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終わりの終わりの後の世界  作者: ぷいぷい
19/21

第18話

「マズいことになった」


 財前(ざいぜん)は俺を屋上まで連れ出してそう言った。

 朝礼前に勢いよく教室の扉を開けて、悪目立ちするほど大声で呼び出されたと思ったら急になんなんだ。


「ワンコーくんの着ぐるみが盗まれた」

「はあ」

「なに呑気な感じ出してんだよ! これお前が想像してるよりヤバいことだからな!」

「だってあれただの着ぐるみだろ」


 ワンコーくんは中の人であるアイが凄まじいだけで、着ぐるみになにか途轍(とてつ)もない力が宿っているわけではない。

 ワンコーくんが克服者であることは明言されていないが、盗んだやつも着ぐるみにスーパーパワーを期待したわけじゃないだろうにご苦労なことだ。


「着ぐるみがないとアイは色々制限されるんだよ。アイの力は規格外過ぎるし、まだ幼い。本来なら厳重な監視の元、その力を使わないで生活してもらうのが好ましい。ってのが偉い人の見解だよ」


 国を滅ぼした克服者はphase5を含めても彼女しかいない。それだけアイは特別であり、政府からは危険視されている。


「アイがワンコーくんとして活躍してるのは、あいつがその偉い人たちと契約を結んでるからなんだ」

「契約?」

「1つ。匿名で犯罪解決の協力をする代わりに監視の緩和。匿名ってのがワンコーくんのことな」


 そんな理由であんなゆるキャラもどきをやってたのか。


「まさか、普段のアイとワンコーくんの話し方が違うのも身バレ防止のためか?」

「いや、あれは子供受けがいいからやってるらしい」

「…………」


 今、アイのニヤけ顔が目に浮かんで少し腹が立った。


「2つ。もし何かが原因で匿名性を保てない場合は、その原因が解決するまで厳重な監視をつけた上で拘束する」

「拘束って……随分穏やかじゃないな」

「この拘束ってワードのお陰で簡単に契約できたってアイは喜んでたよ。だが、まさかこんなことになるなんて……」

「なるほど、ようやく理解してきた」


 だから昨日、俺のところに来なかったのか。妄想のアイに腹を立てる場合じゃないくらいに、彼女は今切迫しているわけだ。


「本当に理解してるか? いいか? そんな契約もあって、ワンコーくんの着ぐるみはお前が思ってるより大切に保管されてる。それを盗まれたんだぞ」


 財前の言葉と共に、俺は昨日の襲撃を思い出していた。

 俺を襲った克服者は俺の過去について知っていた。つまり──。


「つまり、着ぐるみを盗んだのは警察や政府の関係者の可能性が高いってことだ」

「……俺もお前に話さないといけないことがある。昨日phase3の克服者に襲われた」

「はあ!?」


 俺は財前に昨日のことを話した。

 例の自殺志願のある克服者に襲われたこと。そいつは俺の過去を「あの人」という人物から教わったということ。「計画の日」なるものがあること。


「──マジかよ。お前のことを知ってるってことはレジスタンスの連中だろ?」


 俺たちはパンデミックの中でゾンビに対抗する為に武装した集団──レジスタンスを結成した。俺や財前はそのレジスタンスの中心的存在だった。

 パンデミック収束後、レジスタンスの仲間は自分の正義を信じて警官になった者、政治家になった者が多い。だから一教師の財前がここまで警察の事情に詳しいし、俺もアイから色々話を聞ける。


「例の自殺志願の克服者を唆している人物がレジスタンス関係者で、着ぐるみを盗んだ奴が警察や政府の関係者……あまりに上手く出来てないか?」

「だな、同一人物の可能性が高い……ああもうどうなってんだよ!」

「落ち着け──」

「うるせえ‼︎ レジスタンスの仲間ってことは果穂(かほ)のことを知ってるやつらだろ? 克服者が人間だって痛いほど知ってるやつらだろ‼︎ なのになんでこんなことができんだよ……」

「財前……」


 財前の怒りと悲しみが混じった顔からは涙が滴り落ちた。それを乱暴に拭うと今度は俺に見せないように俯く。


「悪い。取り乱した」

「いや、いいよ。やっぱお前は良いやつだな」


 きっとこいつのこういうところが教師に向いているんだろうな。

 すると、財前は顔を上げ、覚悟を決めた表情を見せてポケットから携帯電話を取り出した。


「……アイから伝言を預かってる」

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