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拗らせカミーユ

私はクラン【神樹の集い】に所属するドワルブ族のナイーユだ。


ドワルブ族の名前は、名・氏・姓の三つで現される。

私の場合は、ディ氏族のカミーユ家のナイーユ、という事になる。

このうち、名にあたるナイーユは、同じ氏族の者以外は呼んではいけない決まりなので、クランの皆にはカミーユと呼ばれている。

ドワルブ族は、カミーユ家の者はみんなカミーユなのだ。誰もが常に家名を背負っている訳だ。


そんなドワルブの中でも、ディ氏族はかなり古い氏族で、みな職人としての資質も高く、技量も優れている。 父と母も熟練の武器鍛冶だ。

私も幼少期から、父や母、兄から厳しく技術を仕込まれて、鍛錬も積まされてきた。

兄と違って職人のスキルには恵まれなかった私にとっては、ただただ辛い修行の日々だった。

我ながら、かなり灰色の青春時代だったと思う。


四十手前でようやく成人として認められ、冒険者クランを主宰するユザミ叔父を頼って商都リオレに出てきて4年が経った。




いや、 リオレ、最高スギ。


ココには様々多様な文化がある。

古くからの伝統もあれば、斬新で先鋭的な革新もある。

故郷の古い街に居ては一生お目にかかれない程の煌びやかな世界が、その辺にポロポロ落ちてる。

私の人生には、ある日偶然拾った一冊のBL小説から、そんな鮮やかな色が付けられたのだ。


BL。 ボーイズラブ。

修道士と冒険者の、ひと夜限りの道ならぬ愛。。

そんな内容の小説を、私は一気に読み通してしまった、。


こんな世界があったのか。。。

私は、、簡単にハマった。

もうそれ以外は、何一つ頭に残らないほどに。


細かい描写は、偉い人に怒られそうなので割愛するが、私の妄想は日々膨らんでいくばかりだった。


見かねた叔父の口利きで、女性のみで構成されたクランに転籍し、幸いにもパーティにも恵まれて最近になって妄想癖も落ち着きだしたのだが。。。




同じパーティに所属するチャコちゃんの先輩冒険者で、同じC級のトール。

ああ、この前の試験で我々ふたりとも昇級したから、今はB級だけど。

そんな、中堅にもなって実力もあるのにソロで活動している変り者。  

せいぜいその程度の認識だった男が、ある日パーティを組んだ。


その相手が、なんと祭祀教の司祭!


キタッ☆ リアル、キタっ!!

しかもその司祭が、筋肉モリモリのマッチョ!

ヤバい、過呼吸でタヒにそうっ。

私の妄想では、筋骨逞しい冒険者に手籠めにされる美しい修道士、っていうシチュだったから、ちょっと立ち位置が逆なんだけど、いやそれもまたリアルで捗るはかどるでゅふぅ。


もー、なんか彼らのやる事全てが妄想に繋がる。

のふぅ、たまらん。


あ、いかん。 また鼻がツーンて。。。



こうして私の人生に、初の【リアル推し】が出来た。








「 、、カミーユ? ?」


【神樹の集い】主宰のレアニカ・プラウバスの、長くしなやかな銀髪が少しだけ揺れた。


「 、、あー、すみません、 うちのリーダー、偶にトリップしちゃうんです」


執務室で報告を受ける彼女の前に、依頼に出ていた格好そのままのカミーユとブルーダ、チャコの三人が座っている。

報告は主にこの三人のうち、中衛魔法職のブルーダが担当していたが、その最中でカミーユが何の前触れもなく鼻血を垂らし始めたのだ。


慌ててチャコがカミーユの鼻に小さなタオルをあてて、丸太のような首をトントンと叩いた。


「 お部屋、暑かったかしら?? 」


「や、快適ッス! 問題ないッス。」


とは言われても気にはなるが、。

ともあれ、レアニカは手元に差し出された筆記官からの書類に目を落とした。

冒険者からの口頭の報告を、その場で筆記に起こす【筆記】というスキルを持つ女性を、最近雇えたのだ。

【神樹の集い】に所属する冒険者は、そこまで識字率が低くはないが、それでも書類仕事が苦手な者が多い。


「 他に何か追記事項は、あるかしら?」


「  あ、ああ、これは調査依頼とは、別なんですが、」


タオルを押さえながらの、少し鼻声のカミーユがきり出した。

なにかしら切り替えができたのか、先程までの間抜けた頬は、今はしっかりと引き締まっている。


「 主宰、確かトールとは馴染みだったと覚えているのですが、 最近会われたりしていますか?」


「え? いえ、最近、は、 、直接会ったのは確かトールが王都に行く前だったような  」


なにぶんレアニカもクラン運営に忙しい日常だ。

結婚の適齢期など、とうの昔に過ぎ、このままでは完全に行き遅れである。

同郷で弟分のトールにも常々小言をもらっていた訳だが、その最後の記憶がもうずいぶん前だった事に改めて気がついた。


「 主宰の馴染みにこう言うのもなんですが、トールってあんなに強かったでした??」


「あー、それな。 アタシもソレは思った。 」


カミーユの言葉に、ブルーダも同意する。

自然にレアニカの目線は、残る一人のチャコへとのびる。


「 へっ? あー、トールさん加護ついたあたりからなんか変わったッス。 強い、、のは前からだったような気がするッスけど〜」


加護。

死地を彷徨った冒険者や兵士、何事かの大業を成した熟練の職人など。

ごく稀に後天的に【神々の加護】を授かる者がいるという話は、たまに聞く。

一部の祭祀教の修道士などは、その加護を得るために厳しい修行を自ら課す、などというらしいし。


レアニカの中のトール像は、鼻垂れの子供の頃から面倒をみてきた同郷の男で、人付き合いが苦手で妙に頑固なちょっと変わり者、といった感じか。

確かに、ロングソードなどという冒険者に不向きな得物を器用に扱うところがあって、実力的にはとっくにB級に上がっていてもおかしくないとは思っていたのだが。。


「ふむ、加護か。。  何の加護だか知ってる?」


「やー、。 聞いたんスけど、 なんだっけ??」


チラリとカミーユとブルーダに視線を送ってみるのだが、彼女らも小さく肩をすぼませるだけで良くは知らないらしい。

まあ、自分の手の内をさらけ出す冒険者のほうが少ないわけだし、聞く方もそれなりに配慮をするのが暗黙の了解だ。

ブルーダはともかく、カミーユなら知っていたとしても了承なく他者に情報を漏らすような事はしないだろう。

それがたとえクランリーダーであっても。


明日は確か半日時間がとれたはず。

久しぶりでもあるし、先輩冒険者かつ幼馴染みのお姉さんとしては、昇級の祝いもしてやらねばなるまい。

トールの定宿の【運河の畔亭】の料理も、そろそろ恋しくなってきていた頃だ。


「あー、トールさん、引っ越すらしいッスよ?」


「 え? そ、そうなの? 」


「はいッス。 たしか明日からは、裏町のトコのオルバ婆さんの道具屋だったと思うッス」


 


「 え??    道具屋? ?」


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