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昇格試験6


 現れたのは、白銀の剣。

 眩い光を放つそれは、神聖な物のように見えるが、その実は全く真逆の存在である。


 「魔剣か」


 魔剣と聞けば、黒く禍々しい剣を想像する者が多いだろう。

 しかし、魔導士が手にしている白い剣も、魔剣の一つに数えられている。


 魔剣とは、人口では決して作り出せない強い魔力を持った剣の総称であり、見た目はその剣の持つ魔力の属性に依存する。

 魔導士の持つ魔剣は光属性なので白い、というわけだ。


 「正解。こっちの方が、魔法使うよりはいいだろ?」


 確かに、魔導士が本気で放った魔法が直撃すれば、結界は粉々に砕け散り、試合は即中止になるだろう。

 だからと言って、俺が全ての魔法を受け止めるのは、さすがに無理がある。


 魔剣を使うのならば、魔剣の形態維持に魔力を集中させるため、魔法を使う余裕はなくなるはずだ。

 剣技の衝突くらいでは結界が壊れる心配はないだろうし、お互い全力で戦えそうだ。


 「それで結界を叩かなければな」

 「あ、それいいかも」


 冗談で言ったつもりだったが、まさか賛同されるとは。

 俺は、やれと言っているわけでは無いんだが……。


 「魔導士!馬鹿な考えは捨てろ!計画通り、穏便に済ませるんだ。いいな?」


 不穏な会話に、ギルドマスターが慌てて口を挟んでくる。


 計画通り穏便にと言っているが、ここまでの行程も計画通りでは無いように思えるのは、たぶん勘違いではないだろう。

 気分屋の魔導士に言うことを聞かせる大変さを、身をもって知っている分、ギルドマスターには同情しかない。


 「試合が終わったら、最後派手に結界壊すってのはどうだ?ギルマスが魔力切れで倒れるの見たくね?」

 「止めろ!倒れたまま目覚めなくなるぞ!?」


 確かにそれは見たい。

 だが一つの楽しみで、何倍もの付けを払わされることになるのは、目に見えているから却下だ。


 それに、あのギルドマスターの血走った目。

 今日を迎えるまでに、色々と大変なことがあったようだな。

 具体的に言うと、魔力切れを起こすような何かが。


 「やめとけ。後々面倒ごとが回ってくるのはゴメンだ」

 「えー。面白いと思ったのに〜」


 このまま魔導士を自由にしておくと、更におかしなことを思いつきそうだ。

 考える時間を与えないように、戦闘に移った方が良いな。

 それに観客も、睨み合うだけの試合で退屈しているだろうし。


 「しゃべってばかりいないで、そろそろ始めるぞ」


 俺は剣を構え直し、戦闘態勢に入った。

 意識を相手に集中させ、切り込む位置に狙いをつける。


 一方魔導士は、魔剣を軽く握り、姿勢も変えずに余裕の表情だ。


 「あれ?もう始まってんじゃないの?俺はいつ来てもらっても、いいんですけど」

 「随分と余裕そうだな」

 「そりゃそうだろ。Sランク様がFランクの相手するんだからさ」


 言わせておけば、生意気なことを……。


 魔導士が魔剣を手に入れてから、最初に剣術を教えてやったのは俺だ。

 何日か付き合ってやったが、魔法の方が性に合っていると、魔剣などほとんど使っていなかった。

 そのくせに、あの余裕とは。


 剣に対しては、俺が師匠で魔導士は弟子だ。

 鍛錬を放棄した弟子に、師匠が負けるはずがない。


 「では、有り難く先輩の胸を借りるとしようか!」


 俺は魔導士へと、小細工無しに一直線に賭けて行く。

 間合いに入ったが同時に、勢いを乗せたまま剣を振るった。

 激しく金属同士のぶつかり合う音が響いた。


 「この程度?」

 「そう言ってられるのも、今のうちだぞ。剣の構え方がなってない」


 結構な勢いでぶつかったはずだが、魔剣の力なのか魔導士は顔色一つ変えず平気そうだ。

 まあ、それでも魔剣を両手に握り直すぐらいの効果はあったようだが。


 「それはこっちのセリフだから。ちょっとぐらい剣の持ち方を覚えたぐらいで、説教なんてすんなよ。元野蛮人のくせに」


 野蛮人だと?

 俺が一番気にしている言葉をズケズケと……。


 剣の握り方も覚えたし、料理だってお洒落なのを覚えたんだ。

 今の俺は野蛮人じゃない。


 他人に魔獣の肉を勧めたりもしなくなったし、貴族に対して最低限のマナーも覚えた。

 俺は立派な常識人だ!


