気遣いの正誤
俺たち三人は、服を買い、次の目的地である武器屋へと向かっている。
町外れにあった服屋の周辺は、閑散として人通りが少なかったが、今歩いている大通りは、それなりに賑わっているようだ。
手を繋ぎ歩く恋人や、子供連れの親子。
友達同士の町娘達や、中の良さそうな老夫婦など、いろいろな人々が楽しそうに町を歩いている。
その様子を眺めながら歩いていると、出店で焼かれている串肉のいい匂いが鼻をくすぐった。
昼食にはまだ早い時間だが、間食に串肉の一本ぐらいいいだろう。
大通りの中央にある広場で魔導士に皇子を預け、俺はさっき通り過ぎた出店へ向かった。
そこで串肉を三本買い、噴水で待つ二人の元へ足早に戻る。
広場で皇子と魔導士の姿を見つけると、二人は噴水に腰を掛け談笑していた。
「皇子はこれからギルドに行かれるんですよね?」
「そうです。本来の目的通り、勇者と共に過ごし、彼の指導を受けながら……」
俺に気が付いた皇子が話を中断し、笑顔で迎えてくれる。
「お待たせしました」
話を途中で切らせてしまい申し訳ないと思いつつも、買ってきた串肉を二人に渡した。
「わ~これは何と言う料理なのですか?」
「これは串肉です。名前の通り、肉を串に刺して焼いただけの料理ですよ。味付けは塩と胡椒でシンプルですが、美味しいです」
串肉は大衆受けする料理で、子供の拳半分ぐらいの大きさの肉が3個刺刺さっていて、食べ歩きをするのに丁度いい量だ。
肉嫌いでなければ、まず嫌いな人はいない。
買ってから、事前に皇子の好みを確認していなかったなと後悔したが、渡した時に嫌そうな顔をしなかったから肉嫌いではないだろう。
そう推測して皇子が食べるのを待っていたのだが、なかなか食べ始めない。
皇子は、じっと串肉を見つめたまま、困ったように眉を潜めている。
「肉は嫌いでしたか?」
「いえ!そんなことはありません」
勢いよく否定する姿は、どうも怪しい。
嫌いならそうといってくれた方がありがたいのだが。
「では、どうして食べないのですか?」
「それは……あの、この料理の食べ方が分からなくて……」
恥ずかしそうに頬を染める皇子が涙目で俺を見つめてくる。
そんなことで恥ずかしがる必要などないのに。
皇族として育てられた皇子は、今日まで屋台飯なんて物は食べたことが無かったのだろう。
悪いことをしたな。
俺は皇子の隣に腰を下ろし、串肉を口に運ぶ。
串に刺さった肉を側面から半分程まで嚙み千切り、次に反対側のもう半分を噛んだまま串から引き抜き、串から離れた肉を口の中へと飲み込んでいく。
十分に咀嚼し喉を通し胃袋に送った後、空になった口を開く。
「こうやって食べます」
「ありがとうございます!やってみます」
涙は消え、笑顔になった皇子は素直にお礼を言うと、俺の真似をして肉にかぶりついた。
だが、皇子の口は小さく、串肉の一塊の半分を一口で食べるのは無理があったようだ。
全体の四分の一のところで肉を噛み切り、もぐもぐと咀嚼を始める。
その量でも皇子にとっては多いようで、両側の頬が目一杯膨らんでいた。
これでは可哀そうだな……。
俺は再度串肉の出店へ行き、皿とナイフを借りて、残りを皇子の一口サイズに切り分ける。
店主にお礼を言って、皇子の元に戻ると、皇子はやっと肉を飲み込んだところだった。
丁度いいタイミングだったな、と思いながら皇子の元へ向かう途中で足を止める。
皇子の手には飲み物のカップが握られていて、その横で魔導士が背中を擦っていた。
皇子は飲み物を飲むと、苦しみから解放された後のように、一息吐く。
そして二人で話を始めた。
俺はその場に立ち尽くし、人ごみに紛れ、遠目から二人の様子を伺い見る。
そして思った。
そうか、次の肉を用意している場合ではなかったのか。
本当は、飲み込むのに苦労をしている皇子のために、飲み物を取りにいかなければならなかったんだ。
そのことに魔導士は気づくことができたが、俺にはできなかった。
「はぁ……」
深い溜息を吐く。
俺は気が利かないとよく言われていた。
しかし、今まで自分ではそうは思っていなかった。
先回りして行動することは得意だし、言われる前に行動もでき、更に結果も残してきた。
仲間のピンチにはいち早く駆け付け、守り抜いた。
それなのに何故?
少し前までそう思っていた。
聖剣が俺を捨てた時に言った言葉を思い出す。
「あんたは全然気が利かないし、ガサツで乱暴だし、乙女心が分かってない! あんたとはもう無理。私、彼を新しい勇者に認めるから」
その時は、言われたことの意味が分からず、裏切られたことがただ腹立たしいだけだったが、今になって自分が悪かったと理解できた。
俺は手にしている皿に視線を向けた。
皿の上の細かく切られた肉が、酷く滑稽なものに見える。
「これで気を使った気になっていたとはな」
肉を一気に飲み干し、皿を串肉屋の店主に返してから、皇子と魔導士のいる噴水へと戻った。
「お帰り、勇者。遅かったな」
二人の元へ着くと、待ちくたびれたと言わんばかりに、魔導士が声をかけてきた。
「あれ? 肉は?」
「食った」
「は?」
「間食で皇子の腹がいっぱいになるのは申し訳ないと思ったから、処理しておいた」
口からの出まかせだが、理由があれば余計な詮索はされないだろう。
俺の思惑通り、魔導士はそれ以上口を開かなかった
「では、行きましょうか、皇子」
声をかけると、皇子は立ち上がり俺の後に続き歩き始める。
その隣に魔導士が並んで歩く。
目的の武器屋は目と鼻の先にある。
もう少し人が少なければ、この噴水から見える程度の短距離だ。
俺は先陣を切って人ごみを掻き分け、後に続く皇子が少しでも歩きやすいように道を確保する。
不十分な分は魔導士が何とかするだろう。
武器屋の入り口に到着し、後ろを振り返った。
既に真後ろまで来ていた皇子と目が合う。
「ここが武器屋です」
気恥ずかしさに、不自然に目を反らしてしまった。
武器屋のことを入る前に少し伝えておこうと思ったが、今から再度目を合わせる勇気がない。
説明は中に入ってからでいいだろう。
外であれこれ話をしても仕方がないからな。
俺は身を翻しドアへ向き合うと、目の前の押戸をぐいっと押して店へと入った。




