第11話
どうやら志保は俺が自炊をすること自体が自分を丸め込む言い訳だと思っていたようで、俺が鮭のホイル焼きのレシピを聞くと少し驚いた顔をした。
教えてもらった食材の2人分の量を買うと、俺は昨日訪ねた家の前まで来ていた。
しかし世話係になったは良いが、それは俺とアイとの間で勝手に決めたことであり、当の本人は知る由もない。だから当然、インターホンを鳴らしても昨日と同じであちらから扉を開けてくれることはないだろう。
だが、これもまた昨日の経験で彼女を誘き寄せる算段は整っている。
「ん゛ん゛。あ゛ーあ゛ー。すいませーん。ウーバーなんですけど」
「え? あっ、はーい」
ガチャリと扉が開く音がした。相変わらず素直すぎる。罪悪感を覚える以前に流石に心配になってきた。
「すいません。私ウーバーなんて頼んでないです。多分住所を間違えてるん……じゃ……」
やはり果穂に似ている。しかし2度目なだけあって平静は保てるようだ。また要らぬ心配をかけたくはなかったから良かった。
「よっ!」
「……またあなたですか。早くプリントを渡して帰ってください」
「今日は話を聞いてくれるんだな」
「不法侵入されたらたまったものじゃないので止むを得ずです。早くしてください。嘘つきがうつるので」
「悪いが今日はプリントを持ってきた訳じゃないし、ウーバーってのもあながち嘘でもない」
持っていたスーパーのレジ袋を見せると、彼女は不思議そうな顔をした。
……よく考えたら俺。結構ヤバいやつなんじゃないか?
昨日知り合った女の子と一緒に夕食食べるためにその子の家まで食材持ってくるとか、ストーカーでももっと落ち着いてるぞ。
「俺はプライドを捨てる……俺はプライドを捨てる……」
「え? 急にブツブツ小言でどうしたんですか?」
まずい、自分を言い聞かせているうちにまた彼女が警戒しだした。これ以上もたもたしているとまた家に篭ってしまうかもしれない。
そういえばお隣さんが作りすぎてお裾分けするみたいなのをどこかで聞いたことがある。
「夕食作りすぎちゃう予定なんだが、良かったら一緒に食べないか?」
「……き、気持ち悪い」
「ぐぅ‼︎」
エグいストレートな暴言が飛んできた。
「ち、違うんだ。昨日の健康管理の延長でな? 料理を振る舞って欲しいって言われたんだよ」
「……それなら結構です。昨日も言った通り、健康面は1番に気を使ってます」
すると、彼女はどこからか大量のサプリが入った小瓶を見せてきた。
貼ってあるラベルには手書きで「1日分の食事」と書かれていた。
「この中に必要な栄養が全て入ってます。料理の中の雑菌で体調を崩したら問題なのでこれしか食べないようにしてるんです」
「……なんだと? 毎日サプリなのか?」
「空腹を感じたら乾パンくらいは食べますが基本はそうです。今まで問題はなかったのでこれからもそうするつもりです」
「……台所借りるぞ」
「ちょ、やめてください。不法侵入! 変態ストーカー!」
「気持ち悪いと思うならいくらでも思ってくれ、俺はお前と一緒に食事がしたい」
アイがカップ麺や冷凍食品は禁止と言っていたが、今ならその理由が分かる。サプリに乾パン。まるでパンデミック中の食事だ。
こいつは克服者として自分に強い罪の意識を感じているようだがそれで自分を律しているつもりなのか? あの悪夢は終わったんだ。今なら肉も魚もなんでも食える。それは一般人も克服者もあって当然の権利だ。
また不法侵入と言われても良い。変態呼ばわりされても構わない。
無理矢理にでもこいつに温かい料理を食べさせてやる。




