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昇格試験3


 控室のテント裏は試合の関係者以外は立ち入り禁止になっているが、例外として、参加者の連れであれば三人を上限として立ち入りが許可されている。

 今は試合の真っ最中。

 関係者の殆どが出払っているせいか、この場所は町の薄暗い路地裏のように静まり返っていた。


 俺は、会場で皇子に対して失礼なことを言っていた奴を捕まえて、ここまで連れて来たのだが、奴は道中かなり煩かった。

 言っていることの大半が意味の分からないことだったし、常に上機嫌でずっと喋りっぱなしだ。


 目的地に到着し、俺は振り向きながら男を見やった。

 フードを深く被っているせいで目元の表情はよく分からないが、唯一見えている口元は、笑んでいるように見える。


 「こんなところに連れて来るなんて、僕に何をする気なのかな?」

 「説教だ」


 俺はテント裏に生えていた木に背にもたれ掛かり、フードの男と向かい合う。


 「お前、皇子に向かって無礼だぞ」

 「無礼って、何が?」


 フードの男は何の悪びれもなく、本当に分からないのだと首をかしげた。

 この世にまだ、こんな人間がいようとは。

 世界を統べる帝国の皇子にヤジを飛ばしたんだぞ。

 本気か?


 「さっき皇子に向かって無礼なことを言っていただろう」

 「そんなこと言ったかな?僕は第四皇子に激励を飛ばしただけなんだけど」


 あれが激励で済む人間は、この世には数えるほどしかいない。

 皇族に許可なく賞賛以外の言葉を伝えることが許されている人間は、皇族のみだからな。


 「皇子に対してあんな物言いは無礼だ。下手をすれば、注意では済まないぞ」

 「確かに、帝国騎士に聞かれでもしたら城に連行されてたかも。でもさ、本人はそんなに気にしてないものだよ」

 「あんたがそう都合よく解釈しているだけで、気にしているかもしれないだろ」


 こいつ、今までよく生きてこれたな……。

 こんな態度で生活していたら、どっかの貴族に干されててもおかしくないのに、ピンピンしてるぞ。


 だがしかし、フードを深くかぶっているのには意味があるのかもしれない。

 貴族に怒られて顔に大けがを負っているとか。

 もしくは、すでに顔が割れているから隠しているとか。


 今まで大変な目に合ってきたのかもしれないな……。

 だとしても、自業自得だが。


 俺は改めでじっとフードの男を観察する。


 くすんだ色のローブは踝までを覆い隠す長さがあり、体格などの体の特徴はまるで分からない。

 さらに大きめのフードが頭の先から顔の殆どにかぶさっているせいで、見えている部分は口元だけ。

 その口元から男を理解しようと注視しているのだが、あまり収穫はない。

 鑑定スキルを使ってみたが、ローブに細工がしてあるのか、視えなかった。


 手詰まりを感じながらも男を観察していると、不意に男の口元が今までになく大きく歪み、歯を見せて笑った。


 「あははっ!勇者、君って意外と常識人だったんだ。兄上の話を聞く限りだと、魔物に毛が生えたぐらいの知能しかないものかと思ってたのに、目上の人間を敬う意思があるなんてね。あ、魔物もそれぐらいはできるか」


 いきなり何なんだ、こいつは。

 急に大声で笑いだしたかと思ったら、訳の分からないことを。


 俺の知能が魔物に毛の生えた程度だと?

 それってつまり……どういうことだ?

 魔物って頭いいよな?

 森の水辺とかすぐに探し当てるし、旨い木の実と不味い木の実とか見分けるのも得意だし。

 賢い方じゃないか。


 しかし、フードの男の態度は明らかに俺を馬鹿にしているように感じるんだが……。


 「馬鹿にしているのか?」


 俺は疑問に疑問を抱きつつも、フードの男に聞いてみる。


 「とんでもない。褒めているんだよ、予想以上に知能が高いことをね」


 今、予想以上にって言ったぞ。

 たぶん頭悪いと思ってたんだろうけど、こいつの俺に対しての元々の評価が分からないから、怒っていいのかわからん……。


 「ねえ、これから時間ある?僕にちょっと付き合ってくれないかな。君に聞きたいことが沢山あるんだ。今までは兄上に言われてて君に近づけなかったんだけど、今ちょうど兄上は用事で席を外してる。こんなチャンス、めったに無いんだよね。だからさ、僕に付き合ってよ」


