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オルバとレアニカ

【オルバ婆さんの道具屋】。


リオレで冒険者をやっていれば、必ず一度は訪れる事になるその道具屋は、裏町といわれる旧市街にほど近い西門街と中央街の境い目にある。

表通りから一本裏路地に入るので、店の前に人通りは少ない。

道幅の狭い路地には、この時間の正午ごろしか陽も差し込んでこないだろう。


正直、レアニカはこの店がちょっと苦手であった。


最後に訪れたのは、冒険者を始めてしばらく経った頃に、パーティの先輩冒険者に連れられてやってきてから以来かもしれない。


「おやおや  、【神樹の集い】主宰サマがおひとりで なんの御用だい??」


店に入って奥を見渡すレアニカの認識の外から、そのしわがれた老婆の声が響いた。

ほとんど面識など無いはずのレアニカの身分を、さも当たり前に言い当てる老婆。

しかもその声の主が、いまだどこにいるのかも曖昧にしかわからない。


最近ではほとんど厳しい依頼を受けていないとはいえ、レアニカ・プラウバスはランクSの冒険者だ。

その気配察知能力は、視界の遥か先の魔物の気配すら感知できる程に尋常ならざるものだ。


ただの道具屋の老婆にしか見えないのに、この気配隠蔽能力と、まるで全てを見透かすかのようなもの言いが、なんとも薄気味が悪く感じてしまうのだ。

そう、まるで得体のしれない魔族を相手にしているような。


「 お久しぶりね。 ずいぶん前以来なのに覚えてくれていたなんて、嬉しいわ 」


大体の気配の元を探るように目を凝らす。

それでようやく、裏口への扉の脇の揺り椅子に座る老婆の姿を見つけることができた。


「ひっひっ、そりゃあ、 客商売だからねぇ                      で? 今日は何の御用だったかねぇ     」


客商売。。 そんな言葉がこの底の知れない老婆の口から出てくるのは、なんとも違和感しか感じないのだが。

そこはレアニカも海千山千の貴族相手にやりとりしている職がら、おくびにもださずににこやかに口角をあげておくくらいの事は、息を吸うくらいに造作もないことだ。


「 あら、ごめんなさい。  こちらにトール・エアリスがご厄介になっていると、聞いたものですから、訪ねて参りましたの 」


どういう経緯で、あのトールがこんな老婆の店に住み着くようになったのかは知らないが、だからこそ気にもなるというもの。

今朝も午前中は別件の仕事があったのだが、あまりに気になったので、早々にきり上げて出向いてきたのだった。


「 んん? トールの知り合いだったのかい? 何だよ彼奴も隅にゃおけないねぇ 」


なにぶん店内は薄暗いし、裏口への扉はガラス格子で明るく、その前に座っている老婆の顔は逆光で全く見えない。

ただ、その口調からはニヤリと笑ったような雰囲気は感じ取れた。


「 そこの階段を上がんな。 今、上で片付けしてるよ 」


そう言われる端からどんどんと老婆の存在感が希薄になっていく。

何かしらのスキルなのか何なのか。

とはいえレアニカの危機管理感覚に触れるものでもないので、敢えてそれ以上の詮索はしないでおくことにした。


それよりも、 階段  ?  上??


