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昇格試験2


 「お二人とも昇級試験を受けると言うことでよろしいですか」


 俺と皇子のやり取りを聞き、受付嬢はそう判断したのだろう。

 確かに皇子の目標を聞いた後で、俺に試験を受けないという選択肢は無い。


 先に書類を読み始めた皇子は、すでにペンを握り締め、サインをする気満々のご様子だ。

 俺も皇子の横に並び、適当に書類に目を通してから一番下の欄にサインをし、受付嬢に渡した。


 「お二人の申請書、お預かりいたしました。本部にお送りしてから数日後に受理されると思います。日程が決まりましたら、すぐにお伝えしますね」


 「それではまた」と手を振る受付嬢に礼を言い、俺たちはギルドを後にする。


 試験の日程や対戦相手は、どんな具合になるだろうか。

 対策を考えられるぐらいの時間があればいいのだが、それはいま考えても仕方の無い事だ。

 とりあえず日程が決まるまでは、今まで通り依頼を受けて過ごすしかないんだからな。


 


 それから三日後。

 いつも通り依頼を終え報告をしにきた俺たちは、受付嬢に呼ばれ、カウンター席に腰を掛けて待っていた。


 「話があると聞いたが」

 「勇者さん、皇子様、突然すいません。本日お呼び出しさせていただいたのは、お二人の昇格試験が一週間後に行われることが決まりまして、そのご報告です」


 昇格試験の日が一週間後に決まったのか。

 予想していたより時間があるな。

 これなら試験の準備にも余裕がありそうだ。


 さて、一番の問題は、対戦相手がどんな奴かなのだが……。


 「相手は誰なんだ」



 俺の記憶が正しければ、Eランクへ昇格試験では相手の基本的情報を教えてもらえるはずだ。


 「お相手は……秘密です」


 なんだと?俺の記憶違いだったか?

 前回は聞いてもいないのに、スラスラと情報を読み上げていたような気がしたんだが、どうやら勝手な思い込みだったようだ。


 「俺はてっきり相手の名前ぐらいは聞けるもんだと思っていたんだが、違ったようだな」

 「すいません。相手の方に口止めされてしまいまして……」


 ギルド相手に口止めなんて、どのぐらいの金を払えばそんなことができるのか。

 「金で動くな。金で動かせ」を理念に掲げるギルドを動かすには、相当な金と権力が必要なんだろうが、額までは想像できないな……。


 「普通ならこんな個人的なお願いはお断りするんですけど、ギルドとしては破格の条件だったので、特別に許可してしまったんですよ。その代わりと言ってはなんですが、皇子様の対戦相手の方の情報をできる限りお伝えいたします!」


