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◆第5話『“お腹の中”と“ステージの上”──ふたつの命を守るために』



 


 6ヶ月目。妊娠、折り返し。


 彼女――如月美咲は、今日もAV女優として“表の顔”を演じながら、

 裏では“母になる準備”を、静かに、しかし確実に進めていた。


 


 俺――高村悠人は、マネージャーであり、彼女の夫であり、そしてもうすぐ父親になる男だ。


 彼女が“引退しない”と宣言してから数週間、

 現場の撮影は最小限に抑え、雑誌や配信系のソフトな露出に絞っていた。

 それでも、撮影が入れば彼女は衣装に袖を通し、レンズの前で“如月美咲”に戻る。


 だが、最近の衣装合わせでは、さりげなくワンピースやジャケットなど、体型を隠すものが増えてきた。


 それに、現場で彼女が座る椅子の近くには、必ず俺がいる。

 倒れそうになったとき、支えられるように。

 トイレが近くなった彼女のスケジュールに、休憩時間を挟むために。


 


 ――地味だ。地味だけど、これが俺の戦いだ。


 



 その日。

 午前の撮影を終え、スタジオ裏の搬入口で俺は彼女を待っていた。


 出てきた彼女は、いつもの清楚なワンピースに、ほんのり汗を浮かべていた。


「……ふぅ、暑い。しかもお腹、重くなってきた気がする」


「だろうな。そろそろ撮影、もうしばらく休むか?」


「ううん、大丈夫。動けるうちは動くよ。……それが私の“証明”だから」


 そう言って笑う彼女の目は、強かった。

 母親としての顔と、女優としての誇りが、同じ場所に宿っていた。


 



 午後。自宅リビング。

 エアコンを効かせた部屋で、彼女が小さなベビー服を広げていた。


「ねぇ見て。これ、買っちゃった。可愛くない?」


「……お前、それ生まれるまで我慢するタイプじゃなかったんだな」


「ふふ、どうせなら早く“家族の準備”したかったの。……だって私たち、普通の家族になれないでしょ?」


 


 その言葉に、思わず黙る。


 そう――この家族には、“公にできない秘密”がある。


 如月美咲は、人気AV女優。

 その彼女と、交際0日で籍を入れた俺。

 しかも、妊娠は公表していない。彼女が出産しても、現役は続ける。


 


「きっとさ、この子が大きくなったら聞くと思う。“ママ、なんでテレビに出てるの?”とか、“ママの仕事ってなに?”とか」


「……そのときは、正直に話すか?」


「ううん、“正直に話せるように生きる”って決めたの。嘘つかなくてもいいように、恥じないように、女優でいたい」


 その決意に、俺はもう何も言えなかった。

 この人は、やっぱり強い。俺なんかより、ずっと。


 



 夜。


 風呂上がり、髪を乾かしながら鏡を見ていた彼女が、不意に言った。


「ねえ……私の身体、変わったと思う?」


「……変わったよ。前よりもっと綺麗になった」


 嘘じゃない。

 少し丸みを帯びた腰も、柔らかくなった肌も、どれも愛しくてたまらない。


「ふふ……ありがとう。そう言ってくれるの、悠人くんだけだよ。……“現場”では、見せられない身体になってきてるから」


「それでも、俺には一番きれいに見える」


 


 その夜、彼女は俺の隣で、そっとつぶやいた。


「もし……この子が生まれても、私、変わらず愛してくれる?」


「当たり前だろ。……むしろ、もっと好きになる」


「……そっか。よかった」


 微笑んで、彼女は俺の胸に顔を埋めた。


 


 そして、こうも言った。


「私、ちゃんと戻るよ。“如月美咲”として。出産が終わったら、もう一度、撮影に戻る。……それが、私の証明だから」


 


 つまり、彼女はもう覚悟を決めている。


 出産しても、終わりにはしない。

 “AV女優として復帰する”と。


 


 ――俺はその未来が、怖くなかったわけじゃない。


 けれど、彼女がそこまで覚悟をしているなら、俺もまた、夫として・マネージャーとして――支える覚悟を決めるしかない。


 


 彼女の身体の中で、新しい命が育っている。

 そして彼女自身も、“女優としての誇り”を育てている。


 


 両方を守るために、俺はまた明日も、彼女の隣に立つ。


 きっとこれは、普通の家庭じゃない。

 だけど、間違いなく俺たちは“家族”だ。


 


 秘密のままでもいい。

 この日々を、俺は誇りたい。


 



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