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昇格試験5


 所変わって、試合会場へと戻ってきた俺たちは、控え室に着くなり、すぐさま壇上へと上げられた。

 上がるや否や、司会が俺の紹介を始める。


 「大変長らくお持たせしました。この戦いの主役が、ようやくご登場です!前提の無い異例のギルド再雇用者。聖剣片手に魔王討伐に行も、魔王の命と引き換えに、すべてを奪われた男。人呼んで、元勇者の入場です!!会場の皆様、拍手でお迎えください!」


 鳴り響く歓声の中へ、いきなり放り出された俺は、おずおずと中央へと歩いて行く。


 向かい側では、先に入場していた対戦相手が俺を待っていた。


 青く長い髪が、空の青と重なる。

 爽やかな髪色とは対照的な黒いローブは、風で翻る度に火龍の鱗によく似た赤い裏地が見え隠れしている。

 一点物のあのローブは、あいつのお気に入りだ。


 「遅かったな勇者。待ちくたびれたぜ」

 「お前が相手なんて、全くの予想外だ」


 まさか魔導士が対戦相手とはな。

 ギルド嬢が隠すわけだ。

 もし知っていれば、今朝の朝食に何かしらを混ぜていた可能性を否定できないしな。


 しかし、なぜ魔導士がFランクの昇格試験の対戦相手に選ばれるんだ?

 規定ではEランクのギルド員が選ばれるはずだ。

 魔導士はSランクで、Fランクの俺との階級差は天地ほどある。


 これには絶対に裏があるぞ。

 

 俺は、黒幕がいそうな審査員席に目を向けた。

 すると、三人いる審査員の中で、中央に座る男が顔を逸らした。

 その男をじっと見つめ続けると、観念したのか、男は窺うように横目でこちらを見る。


 苦々しい笑みを浮かべながらも、多彩色の瞳はこちらの様子を窺うように、キョロキョロと忙しなく動いている。


 あの瞳を持つ者は、そういない。

 ギルド関係者で多彩色の瞳を持っているのは、ギルドマスターただ一人だけだ。


 今回もギルドマスターの仕業か。


 あの人はいつも、俺にとって余計なことしかしない。

 ギルドを作った偉大な人物だが、それを無しにすれば、いい歳して子供じみた悪戯ばかりを企てる、迷惑なおっさんだ。


 今回は何を企んでるんだ?

 俺の昇格を邪魔しようとしてるのか?


 いや、そんな単純な嫌がらせをするような人ではないな。

 依頼を出す時に、重要な情報を伏せながら依頼を受けさせようとする、詐欺依頼の常習犯だ。

 特に陰湿なのが、絶対受けさせたい依頼には言質を取りに来るところで、幻術を使い姿を変えてまで依頼を押し付けてくる始末だ。


 おかげで幻術を見破るのが上手くなったが、過去の恨みが消えるわけじゃない。


 秘境で一ヶ月間の死闘を余儀なくされたことも何度かあったな。


 「おい、どこ見てんだよ、勇者。人を待たせといて、よそ見するなんて酷いことしてくれるじゃん?」


 宿敵を目の前にして、つい昔にトリップしてしまていたようだ。

 審査員席を睨みつけたまま固まっていた俺に、すっかり放置状態になってしまった魔導士が、痺れを切らして声をかけてきた。

 

「すまん。ギルドマスターに挨拶しとこうと思ってな」


 俺が審査員席の中央にいる人物を指さすと、魔導士は俺の指に沿って視線を移した。


 「ギルマス?あー、気づいちゃったか〜」


 やっぱりな〜と、笑う魔導士だが、笑っていられるのも今のうちだぞ。


 「お前も何か言うことはないのか」


 グルだと言うことは分かっている。

 ギルマスより強い魔導士が、無理やりこの場に立たされるわけが無いからな。


 「黙っててゴメン、くらいかなー」


 にっこりと何の悪びれも無く笑う魔導士に、俺はこれ以上言及する気が失せた。


 こうして向かい合ってしまえば、もう手遅れだ。

 今更、相手の変更なんてできないだろうし、文句を言っても聞き入れてもらえはしないだろう。

 さて、問題はこの場をどう収めるかということなんだが。


 本来ならFランクの俺は、Sランクの魔導士に、先輩に胸を借りるつもりで突っ込んでいけばいいのだろう。

 魔導士も、多分、受け止めてくれるだろうしな。


 だが、会場はどうなる?


 少なく見積もっても衝突場所を中心に、半径十メートル程が吹き飛ぶだろう。


 それはまずい。


 「この試合どうする予定なんだ?」


 それでも魔導士が選ばれたと言うことは、真面目に昇格試験を受けさせる気がないと言うことだろう。


 八百長で俺を昇格させるのか。

 はたまた、昇格させないのか。


 もし後者だった場合、遠慮なく魔導士を潰しに行きたい所だが、観客がいる事を考えると難しいな。


 「もちろん——」


 魔導士の手の中に光が集まり始めた。何をする気だ?