と、言われて初めてその老婆のすぐ脇に階上へ続く階段がある事に気がつく。

いや、どう考えてもそんな所に階段なんてなかったはずだ。 S級冒険者の認知能力が、そんな重要な要素を見逃すはずがない。

それに上階に誰かヒトが居たなら、その気配にだって気が付くはずだ。



まあ、深く考えても仕方がない。

街中の用事で武装もなく、ほぼ丸腰ではあるけれど、よもや遅れをとる事などあり得ない。

レアニカはゆっくりとその薄暗い階段を上がっていくのだった。







その日は朝から道具屋の二階の部屋を、何とか住めるように手入れしていた。

あらかた片付いて、そろそろ一息いれようかという頃。 不意に背後で階段を昇ってくる気配に気が付いた。


たぶん、あの婆さん常時展開の結界を店に張ってるのだけど、そのお陰でこの手の気配察知の感覚が狂うんだよな。

その事に文句を言ったら、修行不足って一刀両断されたけど。。。


ん、? てかあれ。


「ああ、いた居た。 久し振りね、トール 」


知ってる。

トール氏記憶にも鮮明に残ってる。


レアニカ・プラウバス


同郷の幼馴染で、歳はトール氏より丁度10コ上。

ただ、その年齢よりはずっと若く見える。

そして、リオレ所属冒険者には2人しか居ないキャンデラさんに並ぶS級冒険者。


「 あれ、レアニカ。 何でココ知ってるの?」


トールさんには初めましてだけど、ここはちゃんとこれまで通りの口調にしとかないと、な。

なんか変な感覚だな、コレ。


「 チャコちゃんに聞いたのよ。 ハイこれ。 昇級のお祝い 」


そう言って腰の鞄からクルクルと巻かれた布を取り出してよこしてきた。



☆無効のストール

☆等級 A+

☆LV ―――

☆軽度の状態異常を無効化する



うえ、。 等級A+て。所謂レアアイテムやん。

たかがB級の昇級祝いに寄越す代物ではないやろ。

さすがS級冒険者、アイテムの感覚がバグっていらっしゃる。


「いいのかよ? こんなレアアイテム 」


「 レア? いいのよ。色がトールに似合うと思っただけだから 」


あかん。このヒト。  結構壊れてるな。



☆レアニカ・プラウバス

☆種族 ヒューマン(女)31才

☆職業 クランマスター(ランクS)

☆体力 A−

☆魔力 A++

☆耐久 B−

☆敏捷 SS

☆知性 A

☆運勢 A

☆加護 雷精アストラの守護

☆所持スキル 【電光石火】



おお、敏捷SSっ!

所持するスキルは彼女特有のレアスキルで、そのままS級冒険者レアニカ・プラウバスを現す二つ名として知られている。


「 とうとう貴方も、上位冒険者になっちゃったわね 」


あ、まあ立ち話もなんだから、コレどうぞ。

【無限収納】からダイニングチェアと小さな丸テーブルを出す。

新居用に昨日買ってきた新品だよ。

ついでに茶器と、ポット。

トクトクと注ぐのは、淹れたての『あのお茶』だ。

香ばしい香りが、部屋の中に漂った。


「あら、このお茶、 レッドキャスミルね。 最近リオレで流行ってきてるのよね 」


そーなん? まあお茶なんて渋いだけのもんだと思ってたから、この風味は新鮮だよね。

てかこーいうのも流行り廃りがあるんか。


それより流石S級。 何気なくマジックバッグから出してるけど、そこには驚かないのな。


「最近やっとパーティも組んだって聞いたから、ちょっと安心してたけど、貴方も成長するのね 」


いやそら成長くらいするさ。

ま、最近のトールさんの成長は、ちょっと急激な気もするけどね。


「加護も頂いたんでしょ?」


ああ、【運命神の導き】ね。

個人的にはレアニカの雷精アストラの方がカッコいいと思うんだけど、。


レアニカは元々トール氏の生まれた地方都市の守護職騎士の家系だ。

妾の子で、庶子扱いなので家督は継げない立場だったが、産まれながらに雷の精霊の加護を受けて、武勇に優れた子供だった。 妾の暮らしなので大した教育も受けることが出来なかったが、その分街の暮らしに馴染みが深く、成長してからはまあ、街の子供たちの、ガキ大将だった。

トール氏の家も守護職騎士家の下級兵士だったので、自然と姉弟のような関係が築き上げられたわけだ。


「道具屋に間借りするなんて聞いた時には、何があったのかと思ったけど、まあまあいいお部屋ね 」


そうなんよ。

トールさんも最初はどうかと思ったんだけど、ココはあの婆さん(熟女)の各種結界が張り巡らされてて、セキュリティは万全なんよな。

裏路地の日当たりの悪さも、二階のこの部屋には天井に天窓があってなかなかに明るい。

難点は、それら各種結界を越えたり無効化したりするのに元魔王ナイフが必要なことか。

結構高度で複雑な術らしくて、トールさんにはさっぱりだったのよね。。


(いや、おぬしの魔術センスの低さは、妾もちょっとどうかと思うぞ?)


ふん。現代っ子のトールさんは魔素だの魔術だの言われてもピンとこないんだよ。

生まれた時から当たり前に魔術に触れて育ってきてるあんたらには敵わんのさ。


「 ? どうかしたの?」


ああ、いや。こっちの話ね。

ちなみに目の前に居るレアニカさんも、そんな天才肌の魔術師だ。

扱いの困難(何処に飛ぶか判らん)な電雷系の魔術を、まるで手足のように操る。  

彼女の二つ名となった奥義【電光石火】は、まさに神の御業といってもいい。


「 まあ他にも色々と聞きたい事もあるから、今日は晩ごはん食べにいくわよ? 」


あー、やっぱり?

まあなるべく、濁せるトコは濁しとこ。。。


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