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昇格試験4


 フードの男を騎士へと引き渡しに行こうとしていた俺の前に、見知った顔が現れた。


 「勝手に行かないで下さいと、今朝申し上げたばかりでしたのに。貴方という人は、まったく……」


 溜め息混じりに悪態をつきながら、ゆっくりと白いローブの男が近づいてくる。


 「聖職者?」


 聖職者が、軽く頭を下げた。


 「今朝ぶりですね」


 なぜ、聖職者がここに?今日は城での仕事があるからと、朝早くに出ていった筈だが、こんなところで何をしているんだ?


 「勇者を見つけて、つい追いかけてしまった」


 フードの男は口元に弧を描きつつ、聖職者に言った。

 このやりとりを見る限り、二人は顔見知りなのだろう。

 どういう関係なのかは、見当もつかないが。


 「知り合いか?」

 「そうですね……」


 聖職者は曖昧に答えると、フードの男に視線を送った。


 普段から息するように嘘を言う聖職者が、言葉に詰まるなんて珍しいな。

 この二人は、只ならぬ関係に違いない。


 「その態度ではすぐにボロがでそうだな。まあ、僕はいいのだけれどね」


 フードの男は大袈裟に肩をすくめる仕草をし、クスクスと笑った。


 城勤めの聖職者と、見るからに怪しいフードの男……。

 もしや、聖職者は闇の人間だったのか。

 それとも、フードの男の方が闇を暴くスパイなのか。


 「確かに。無理に隠す必要もありませんしね、第二皇子様」


 聖職者はライムブロンドの髪を揺らしながら、にっこりと微笑んだ。


 「なっ!?」


 第二皇子だと!?


 聖職者に正体をバラされた男が、深々と被っていたフードを取り払った。


 最初に目に入ってきたのは、薄暗い中であっても光輝く、ピンクゴールドの髪。

 長い髪は、邪魔にならない程度に首筋の辺りで緩く纏められているだけで、飾り気はない。

 だが、皇族特有の魔力を確かに感じる。


 楽しそうに細められた瞳の色は、噂通りの深紅。

 第二皇子と目を合わせれば、その瞳の妖艶さに誰もが惑わされると言うのは、帝国では誰もが知る話だ。


 「第四が世話になっているね。彼とは上手くいっているかい?」

 「特に問題は無いと思いますが……」


 噂通りだとすれば、あまり目を合わせない方がいいのかもしれないが、始めてみる第二皇子の姿に、ついつい目が行ってしまう。

 まるで自己主張するかのように、強い輝きを放つ赤い瞳は特に目を引かれる。


 「それは残念。僕としては上手くいってない方が良かったんだけど」


 残念?第二皇子は俺と皇子の関係が良くなることを望んでいないのか?

 皇帝からの命だから、お互いに従わなければならない立場で、協力するのが良いに決まっている。

 それに、兄なんだから弟の心配をするべきじゃないのか。


 ……そうか。

 ここで俺は、城での皇子の立場が弱いことを思い出した。

 そのせいで城から離れて、俺と暮らしていることをすっかり忘れていた。


 第二皇子は、皇子が皇帝の命に失敗することを望んでいるのかもしれないな。

 俺が今ここで第二皇子に会えたのはチャンスだ。

 今後の動きを探り、皇子にとって有利な情報を手に入れてやる。


 「なぜですか?」

 「だって、僕は君を僕のモノにしたかったんだ。第四に取られるなんて、面白くないに決まっている」


 目的は俺ってことか?

 予想してたのと違うな……。


 「俺は貴方のモノになる気はありませんが」


 「では、第四のモノになるってことかい?」

 「いいえ。そもそも俺はモノではありませんので、答えられません」


 「僕が聞きたいのはね、君が誰の側に付くのかってことだよ」


 第二皇子は、試すような視線を俺に向けてきた。


 「誰に付こうとも思っていません。今は皇帝陛下の命である、第四皇子の世話係を全うする事、それだけを考えています」

 「もし陛下が君に、僕のモルモットになるように命じたら、それに従うのかい?」


 「まさか。例え陛下の命でも、これ以上の理不尽は耐えられませんので逃げます。それに、俺は聖剣に捨てられた「元勇者」ですよ?そんな俺なんかよりも、現勇者を捕まえた方がいいんじゃないですか」


