの歯車のことだ。猛は掛ける言葉もなく、アリアを見つめている。
「わたしはもうすぐ、死ぬんですね」
猛が依頼されたのはアリアとの旅行。
それだけではない。
今も死の淵に立つアリアを楽しませる事、だ。
彼女の本当の肉体は今も病院のベッドで横になっている。
猛はアリアの魂を身体から抜き取り、自らの霊力で包み仮の肉体を作った。
その肉体と共にこの旧都に赴いたのだ。
「お父さんもお母さんも、わたしのこと沢山愛してくれました」
アリアの瞳から涙が零れる。
「美月さんが今もわたしの命をすこしでも生き長らえさせようと魔力を注いでくれています」
訥々と語られる彼女の思い。
猛はどんな気持でこの言葉を聞いているのだろう。
「生まれて初めて病院の外に出ました」
昨日のことをつい今しがたの事のように語る。
「旧都に来るなんて、夢にも思いませんでした」
彼女の身体が震える。
アリアの魂と身体を繋ぐ糸は今にも切れそうな程細くなっている。
これが切れた時、アリアの命はなくなるだろう。
「まだまだ生きてやりたいことは沢山ありました。でも……」
グッと涙を飲み込む。
「わたしは幸せでした。誰よりも。世界で一番!!」
ついに涙が溢れ、言葉が言葉として紡がれなくなる。
それでも猛にも。
両親にも。
美月にも。
アリアに関わったすべての人に伝わっていた。
アリアの姿が霞む。そして光の粒子になって消えていく。
「わたしはもう死んじゃいますが、猛さんは長生きして下さい。そして、わたしみたいな子を沢山助けてあげて下さい」
「アリアちゃん!」
「アリア!!」
二人の男女の叫びが聞こえる。
アリアの両親だ。
「まだ!! もう少しでもっ!!」
美月が必死に魔力を送るが、それも無駄に終わる。
肉体に魂が戻り、薄っすらと目を開く。
「お母さん、お父さん……」
「「アリアッ!!」」
両親が、ぐっとアリアの手を握る。が、その手には握り返す力は残されていなかった。
「わたし……。しあ……わせ……」
ゆっくりと瞼が閉じられる。
「ありあ、ちゃん……」
美月の大きな1つ目から涙が溢れ出る。
こうして、一つの大事な、大切な、短いながらも誰からも愛された命が終わった。
人魔探偵社事務所。
アリアの件を終えて、猛も美月も戻ってきていた。
「猛さん」
猛はなにも答えない。
「命ってなんなんですかね……」
アリアのことを思う。
なぜあのような子供が短い命を落とさなければならないのだろう。
なぜ普通の子供のように過ごすことができなかったのだろう。
「俺にもわからない。ただ……」
猛は淡々と、それでも美月を慰めるように言った。
「彼女は誰よりも幸せだったさ」




