ネタばらし
俺たちは、ただ皇子の服を買いに来ただけだった筈だ。
それなのに何故、俺は皇子の胸を揉むことになったのか。
さて、このふざけた遊びを思いついたのは魔導士なのか聖職者なのか、まずはそこから聞いていくとしようか。
「聖職者、話の続きをしようじゃないか」
俺は、ここ最近で一番の笑顔を聖職者に向ける。
聖職者もとびっきりの笑顔で答えてくれた。
やはり発案者は魔導士で間違いはなさそうだ。
「ええ。先ほどの皇子に起こったことへの説明を聞きたいのですよね。お教えいたしましょう」
聖職者がおもむろに店内を歩き始めたので、俺もその後ろについて歩く。
「あれは効果付きの服なんです。着た方が女体になる効果が付いています」
「……なるほどな」
そんな効果聞いたことないぞ。
むしろ、それは呪いの類なんじゃないのか。
しかも、はめたらアンデットになる指輪、みたいな面倒なことになるタイプのやつの。
指輪は、はめると二度と取れないギミック付きが当たり前だが、あの服は大丈夫なんだろうな?
もし皇子が二度と元に戻らないなんてことになったら……、世話係である俺の死刑は確定だ。
まあ、それも今更か。
皇子と出会ってから二日しか経っていないのに、不敬罪で禁固刑はほぼ確定の状況だし。
皇子がこのまま皇女になったら、それこそ不敬罪では済まされないだろうけどな。
「あの服、脱げるんだろうな」
「脱げない服なんて置いてありませんよ。呪いアイテムでもありませんのに、そんなギミック必要ありませんから」
聖職者がまだマシな精神の持ち主で良かった。
遊びの範疇ってもんを一応は解っているようだな。
「脱いでも女だったらどうするんだ、勇者?」
馬鹿なことを言うやつがいると思えば、後ろで息を潜めていたようだな魔導士。
声が聞こえないから逃げたかと諦めていたが、丁度いいところに来てくれた。
聖職者には服の効果について種明かしをしてもらったことだし、そもそも何故こんな頭の悪そうな遊びを実行したのかは、お前に語ってもらおうか。
俺は後ろを振り返り、逃げられないように魔導士の胸ぐらを掴み傍に寄せる。
「もし皇子が完全に女性になってしまったのであれば、お前に責任を取ってもらおう。女性の扱いに長けているお前なら、突然女性になってしまった皇女様を導いて行けそうだしな。魔王を倒した稀代の大魔導士様だ。皇帝陛下も皇女様の旦那として、お前を快く受け入れてくれるだろうさ」
「んなわけあるかよ! 反逆罪で死刑になるに決まってるだろ」
その通りだ。
お前はそうならないって分かっていたからやったんだろう。
だが、一時的にでも皇子を許可なく女体にすること自体が問題のある行為だと、俺は思うぞ。
「悪かったって。ちっと遊びが過ぎたなーって俺も思ったわ。今日の買い物は俺が全部払うから、それで許してくれよ」
反省の色は見えないが仕方ない。
今日は金が無いから条件を飲んだ方が良さそうだ。
俺はスッと魔導士から手を放す。
解放された魔導士は、皇子の様子を見に行くと試着室の方へと向かった。
俺は再び聖職者の方へと振り返る。
「聖職者。この服屋はお前の店なのか?」
俺はずっと気になっていた疑問を口にした。
聖職者が店主だと言っていたが、服に興味があるとは一度も聞いたことがない。
金を稼ぐ為に店主をやっているとは思えない。
聖職者ほどの実力なら、服を売るよりもギルドで依頼をこなした方がよっぽど儲かる。
「そうです。しかし店と言っても客は限られてますし、儲けを出すために営業している訳ではありませんが」
聖職者から、予想道理の答えが返ってくる。
であるなら気になるのはその理由だ。
「それでは何の為にやっているんだ」
「実験です」
聖職者は真面目な顔で、服屋に馴染のない単語を言う。
服屋で実験することとは一体なんなんだ。
もしや服屋は見せかけで、地下に研究室があるのか。
「この服よく作られているでしょう」
聖職者は近くにあった可愛らしいワンピースを手に取り、うっとりとした表情で語り出す。
俺は一時考えるのを止め、聖職者の話に耳を傾ける。
「どれも素材からこだわった自信作です」
「自分で作ったのか?」
聖職者に服を作る才能があったとは知らなかった。
共に旅をし、好き嫌いや趣味特技は知り得たと思ったのだが、思い違いだったらしい。
俺は聖職者の趣味すら、知らなかったのか。
「半分は合っていますが、もう半分は違います。服を作ったのは職人です。その生地を作ったのが私です」
何の為にわざわざ聖職者が生地を?
