第10話
「どうしたの栗栖。何かあった?」
昼休み。食堂で昼食を食べていると、いつものごとく志保に声をかけられた。
「ん? なんで」
「だって今日の昼ごはん。鮭じゃないじゃん」
志保はそう言って俺が食べていた卵うどんを指差す。
「あー。あれだ。昨日の志保のサンドウィッチに触発されてな。俺も今日から自炊しようと思ったんだが、初日は好物を作ってみたいだろ?」
「なるほど、楽しみを夕食に取っとく感じね」
我ながら咄嗟に考えた割に良い言い訳だ。
「そんなところ。そうだ、良かったら初心者でも簡単に作れる料理教えてくれないか。勿論、鮭を使った料理で」
「うーん、ホイル焼きとかどうかな? フライパンに水張って沸騰したら食材包んだアルミホイル乗せるだけだし」
「いいな、教えてくれ」
「な、なら今日栗栖ん家で一緒に食べようよ。直接教えた方が分かりやすいし」
まずい。
確かに今日から自炊はするが俺の家ではしないんだ。
「えーとな……」
「本当にどうしたの? なんか怪しい」
「あ、あれだ。めちゃめちゃエロ本があるから今日はダメだ」
一気にIQが下がる音がした。さっきの機転はどうしたと自分を殴りたい。
「……めちゃめちゃ?」
「そ、そう、めちゃめちゃ」
「……ぷ、あはは! 栗栖がエロ本って! ごめんツボったかも、んふふ……」
涙を浮かべながら必死に笑いを堪えている……。確かに昨日、プライドなんて捨てると誓ったが俺が考えてたのと違う。
「多分あれでしょ。私にはまだ言えない事情があるパターンでしょ。いいよ、詮索しないであげる」
どうやら、もう随分な付き合いになる志保には全てお見通しのようで、恥のかき損もいいところだった。
「すまないな」
「そういう時、栗栖は落ち着いたら全部話してくれるもんね」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ待ってまーす。それが終わったら本当に栗栖の家でパーティしようよ。鮭料理をいっぱい並べてさ」
「いいぞ、約束だ」
「やった。早く終わらせてね」
悪いが早く終わらせる。というのは難しい。昨日、アイと交わした約束は俺の意志でどうこう出来る問題じゃない。
………………
「世話係?」
「そう。と言っても彼女は家から出ないからね。とりあえずは一緒に夕食を食べてあげるだけでいいよ。但し、料理は赤場くんが手作りすること。カップ麺や冷凍食品、コンビニ弁当なんかも禁止で頼むよ」
「いや、俺料理できないけど……」
「無理なら辞めてもらっていいんだぜ?」
それを言われると耳が痛い。ついさっきなんだってすると言ったばかりなんだから。
「分かったやるよ」
「嬉しい返事だね。上手くやれたら彼女について教えよう」
なるほど、すぐには答えてくれない訳だ。まあ焦ることはない。それに彼女の近くにいて得られる情報もあるはずだ。
「ああそれと、相坂くん……この場合は志保くんの方が分かりやすいかな? 彼女にはまだ秘密にしておいてくれ」
「言ってないのか?」
「こちらにも事情があってね。それに、果穂くんを殺したのは君なんだろ? 志保くんではなくて」
「……そうだ」
果穂を殺したのは俺だ。間違いない。
「……赤場くんはすごいね。こんな世界。みんな誰かの責任にしようとしてるのに、君は自分の罪を認められるんだね。……羨ましいな」
「どういう意味だ?」
「……今のは私らしくなかったね、気にしないで欲しい。私は署に戻るよ。明日からよろしく頼む」
アイはいつのもの胡散臭い態度でも、先ほどの冷たい様子でもなく。どこか悲しい雰囲気を漂わせていた気がした。
………………




