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終わりの終わりの後の世界  作者: ぷいぷい
15/21

第14話

………………


「大丈夫? 噛まれてない?」

「何を──」

「って、あなた銃持ってるの!? すごい! 警察のゾンビから奪ったとか? たくましいねえ」


 何を言ってるんだこいつ。


「おねーちゃん‼︎」


 彼女が声のした方向へ振り向く。俺も釣られて目線をやると、小学校高学年くらいの女の子が泣きながらこちらに駆け寄ってくるのが分かった。


志保(しほ)、路地は挟まれて危ないから待っててって言ったでしょ?」

「だっておねーちゃんが心配だったんだもん」


 また、目撃者が増えた。流石に3人は足がついてしまう。どうしたものか。


「とにかく、あなたもさっさと路地を出るよ」

「お、おい」


 考えている隙に無理矢理手を引かれて路地から出ると、異世界に来たような景色が目の前に広がっていた。


「なんだよこれ……」


 人を襲う人。建物から上がる火の手。なにより、遠くに見えるスカイツリーを覆うとぐろを巻いた黒くウネウネと(うごめ)く物体はこの世のものとは思えなかった。

 仕事上、修羅場はいくつも掻い潜っているつもりだったが流石に気がどうにかなりそうだ。


「ねえ、取引しない?」


 そんな中、少女の声が俺をどうにか繋ぎ止めてくれた。


「私たちはあのスカイツリーから逃げてきたの。だからあなたの知らない情報をたくさん知ってると思う。その情報と交換で一緒に行動しない?」

「お前たちはこの状況を説明できるのか?」

「ある程度はね」

「……着いてこい」


 とにかく、今の俺には情報がいる。安全な場所と、万が一のために弾も必要だろう。となると1度事務所に戻った方がいい。


「取引成立ってことでいいよね? 私は相坂果穂(あいさかかほ)。こっちは妹の志保」

「……赤場栗栖(あかばくりす)だ」

「栗栖ね。ちょっと寄り道していい?」

「どこに?」

「スーパーマーケット!」


〜〜〜〜〜〜


「で、そこの嬢ちゃんの情報が必要で事務所にあげたワケね」

「そう言う訳だ、財前(ざいぜん)。他のみんなは?」


 事務所にはついさっき電話でやりとりした財前が1人だけ残っていた。


「もう帰したよ。こんな状況だしな」


 財前や俺と違って他の組員は家族がいる。財前の計らいで皆を家族の元へ帰したのだろう。


「事務所はまだ安全そうだな」


 元々、襲撃に備えて普通の建物より頑丈に作られているだけあって無事だったみたいだ。

 「任侠」と書かれた掛け軸。実物の刀を握った鎧武者の置物。硝煙と煙草の混じった匂い。やはり見慣れた場所は落ち着く。


「あのー。ここってもしかしてなんだけど……」


 果穂は先ほどまでの快活な態度より少し控えめに俺と財前の会話に割って入る。

 よく見ると志保の方はぶるぶると震えて今にも声を出して泣きそうでいた。


「……お前もしかしてこの子たちにどこに行くか伝えてなかったの?」

「急ぎだったしな」

「馬ッ鹿! おまッ! 馬鹿! いきなりヤクザが未成年の女の子を事務所に連れ込むとか明日のニュースは決まりだよ!」

「あっ、やっぱりヤクザの事務所なんだね」


 そう、ここは財前組事務所。財前組は先々代から50年続いているこの街では古株の暴力団体。つまるところヤクザ事務所だ。

 やばい。志保が今までの支えが取れたように泣き出した。とりあえず匂いを消すために窓を開けてやろう。


「あー。状況が状況なだけに考えてなかった。それに明日のニュースは今日の騒動で決まりだろ」

「そう言うことじゃねえ! モラルの問題って言ってんの!」


 ヤクザがモラルの問題を解いてきた。世も末だな。世も末だけど。

 今度は果穂まで(うずくま)ってぷるぷると小刻みに震えている。財前は2人の少女たちを交互に見てあたふたしているし、どうやら話ができる雰囲気じゃないみたいだ。


「じょ、嬢ちゃんたちも1度落ちつ──」

「よし! 当たり引いた!」

「え?」

「だってヤクザって拳銃いっぱい持ってるんでしょ? 絶対安全な場所じゃん」

「か、変わった嬢ちゃんだな」


 驚いたことに果穂は恐怖で震えていたわけではなく、喜びを噛み締めていたようだ。随分肝がすわっている。


「話せるなら情報を早く教えてくれないか?」

「話の前にやらないといけないことがあります」


 果穂は急に立ち上がって、先ほどスーパーで取ってきた食材が入ったビニール袋を勢いよく突き出した。


「晩ご飯にしましょう」

「は? お前今の状況わかってんのか?」

「どうやら分かってないのは君のようだね栗栖くん。いい? こんな事態いつ収束するか分からない。1週間かもれないし、10年かもしれない。そうなったら美味しい食事なんて当分できないんだよ」


 確かに、時間が経てば電気が使えなくなるし、ガスも止まる。食材は腐って食べれるのは保存食だけになるのか。


「特に肉! 魚! 新鮮に食べれるのは今日だけかもだよ。最後くらいぱーっとしないと!」

「で、電気が止まる前に早く作ろう! 俺も何か手伝うよ」


 財前はまんまと果穂の口車に乗せられたようで、まだまだ説明を聞くには時間がかかりそうだ。


「はあ……分かったよ。俺は何すればいい?」

「志保をあやしといて、ずっと泣いててかわいそう」

「…………」

「あっ、豚肉、牛肉、鶏肉、鮭、カレイ、海老と色々取ってきたけど、栗栖はどれにする?」


 別に何でもいいがせっかくなら好物がいい。


「豚肉、出来るなら豚カツがいい」

「おっけー。じゃあ私は鮭にしようかな」


 それだけ言って果穂と財前は台所へと姿を消した。

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