◆第6話『真実は、私だけのもの――暴かれても“母”は語らない』
それは、一本の電話から始まった。
「――失礼します。週刊スパーク編集部の者です。こちらに“如月美咲さんの私生活”に関する、いくつかの“確証”が届いておりまして」
電話の相手は、静かに、だが確実に“追い詰める者”の声だった。
「すでに、目撃証言と共に“ベビーカーを押している女性”の写真が届いております。マネージャーと思しき男性と共に写っており――」
その声は途中から聞こえていなかった。
俺の心臓は、ただ“終わりの音”だけを鳴らしていた。
◆
リビング。
美咲は、報告を聞いても、驚かなかった。
むしろ――どこかで覚悟していた表情をしていた。
「……撮られたのね。ようやく」
「今は、記事になるかはまだ分からない。だが“決定的な一枚”が出回れば……」
「いいよ。構わない」
彼女の目には、一切の動揺がなかった。
「でも、“母であること”は絶対に、私の口からは言わない。“妻であること”も。……絶対に、誰にも」
「……それで後悔しないか?」
「後悔しない。私は、AV女優として選んだ人生を、守る。家族を守るために、語らない。それが私の“責任”」
静かに、強く言い切るその姿に、俺は言葉を失った。
◆
その数日後――
AV関係者の小さな飲み会の席で、俺は偶然にも、一般の3人の男性と会う機会を得た。
彼らは関係者の紹介で来た“業界ファン”だった。
一人の男――30代後半の編集者らしき男が言った。
「……俺の母親、昔、AV女優だったらしいんですよ。知ったの、25の時」
「……え?」
「誰にも言われなかった。家族は隠してた。でもな、隠してたからこそ腹が立ったんすよ。“俺には話す価値もなかったのか”って」
二人目の青年――大学生風の男が言った。
「俺、現役でAV見てて……たまたま、顔に見覚えある子出てきて。まさかって思って調べたら――母親だった」
「……それ、耐えられるか?」
「最初は……無理だった。でも、最近思ってきた。“親が何やってても、結局、俺の人生は俺のもんだ”って」
「……今は?」
「うん、今は受け入れてる。“母”である前に、“一人の女性”なんだって」
三人目の男は、何も言わず、ただ頷いてグラスを傾けた。
◆
帰宅後、双子はすでに眠っていた。
美咲は、テレビの光だけが照らすソファで、髪をほどいていた。
「……どうだった?」
「話してた男たちの中に、“母がAV女優だった”ってやつがいてな。全員、いろんな形で受け入れてた。怒ったやつも、気づいたやつも、黙ってたやつも」
俺は、美咲の手を取った。
「……だからって、公表しろとは言わない。ただ……何があっても、堂々と胸張ってろ。お前がやってきたことは、何も恥じるものじゃない」
「……うん。でも、私は“語らない”。この子たちが大人になって、もしそれを見つけて――その時に初めて“母”であることを向き合わせたい。今は、違う」
「……わかった」
◆
翌日。業界内のLINEグループで、誰かがこう呟いていた。
「如月美咲、結婚してる説ってマジ? 最近、匂わせヤバくない?」
「現場で“お母さんみたい”って言われても、否定しないってマ?」
「AV界、また神殿級スキャンダルくるか……?」
世間は、少しずつ“真実”に近づいている。
でも――彼女は、何一つ語らない。
その沈黙が、彼女にとっての“覚悟”であり、“母としての愛”だった。
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