 はぁ……。こいつは何でこんなにもマイペースなんだ。

 俺はまだ前の話の内容を理解しきってないのに、さらに疑問が増えたじゃないか。


 「時間ある?」は分かるが、「兄上に言われてて」の辺りが訳が分からん。

 こいつに合ったのは初めてだし、ましては兄の存在なんて知る筈もない。


 それなのに、兄には俺に近づかないように言われているのか?

 元勇者の件が関係ありそうだが、これに関しては今更弁解する気も無い。


 そして、兄がいないからといって、言いつけを破るには駄目だろう。

 俺が言うのもなんだが、こいつは俺に近づくべきではないな。


 よし。最もらしい理由をつけて諦めてもらおう。


 「見ての通り俺は今、皇子の応援をしているんだ。ここを離れるわけにはいかない」

 「応援しなくても勝てるでしょ。君にあんまり見られると、かえってやりずらいんじゃないかな」


 お前が勝手に皇子の代弁をするな。

 皇子は俺が見てた方が心強いに決まってる……よな?


 「皇子の後は、俺も試験を受けるんだ。用ならその後にしてくれ」

 「それだと遅いんだよね。兄上が戻って来くるからさ」


 兄、早く戻ってこい。

 弟が言いつけを破る非行少年になってもいいのか。

 早く家に連れ帰って、皇族への敬意を教え込まないと後で大変なことになるぞ。


 「それなら諦めろ」

 「はぁ……。仕方ない」


 ローブの男はため息を漏らすと残念そうに項垂れ、フラフラと出口に向かって歩き出した。


 やっと帰る気になったか。

 皇子に対しての態度を改められたかは疑問だが、これ以上関わるのは良くないと俺の第六感が告げてる。


 男が俺の横をすり抜けていく。

 その時、すれ違いざまに男は、ボソッと何かを言った。


 「無理やり連れてくしかないか」


 その直後、脇腹に痛みを感じ、反射的にそちらを見た。

 目に飛び込んできたのは、空の注射器が抜かれる瞬間だった。


 「いきなり何を!?」


 俺は逃がさないように、フード男の襟首を締め上げる。


 「気分はどう?」


 フード男は焦りもせず、先ほどまでと変わらない口調で言った。

 男の質問に答える義理は無かったが、聞かれたからには考えざるを得ない。


 体に異常は……無さそうだな。

 注射器を刺されたってことは、薬物を投与されたんだろう。

 だが、驚くほど何の変化も無いぞ?

 失敗作か?


 「……特に変わりはないが」

 「さすがは勇者。聞きしに勝る怪物ぶりだ。これを打ってなんとも無いなんてね。普通の人間なら、3日程は昏睡状態に陥る筈なのに」


 凄くお気楽に話しているが、いきなり人に薬物を投与するのは犯罪だからな?

 たまたま効き目が薄かったから良かったものを、話どおりの効果が出ていたら、今頃は犯罪者になっていたんだぞ。


 しかし、今は何ともないが、今後も何も起こらないとは限らない。

 最善の対処をしておいた方がいいだろう。

 薬物を持っているくらいなら、中和剤も持ち歩いているはずだ。


 「解毒剤をよこせ」

 「ああ、安心してよ。今刺したのは毒じゃないから。ちょっと強めだけど、ただの睡眠薬なんだ」


 三日も昏睡状態になる薬物が、ただの睡眠薬なわけないだろ……。

 いきなり死ぬってことは無いよな?

 念のため、後で医者に診てもらおうか。


 そして、この男は騎士に引き渡そう。

 野放しにしておくには危険すぎる。


 「行くぞ」

 「やっと僕に付いて来てくれる気になったんだ」

 「お前が俺について来るんだ」


 確か会場の出入り口に騎士が配置されていたはずだ。

 早いとこ引き渡して、試験が終わる前に皇子の元へ戻らなくては。


 お俺はフードの男を引きずるようにして、会場へと歩き出した。


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