 「それは骨が折れそうだ。彼に手を出せば、聖剣が黙ってはいないだろうからね」

 「俺も全力で抵抗しますが」


 「それは面白そうだ。どうだい?どちらが勝つか、一つ試してみようじゃないか」


 第二皇子がローブから腕を出し、その手を俺に向けてまっすぐと伸ばした。

 見せつけるように差し出された中指には、大きなルビーの付いた指輪が嵌められ、赤い石の中で光がチカチカと瞬いている。


 「さあ、勇者。君に今から最高の気分を味あわせて——」

 「勝手な真似は止めて下さい」


 輝いていたルビーが、跡形もなく砕け散った。

 風に舞う砂の様に、赤と青の光がサラサラと散っていく。


 いったい何が起きたんだ?

 それに今の声は……。


 「皇子?」


 声のした後方へと振り返ると、そこには皇子が立っていた。


 「探しましたよ、勇者。私の応援をしてくれると言っていたのに、貴方があまりにも遅いから、試合が終わってしまいました」


 そうか。もう、終わってしまったんだな。

 応援すると約束しておいて、俺は声援どころか、観戦もできなかったのか。


 「……申し訳ありません」


 俺は皇子に向かって、最大限まで深く頭を下げた。

 後頭部越しに視線を感じるが、皇子は何も言わずに沈黙したまま。


 しばらく続いた沈黙を破ったのは、第二皇子だった。


 「良く躾けられてますね」


 第二皇子の言葉に、すぐさま皇子が言葉を返す。


 「兄の言いつけも守れない貴方には、もっとちゃんとした躾が必要なようですね」


 「いいんですか?そんなに強気で。貴方はご自分の立場が分かっていないのですか」

 「契約を放棄するのであれば、お好きになさってください。その責任はしっかりと、とっていただきますけれど」


 「冗談ですから。兄上に怒られるのは嫌ですし、陛下にもその辺は口酸っぱく言われていますので、ご心配なく」

 「今回の件も、未遂ですが罰が与えられますので、そのつもりでいてくださいね」


 第二皇子は一瞬固まり、その後、苦虫を噛み潰したような表情をしながら皇子に赦しを求めた。


 「一回ぐらい見逃してくれませんか?」

 「無理な願いですね」


 皇子はそれを、一刀両断する。


 「第二皇子様。今日は大人しく帰りましょう」


 呆れながらも、第二皇子に助け舟を出した聖職者だったが、それは間違いだったようで。


 「聖職者。「今日は」ではありませよ。彼が不用意に勇者に近づかない様に、しっかりと監視しておいてください。それが貴方の仕事でしょう?」


 皇子に冷めた視線で叱られた。


 「おっしゃる通りです。陛下と第一皇子から頂いた大事な仕事でございます」


 深々と頭を下げる聖職者。


 言い訳はせず謝る当たりが、さすが城勤と言えるところだ。

 が、空気の読めない第二皇子は、更に失言を重ねる。


 「大体、陛下は兄上に甘いのですよ。僕が欲しいと言った時は、地下研究室に数か月監禁なさったというのに、兄上がお願いした時は、すぐに場を整えてしまわれた。僕が監禁されている間に、勇者は魔王討伐の旅に出てしまい、会える日を心待ちにしていたのに、あんな無理やりに契約させるなんて……」


 「おしゃべりが過ぎますよ」


 普段の皇子からは想像もできない、冷たく鋭い視線が第二皇子を射抜いた。

 視線の先の第二皇子は、顔を強張らせながら視線を下へと反らした。


 「すべてが終わった時は、僕にも褒美をくださいますよね?」


 恐々と様子を窺いながら、それでも利己を通す勇気は、いったいどこから来るのだろうか。

 皇族のメンタルはかなり強いようだ。


 「内容次第です」


 皇子の返事に、第二皇子は小さく頷いた。


 ようやく話し合いにケリがついたようで、皇子は第二皇子から視線を外し、聖職者に向けた。


 「聖職者、第二皇子を早急に城へご帰還させてください。陛下もさぞ心配なさっているでしょうし」

 「仰せの通りに。では、帰りましょうか、第二皇子様」


 聖職者は皇子の指示に従い、第二皇子を連れてこの場から去っていった。


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