まだ趣味で服を作っていると言われた方が納得できるぞ。
「何故生地なんだ」
「効果を付与しやすい生地を作り、職人に服を作っていただき、最後に私が仕上げをして服を完成させているんです」
効果付きの物は珍しくない。
同じものでも腕利きの職人が作れば、通常よりも良い物ができる。
また、普段よりいい素材を使えば、その分良い物ができる。
そのプラス値や素材の特性が引き継がれたものが、効果として武器や防具に付く。
いい店には効果付きの物がたくさん並んでいる。
聖職者の言う実験とは、作った効果付きの服を客に着せることだったのか。
それでデータを取っていると。
運悪く店に入った客は災難だな。
服を着たら呪い似た効果もセットでついて来る服屋なんて、国中探してもここだけだろうよ。
「ここに在るすべての服には、それぞれ違う効果が付いています」
ざっと見ただけで100は超えているが、俺たちが魔王討伐から帰って来て、まだ1週間くらいしか経ってないぞ。よくもまあこれだけの物を作ったもんだ。しかし、これだけあると他の服の効果も気になるな。一つくらいマシなものがありそうだが……はっ!
「まさか今皇子が着替えている服にもか!?」
全てということは、今皇子が着替えている服も当然効果付きなのだろう。
ああ、悪寒がしてきた。
「ご安心を。あの服についている効果は弱いものですので」
「弱いってどんなだ」
「耐久値プラス100ですね」
……はぁ、種類はまともで良かった。
だが、なにが弱い効果だ。
城下町の武具屋の鎧でさえプラス50が限界だっていうのに、その2倍っておかしいだろ。
逆に強いが何なのか気になるわ。
「この中で一番強い効果が付いた物、持ってきましょうか?」
丁度そう思ってたところに良い申し出だが、下手に飛びつけば火傷することは目に見えている。
ここは慎重に行動すべきだ。
命大事に。
「先にどんな効果か教えてくれ」
「完全バリアです」
なんか強そうだな。
守りに徹する感じが皇子に良さそうだ。
「まだ実験段階なんですけど、魔王城の門番辺りの攻撃でしたら余裕で弾きます」
強そうではない、強いに訂正しよう。
俺が求めていた物は、まさにこれだ。
皇子に怪我をさせずに、訓練させるのに打って付けの代物じゃないか。
「それは凄いな。では、それを―――」
俺は期待に満ちた気持ちで例の服を頼もうとしたが、聖職者が俺の言葉を遮る。
「しかし、弾きすぎて触れようとした人の腕も弾き飛ばしてしまうんですよ。こうブチっと」
「……」
聖職者は困ったように笑いながら、何かが千切れるジェスチャーをした。
聖職者よ、それは不良品って言うんだぞ。
一番強いではなくて、一番ダメな効果だからな。
千切れた腕はちゃんと蘇生してやったんだろうけど、巻き込まれたヤツらは絶対仲こじれてる。
「では、お持ちしますね」
聖職者が最凶の服を取りに行こうとしたので、腕を掴み止める。
「いや、いらん」
「そうですか……」
残念そうな顔をしているが、聖職者の真の目的に気づいてしまった以上、同情はできない。
魔王レベルだとどうなるのか、俺で実験したいんだろう?
お断りだ。
聖職者との話に落ちが着いたところで、着替え終わった皇子を連れた魔導士がやってきた。
「勇者どう?」
魔導士が皇子の背中を押し、俺の前に出した。
皇子は下を向き、恥ずかしそうにモジモジしている。
「似合ってますよ」
他に言葉が見つからなかった俺は、テンプレートなことしか言えなかった。
それでも皇子は顔を上げ俺を見ると、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
その笑顔が眩しくて、俺は顔を反らし皇子の視線から逃げてしまった。
普段あまり人とかかわらないせいか、こういう時はどうするのが正解なのか分からない。
横目でチラリと皇子を見れば、魔導士と楽しく話している。
まあ、少しの間預かるだけだし深く考えなくていいか。
魔導士に金を払わせ、俺と皇子と魔導士は服屋を出た。
聖職者は店の前で俺たちを見送っている。
大変だった服選びも、やっと終わったか。
何はともあれ、服が買えてよかった。
皇子は戦闘経験が禄になさそうだから、防具だけは良いものをと考えていたんだが、丁度いい物があってよかった。
服にこれだけの効果が付いていれば、森の魔物相手に防具は要らないだろう。
色々問題はあったが、結果的にはいい買い物ができたな。
歩き進めるにつれ、離れ行く店に対し俺は誓った。
もう二度と来ないと。




