腐れ縁の裏切り ~嫉妬を添えて~
身支度を済ませ朝食を取った俺と皇子と魔導士は、皇子の服を買うために近くの町まで来ていた。
途中の森で魔物が何体か出てきたが、俺と目が合った瞬間、魔物たちは一目散に逃げていった。
「服を買いに行くのもいいが、お前金持ってないだろ」
服屋を探し街中を歩いていると、魔導士が不躾に金の話を切り出す。
確かに俺には金がない。魔王討伐に有り金を使い果たしたにも関わらず、もらえた報酬はたったの1000$。
この金で何ができるかと聞かれれば、答えられるのは町で買い物するぐらいのことだ。それも平民の日用品程度の物限定になるけどな。
安物になってしまうが、皇子が着るための服を一着買うぐらいはできる筈だ。
「1000$あれば服ぐらい買える」
「あははっ!1000$って、おまっ」
俺が真面目に答えを返したってのに、魔導士は腹を抱えて笑いだす。
お前は良いよな、50億$だもんな。魔導士様は魔王討伐の功労者だし、当然の報酬だよな。
それ比べて元勇者の俺は1000$。
……元勇者って何なんだよ。
俺は鑑定スキルを使い、魔導士の装備にどれくらいの価値があるか鑑定を始める。
髪留め8万$、イヤリング180万$、服は上が29万$で下も29万$、靴92万$。
一番高いのはレアアイテムのローブだな。身包み剥いで金に換えてやる。
「お前のローブを売れば追加で602万$にはなるかもな」
金色に輝く鑑定中の目で、俺は魔導士のローブをじっと見る。
火竜の皮を素材に使った一等品だ。しかもエピックアイテムだから、もう少しいけるか?
それにかの魔導士様が身に着けていたローブだと言えば、オークションで倍は固いぞ。
証拠を見せろと言われても、本人が同行すれば問題無いしな。
「あー悪い悪い。でも宴の時に笑い堪えるの必死だったんだぞ?少しぐらい笑わせろよ」
「全く謝る気ないだろ」
「お詫びに皇子の服選んでやるから機嫌直せって」
「お前が金を出すなら許してやる」
散々コケにした後に、タダで許されると思うなよ。
慰謝料代わりに店で一番高い服を買わせてやる。
「そういうとこだぞ、お前がモテないのは」
「は?」
金とモテに何の関係がある?
俺の方がお前より金持ちだった時も、一切モテていなかったのだが。
「好きな子には自分がなんでもしてあげたいって思うのが普通だぞ。他人に買わせたものをあげるとか、ないわ~」
そのネタ、まだ言うか。皇子のことは好きではないと言っただろう。
魔導士には本格的なお仕置きが必要なようだ。
「お前、後で覚えてろよ」
「絶対忘れるわ」
悪びれもなくさらっと忘れる宣言するな。
おい、その腹の立つすまし顔やめろ。俺だって街中で人を半殺しにはしたくない。
「お二人は仲が良いのですね」
どこの路地裏で魔導士をボコろうかと画策していた俺に、皇子が声をかけてきた。
すっかり放置していたが、皇子もいたんだったな。
「仲良く見えますか?」
「はい、とっても」
さっきの会話のどこにそんな要素があったのか。
皇子は見た目のまんま、頭の中も綺麗らしい。
「皇子殿下もお目が高いてすね~。私と勇者は幼馴染なんですよ」
俺がどう答えようか悩んでいる隙に、魔導士が会話に割り込んできた。
「幼馴染とは、幼少期を共に過ごされたということでしょうか」
「そうです。幼少期どころか、生まれてから今まで長い付き合いですよ」
ただの腐れ縁だろ。
俺と魔導士は同じ村で生まれ、共に育った。
生まれつき魔力の高かった魔導士は、よく魔法を暴発させて村を破壊してたな。
そのせいで森の小屋に追いやられて一人ビービー泣いていた。
魔導士を不憫に思った俺の婆ちゃんが、どういう理由か俺に魔導士と住めと言ってきて、俺は家から追い出されたんだよな。
それから魔導士とは一緒に暮らしていたんだが……あいつ。
女ができたとか言って出ていきやがったんだよ!
俺はずっと森の小屋で、野郎と二人暮らしをしてきたっていうのに!
朝起きて、魔導士と自分の朝食を作ってから魔導士を起こす。
魔導士が王都の魔法学校にいくのを送り届け、夕飯の仕込みの為に森で狩りをする。
夕方帰って来た魔導士を、あらかじめ沸かしておいた風呂に入れて、俺は二人分の夕飯を作る。
そんな毎日を過ごしてきた俺に対して、あまりに酷い仕打ちだ。
自分だけ王都で女と出会って、しかも付き合い始めるなんて。
俺の青春を返せよ!
「いろいろあって今は一緒に暮らしてませんけど、あの時は楽しかったなー」
「素敵な思い出ですね。憧れます」
「皇子はこれから一緒に暮らすんですから。同じような体験ができると思いますよ?」
「それは楽しみですね!」
完全に過去にトリップしていて、二人の会話を全く聞いていなかった。
魔導士の奴、皇子に余計なこと吹き込んでないだろうな。
「勇者、ここが服屋だぞ」
店の前で魔導士が立ち止まった。
俺と皇子も足を止めて、魔導士が指す店を見る。
目線の先には、小さな洋服店が一軒あった。
「高そうだな」
店の壁の一部がガラス張りになっていて、そこには市民が着る普段着よりも少し値が張りそうな服が飾られている。
「そう見えるかもしれないけど意外と安いんだよ、ここ」
服に1千万$近く掛けている奴の安いなど信用ならないが、せっかく来たんだし見るだけ見てみるか。
高くても魔導士に払わせればいいだけだしな。
魔導士を先頭に、俺たち三人は洋服店の中へと入っていった。




