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神の傭兵 ~ Twin ✕ Oblivion ~  作者: コーポ6℃
第四章:死闘オルドフェルム
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第28.5話:王女の手紙

 数多くある豪奢な客室の一つ。上質なテーブルに突っ伏し、亡国の王女は酒が入ったグラスを片手に、ボロボロと涙をこぼしていた。



「ぐす……ぐすっ……ふえぇん……」

「カティナ様、もうそれ以上は……」


 泥酔しつつあるカティナを案じ、ミルタンが静かに声を掛ける。しかし彼女は、涙目ながらも威圧感を込めて彼をキッと睨みつけた。



「なによぉ。こんなにあるんだからいいでしょ」

「いえ、そうではなく。カティナ様のお身体が……」


「国を奪われ、奴隷に身をやつし、戦士として完敗した挙句、女としてのプライドもズダズダにされたのよ!? お酒ぐらい飲ませてよ!」

「心中、お察しします」


 彼女が辿ってきた過酷な運命(半分はドレイクのせい)を思えば、酒に逃げて涙を流すのも無理からぬことである。

 だが、現在カティナの胸を最も占めている悲しみは、そのどれでもなかった。



「ぐす……私だって、軽々しく身体を預けようとしたんじゃないもん……」


 死闘を通じて触れた、ドレイクという少年の本質。それに惹かれ、王国の復興という打算と、一人の乙女としての純粋な好意が交わったからこそ、彼女は彼を自室へと誘ったのだ。



「あれじゃ私、ただの色狂いの淫売じゃない……そんなつもりじゃなかったのにぃ……」

「ドレイク様は、少し鈍感なところがありますので」

「あれのどこが『少し』なのよ!!」


 ドレイクの心を占めているのは、プリメッタという少女のことだけ──他の女が入り込む余地なんて無い。

 

 その事実を嫌というほど思い知らされただけでなく、プリメッタに真っ向から放たれた『ドレーくんの何が分かる』という鋭い言葉が、今もカティナの脳裏で何度も反芻されている。



「私だって気付いたもん……分かってたんだもん……」

「売り言葉に買い言葉。感情的になった時は、思わぬ言葉が出てくるものです。きっとプリメッタ様も、そんなカティナ様のお心を理解されてると思いますよ」


 ミルタンの穏やかなフォローに救われたのか、カティナの強張っていた肩の力がふっと抜ける。しかし、すぐにまた重いため息をつき、グラスへと暗い視線を落とした。



「謝ろうにも、どんな顔して二人に顔を向ければ……」

「そのお心だけで十分だと私は思いますが、もし謝罪の意を伝えたいのでしたら、手紙を書かれてはどうでしょう?」


「手紙?」

「はい。直接会うより、その方が素直にカティナ様のお心を伝えられるのでは?」


 まるで暗闇に差し込んだ光を見つけたかのように、カティナはパッと顔を輝かせて何度も頷いた。



「……そうね。うん、そうするわ!」

「今は大変酔われています。酔いがさめましたら、お二人に手紙を書きましょう」

「ええ!」


 吹っ切れたように元気な声を上げると、これで終わりとばかりにカティナはグラスの酒を一気に飲み干した。


 生来の快活さを取り戻したカティナの目の前に、ミルタンは流れるような所作で紙とペンをスッと差し出した。


 

「ん……後で書くんじゃないの?」

「その前に、別の二人に手紙を書いて欲しいのです」


「別の二人?」

「グレイ様とバルドリク様にです」


「あの二人に何を書くの?」

「勝負に敗れた無念、屈辱、二人に全てを託す旨などを綴っていただければ」

 

「いや、ちょっと……そんなの、このタイミングで書かせる?」

「このタイミングだからです。酒に震え、涙を滲ませている。今のカティナ様なら、きっと素晴らしい手紙が書けるはずです。それが二人の闘争心を燃え上がらせ、最高の戦いを演出することでしょう」



「……やっぱり、ロヴァニア帝国って嫌い!!」


 立ち直った気分を最悪な形でへし折られながらも、泣く泣くペンを握るカティナであった──。

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