盗賊狩りが始まった
雲が空を覆い、黒く重い帳が下りた夜の山の中。
幸いなことに、少し風が吹いていてザワザワとしたホワイトノイズが山全体を覆っている。
そんな中。
獣道のような、うっすらとした踏み跡を的確にルートファインディングしながら素早くかつ無言で駆け抜けるふたつの影。やや進路をズラしてそれを追うように駆けるひとつの影。
トールさんは、少しだけ先をガンガン進むバースくんを見失わないように必死についていくのだが、メリッサさんが少し離れてる。
でもちゃんと尾いてきているということは、アレが彼女の間合いなのか。
さすがはA級。
トールさんなんか先行するバースくんというお手本がなかったら、このスピードでは行動できんよ。
谷を下りきって、小川を越えて岩混じりの尾根へ取り付く。
しばらく登ると、先の岩棚に複数の人の気配がひっかかった。
巧みに遮蔽して隠されてはいるが、よく目を凝らせばチロチロと篝火のような灯りも見える。
バースくんも当然気が付いたようで、岩陰に潜んで先を窺っているようだ。
そっと近づいて合流すると、少し遅れてメリッサさんもやってきた。
岩棚はかなり広く、そこを中心にして山の斜面にへばりつくように簡素な屋台組のバラックがひしめいている。
ほとんど寝静まっているのか、音は静かだがいくつかの篝火が焚かれて人の気配もする。
斜面の角度的に、それより上はちょっと見えないな。
「我々のパーティは2番手だ。 もうひとつのが仕掛けたあとを、追い打ちで乱戦に持ち込む。」
トールさんもバースくんもだけど、メリッサさんも息ひとつ切らしてない。
体力、耐久が高いとこれくらいの登山行では、全く疲れないんだな。
「先手が仕掛けたら、バースとトールは混乱に乗じて追い討ち。 討ち漏らしは私が矢で仕留める。」
言いながら懐から真っ白い大きな布を取り出して首に巻き付けた。
トールさんもバースくんもそれに倣って白い布を首に巻く。
闇夜でも目立つ、乱戦でのフレンドリーファイヤを防ぐ目印だ。
バースくんは肩に2本のナイフを着けているので、絡まない様にクルクルと巻いて着けていた。
トールさんも背中に回したボディバッグから【無限収納】経由で刀を取りだして腰に下げる。
てかもう、完全に討伐なんだな。
生捕りとかは二の次なんだ。
さすが異世界、容赦なしやん。
「なんだおめぇ、ビビってんのか?」
あかん。バースくん既に目が爛々としとる。
肉食系の獣人族はテンションが上がると制御が怪しくなるってのは聞いたことあるけど。
「なあに、オレサマの後について来りゃあ何時でもフォローしてやんよ」
あー、大丈夫そうかな。
確かにバースくんはアホっぽい所もあるけど、基本的には下の面倒見のいい兄ちゃんだ。
まあ、トールさんにフォローは要らんと思うけど。
背後に居るメリッサさんから短いため息が漏れたその時。
山の斜面の大きな岩棚に器用に掘っ建てられたバラック群の端が、いきなり爆発する。
「ヨシッ行くぜっ!」
弾かれるようにバースくんが一気に斜面を駆け上がり、爆発の余波が残るバラックへと突っ込んで行った。
いや、速いわ。さすが獣人族。
多分トールさんの瞬脚並みの速さだ。
続いてトールさんも駆け上がって行くが、完全に置いていかれる。
でもそのおかげか、周囲の状況を観察する余裕が生まれた。
まずこの岩棚のバラック群。
規模的には30人くらいは生活が出来そうではあるが、その規模の山賊団の本拠地としてはちょっと物足りない。
、てことは、、
「バースさん! もいっこ上だっ!!」
山の斜面のもう少し上。
下から見ると窪んでて見えにくいが、ここよりもう少し大きい建物が斜面にへばりついている。
この爆発の騒ぎで一斉に灯りが点いて全体像が浮かんで見えた。
瞬間、その建物の一部が再び轟音と共に弾け飛ぶ。
続けてもう一発。
斜面の下に居るトールさんとバースくんは、モロにその破片を浴びる事になった。
誰かは知らんが、攻め手のスキルかアイテムだな。
派手にやってくれる。
「チィッ!? そっちかいッッ!!」
言うが早いか、バースくんは降ってくる瓦礫も構わずに斜面を駆け上がる。
、、そこ、ちょっとオーバーハングしてる崖なんだけど。。
さすがにトールさん、ついてけないっすよ?