 「試合開始です!!」


 いつの間に進行が進んでたのか、試合開始の号令がかかった。

 同じタイミングで、旗が振られ、笛の合図が鳴る。


 「全力だろ♪」


 開始すぐに、魔導士が空に手を上げ魔法を放った。


 白い光が一直線に空へと登っていく。

 そして、五メートル程の上空で四方へと飛び散った。


 俺はその欠片の一つが壇上の一角に刺さったのを見届けてから、残りの三箇所にも同じように杭が刺さっているのを確認する。


 杭は、壇の中心から五メートル上空に浮かぶ光へ向かって、弧を描くように光線で繋がれ、四本の光線の間を埋めるように、ガラスのように透明な鱗状の魔法壁が張り巡らされていた。


 「これで周りを気にせずやれるだろ」


 魔法結界。


 魔法で作られた、あらゆる攻撃を防ぐための結界だが、その強度や性質は術者によって大きく異なる。

 今、上空に張られているものは、魔塔の主の張った最硬度の魔法結界であり、これ以上のものを張れる人間は、帝国内にはいないだろう。


 「だが、これだとお前が不利になるぞ」


 しかし、魔法結界の維持には相当量の魔力を消費する。

 さらに、攻撃の当たった箇所の修復や、強い衝撃が加わると予測される場所への部分的な強化に、意識を向ける必要もあるのだ。


 前線で戦いながら結界の維持なんて、いくら魔導士でもハンデが大きすぎる。

 まさか、俺との戦いを甘く見ているわけじゃないよな?


 「そう思うだろ?でも、今回のは特別性でさー」


 魔導士は、楽しそうに結界に触れたかと思えば、力任せに拳をぶつけた。

 強化魔法をかけられた拳が、結界の表面に傷をつけたが、すぐに修復される。

 その様子に魔導士は頷き、ニヤリと笑った。


 「なんとっ、この魔法結界の魔力源はギルマス!だから、俺は戦闘に集中できるってこと。もし途中で壊れても、全責任はギルマスが取ってくれるってさ〜。久々に思いっきり暴れようぜっ!」


 審査員席のギルドマスターを見れば、大口を開けて何やら叫んでいるようだが、結界のせいで全く声が通っていない。

 表情から察するに、ギルドマスターにとって、あまりいい状況ではないようだな。


 「乗った」


 過去に散々苦労させられたんだ。

 たまにはお返ししないと、割りに合わないよな。


 それに、久々に魔導士と手合わせできるんだ。楽しめないのは損だろ。


 俺は剣を鞘から抜き、構える。

 それを合図に魔導士が魔導を放った。


 人の頭サイズの火の玉が、正面から向かってくる。

 どう対処しようかと考えながら魔導士の動きを注視していると、魔法を放った手の指で、クイっと横を指した。

 火の玉はそれに従い、指刺された方へと急カーブを切って進み、そのまま結界へと衝突し、弾け飛んだ。


 あの方向は、審査員席のど真ん中。


 大きな破壊音と黒い煙。

 遅れて、結界に激しいラグが起こった。


 「お前ら!程度ってもんを考えろよな!!」


 頭の中に、ギルドマスターの怒鳴り声が響く。


 生声は通らないと察して、通信魔法を使ったのか。

 結界の魔力と同じ魔力源だから弾かれずに通ったんだな。


 さっきまで静かだったのに、これからは小言でうるさくなりそうだ。

 まだ始まって間もないのに、かなりの怒鳴り声だったしな。

 時間が来る前に試合が中止になりそうだ。


 それで昇格できなくなったら困るし、もう少し穏便な戦い方に変えようか。


 「ギルマス〜。客の安全はちゃんと守んないと、ギルドの評判落ちちゃうぞー」


 俺の心配をよそに、魔導士は通信魔法を利用して、ギルドマスターと会話をし始めた。


 そういえば、俺たち三人の中で魔導士だけは、この試合に何も背負ってないよな。

 好き勝手できるのが羨ましい……。


 「誰の為に準備した舞台だと思って——」

 「はーい。お小言はその辺にしておかないと、こっから先、結界を維持できないぞ〜」


 「お前、まさか!手加減なしに魔法を使うつもりじゃないだろうな!?」

 「そんなことしたら、ギルマスじゃあ結界維持できないじゃん。今回はこれを使いまーす」


 魔導士は胸元に手を突っ込み、服の下にしまってあった、剣の形のトップが付いたペンダントを取り出した。

 それから、ペンダントを首から外し、手に握り魔力を流し始める。

 魔導士の手に淡い光が集まり、その光が徐々に大きくなっていく。


 数十秒もしない内に、ペンダントは一振りの剣へと変わった。


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