「そういうお前は、顔がいいだけの性格非モテ男だろう!毎回付き合ってすぐ、同じ理由で別れてることは知っているんだからな。ナルシスト」


 魔導士は自分が好き過ぎて、毎回そのせいで振られているのは、周知の事実。

 せっかく顔も役職も特級なのに、残念なやつだ。


 「綺麗な俺を俺が好きで何が悪い!俺は綺麗なものが好きなだけで、ナルシストではありませんー」

 「お前の趣味趣向はどうでもいいが、元カノが俺に苦情を言ってくるのは、どうにかしてくれ」


 ただ振られるだけなら自業自得だから仕方ないのだが、何故か魔導士の元彼女たちが会うたびに、俺に苦情を言ってくるのだ。

 俺のせいで魔導士がああなったと。

 俺には全く身に覚えがないのだがな。


 「俺にはどうしようもないことだな」

 「お前以外に誰が彼女たちを止めるんだよ……」


 どうのこうのと無駄話をしながらも、俺と魔導士は剣をぶつけ合い、試合は進行していた。


 やはり魔導士の剣は未熟で、俺が右へ左へと剣を振る度それをカバーするので精一杯のようだ。

 息切れは起こしていないが、反応の鈍さが目に付く。


 俺は魔導士が反応できるギリギリの速度で、剣戟をぶつけ続けた。


 正面への切り付けで、剣が重なり競り合いになる。

 剣越しにお互いの顔が近づく。


 「なあ、勇者。ギルマスが何で、お前の昇格試験の相手に俺を選んだか、知りたくないか」


 魔導士が魔剣を振り切り、俺は後ろへ引いた。


 「何故だ?」


 打ち込む速度を緩め、魔導士が話しやすいように調整をする。


 「お前が魔王を討伐した本物の勇者だって、みんなに伝えるためだよ」


 ギルドマスターは、そんなことを考えていたのか。

 今まで苦労させられた思い出しかなかったが、いざという時は助けてくれるんだな……。


 審査員席の方を見れば、ギルドマスターが優しく微笑んでいた。

 俺も感謝を込めて、笑みを返す。


 「宴の席で皇帝に不当な扱いをされ、お前の名声は地に落ちた。おかげでお前は元勇者なんて呼ばれて、帝国民のほとんどはお前を馬鹿にしている」


 あの日のことは、そう簡単には忘れられない。


 魔王討伐を成し遂げ、帰国した日。

 賛辞と祝福だけが贈られると思っていた俺に渡されたのは、不名誉な称号と、たった1000$の報酬。


 そして、第四王子の世話係という職。


 「俺と聖職者は真実を知ってるけど、皇帝の目があるから下手なことはできない」

 「だから、直接戦うことにしたと?」

 「そういうこと」


 この世界の半分は帝国の領地であり、それ以外の国や村も、そのほとんどが帝国と和睦を結んでいる。

 皇帝はこの世界の王と言っても過言ではないだろう。

 その皇帝の決定に反対するなど、世界中の人々を敵に回すことになりかねない愚行だ。

 この試合は、皇帝の意思に反する行為にあたるかもしれないというのに……。


 「他でもない、お前のためだからな」


 いつもは自由奔放で自分が一番の魔導士が、俺のために用意してくれたこの舞台。

 結界の効果で観客の声は聞こえないが、みんな食い入るように俺と魔導士の戦いを見ている。


 帝国最強の魔導士と、落ちこぼれの元勇者の戦いを、どう思っているのだろうか。

 観客の様子から、少なくてもつまらなくは無さそうだが、八百長だと言うことはバレていそうだな。


 魔導士が大きく後退し、審査員席の方を見た。

 俺もつられてそっちを見ると、砂時計が丁度落ち切ったところだった。


 観客が一斉に手を叩き、口々に何かを言っているが、その音も声も一切聞こえない。


 静まり返った壇上で、俺と魔導士は、互いの健闘を称え、固く手を握った。


 「Eランクおめでとう!これで一緒に隣山のドラゴン退治に行けるな!」

 「ドラゴン退治……?」


 「馬鹿っ!それは後で受付嬢に依頼書を出してもらうって言っただろう!!」

 「え~そうだったっけ?でも、どうせ言うなら今でも良くない?初めからこういう計画だったし」


 俺は、審査委員席のど真ん中に当たる位置の正面に立つ。

 結界ギリギリまで近づき、ギルドマスターに向けて拳を構える。

 この位置からではどうあがいても、ギルドマスターに直接拳は当たらないだろう。


 腕を引き、渾身の力を籠め——。


 「ちょっと待て!話し合えば分かる!これは仕方なかったんだ!魔導士が一人で行きたくないっていうし、他のSランクも帰ってこないし。丁度となり山だったから、場所だけならEランクでもいけるかなーって思ってな?依頼中に偶然ドラゴンと合えば、戦うしかないかなーって思ったり……な?だからっ」


 俺は怒りに任せて、派手に結界をぶち壊した。


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