獣人の身体能力に唖然としているうちに、あたりに舞っていた土埃が収まってきた。
この段のバラック群。
いくつか微妙な弱さの気配があるんだけど、その中でどうにも気配察知にビンビンと引っ掛かるのが2つあるんだよな。
左手で鞘から鎺を切る。
感覚を研ぎ澄ますと、明らかに殺気の籠った敵意がふたつ。
ぬるりと脚を滑らせて間合いを詰める。
腰に溜めた鞘から、ひと息で抜刀。
バラックの薄い壁ごと柱までを両断する。
抜けた腕に、わずかに肉を断つ感覚が伝わり、壁の向こうで軽鎧ごと胴を真っ二つにされた山賊の男が崩れて落ちた。
「 こんのヤロウっ! 」
もうひとつの殺気が背後から迫るが、声を上げちゃあかんやろ。バレバレや。
まあ無言でもこれだけ気配垂れ流しなら一緒か。
振り切った勢いを乗せてそのまま腰を落とし左脚を軸に半回転。
右足の踵を返して下から上に逆袈裟に斬り上げると、これまた僅かな感触でロングソードを振りかぶった男を斜め上へと斬りとばした。
ちょっと浅かったか?
だけど、その瞬間に頭に矢が突き立つのがチラッと見えた。
哀れな男はその威力をモロに食らって首から上がもげて飛ばされたみたいだ。 グロい。
どこから射ったのかわからんけど、メリッサさんだな。
トールさんにとって、初めての人斬りだ。
でも特に何も感じないのは、トール氏の記憶のおかげか、はたまた謎の【異世界知識】か。
で、再び上の段からド派手な爆発音。
バラバラと大小の瓦礫が降ってくるのと、その音に掻き消されるような小さな悲鳴。
子供の短い悲鳴だな。
どうやらこのバラック群は、山賊団の戦利品倉庫だったみたいだ。
規模の大きな隊商でよく見る規格の木箱があちこちに置いてある。
山賊の戦利品といえば、商品金銀財宝が思いつくけど、実際のところ、より大きな稼ぎは「ヒト」らしい。
この国では表向き奴隷制度は禁止とされていて、存在しない事になっては、いる。
ただ、ほんの数十年前までは普通に存在していた制度だ。
むしろ法による制度が無くなったおかげで、いまや奴隷の売買は完全に裏社会の産業となってしまっている。すっかりとアンダーグラウンドの市場が出来てしまっていて、おいそれと手を出せない規模になっているらしい。
よくある話よな。
ただまあ、現代日本に住んでいたトールさんにとっては、あんまり気分のいい話ではないな。
「我々はリオレの冒険者だ! 攫われてきた子は、居ないかっ?」
なるべく柔らかい感じで、と思ってはいても、気分が高揚してるんだな。
ちょっと怖かったかな。
瓦礫と化したバラックを、目に止まるモノからガンガンと【気化】していく。
夜で人目もないから、とにかく【気化】しまくる。
最近気がついたんだけど、【気化】したものをさらに【気化】させることができるようになってる。
重ね掛けすると、靄すら消える。
なんともファンタジー。
そうやってどんどん消し去っていくと、山側の岩壁に鎖で繋がれた子供が数人見つかった。
「 攫われてきたのか?」
大丈夫だよーー。
おじさん怖いヒトじゃないからねーーー。
「 、と、 とーちゃん?」
・・・・ へ ??