 どうやら教えられないのは俺の相手だけで、皇子の相手は教えてもらえるようだ。


 受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げているが、その必要は全くないぞ。

 なんせ俺にとって、かなり有難い申し出だからな。


 今一番大事なことは、あと1週間で皇子に相手の対策を覚えてもらうこと。

 俺の相手なんて、ギルドを買収できるほどの金持ちだとわかっただけで十分だ。

 会場で会ったら礼でもしてやるさ。


 対戦相手へのお礼の言葉を考えていると、受付嬢はいつの間にか手にしていた縦に長い紙を広げ、そこに書かれている内容を読み始めた。


 「皇子様の相手のお名前は、ラリーさん。Eランクの中で実力は真ん中程度」


 Eランクで真ん中の実力って、どれぐらいの強さなのか見当もつかないな。

 ランクが高ければ強いのは勿論なんだが、低いからといって弱いというわけではない。


 相手について、もう少し具体的な情報が欲しいところだが。

 さて、どこまで聞き出せるか。


 「スキルは何系に特化しているんだ?」

 「初級の肉体強化系をよく使っているようです」


 「戦闘スタイルは?」

 「片手剣を使った一般的な剣士スタイルですね。流派までは分かりませんが、特殊な剣術ではありませんでした」


 肉体強化系の剣士か。


 城で剣術を習っていた皇子にとっては、魔物よりも案外こういう相手の方が得意かもしれないな。


 好条件での試験が受けられそうでよかった。

 これからの一週間は試験を意識して、対人戦闘の訓練をしよう。


 「情報の提供、助かった」

 「どういたしまして。勇者さんは皇子様のことを心配されているようですけど、ご自身の準備もしっかりされた方がいいですよ」


 皇子のことばかり考えている俺に、受付嬢は笑顔で忠告してくれる。


 確かに受付嬢の言うことももっともだ。

 皇子が試験に合格したのに、俺が落ちて足を引っ張るわけにはいかない。

 俺は相手の情報が無い分、実力で挑むしかないんだからな。


 「もちろんだ。皇子が昇格して俺が試験に落ちたのでは世話も無い。誰が相手だろうと本気で挑む」


 落ちても元Aランク。

 本気で挑めばEランク相手に負けたりはしないだろう。


 「あはは……。お相手に伝えておきますねー」


 少し意気込みすぎたのだろうか。

 苦笑いの受付嬢に見送られ、俺たちはギルドを後にした。




 そして1週間後。いよいよ昇格試験の日がやってきた。


 会場には多くの人が集まり、屋台で買った食べ物や飲み物を持った人々が、広場に設置された試合会場の周りをぐるりと取り囲んでいる。

 昇級試験は町の祭りごとの一つになっていて、広場で公開試合として行われるのだ。


 毎回それなりに賑わう催しだが、今日はいつにも増して人が多いような気がする。

 よく見ると、この町の人間ではないだろう貴族が、チラホラいるのが目に付いた。


 今日は何か特別な催しでもあるのか?

 それが何なのか深く考え始める前に、俺は思考を切り替えた。


 そんなことより、今は皇子の試験を優先しなくては。

 万が一にも不合格は許されない。

 こんな大勢の前で皇子に恥をかかせたとなれば、間違いなく牢獄行だ。


 「皇子。試験の相手であるラリーのことは、先日お話しした通りです。攻撃を避けつつ、隙が出たら反撃しましょう。序盤は相手に攻撃をさせて、後半に隙を狙う作戦で」

 「相手の情報は暗記しましたので問題ありません。勇者が私の為に集めてくれた情報ですから、無駄にしたりはしませんよ。作戦も頭に入っています」


 人混みで賑わう中、思ったより皇子は落ち着いていた。

 初めての試合で緊張しないか心配だったが、さすが皇族といったところか。

 注目されるのに慣れているようだ。


 「第四皇子様。壇上におあがりください」


 試験のアナウンスが皇子を呼んでいる。そろそろ試験が始まる時間か。


 「必ず勝ちます」

 「皇子。勝つ必要はありませんから、怪我だけはしない様に気をつけてください」

 「行ってきます」


 皇子は眩しい笑顔で答えると、壇上へと上がって行った。


 皇子の向かい側には、試合相手のラリーが立っていた。

 情報通り一般的に流通している片手剣を腰に差しているのが見える。

 体格も聞いていた通りで、特に大きくも無ければ小さくもない。


 ラリーについては自分でも調査したが、これと言った特徴も無い片手剣の剣士だった。

 皇子が普段通りの実力を出せれば、問題なく試験は合格できるだろう。


 「お集まりいただいた皆様!まもなく昇給試験を始めさせていただきます」


 試合の前座が始まった。

 対戦者が対峙する中、ややテンション高めの司会者が場を取り仕切る。


 「本日の昇級試験はなんと!2試合あります!!まず一試合目の対戦者は……第四皇子様VSラリーさんです!第四皇子様は現在Fランクでありますので、Eランクへの昇格をかけた戦いになりますね。皇帝陛下の命により、皇族としては異例のギルド入籍をされた第四皇子様。入籍の理由は、市民の生活を体験するためだとか。皇族の代表として、ギルド員になられた第四皇子様の晴れ舞台!深い慈悲に感謝を込めて、心からの応援をいたしましょう!!」


 司会者の号令と共に、観客が一斉に沸く。


 投げかけられるすべての言葉が、皇子を応援するものであるのは、当然と言えば当然か。

 皇族相手にヤジを飛ばす奴など、いるわけがないのだからな。


 「ここまで来て下手なミスしないでくださいよー。皇族の誇りに傷を付けては駄目だって、よく言っていたでしょ?」


 しかし、命知らずの馬鹿はどこにでもいるものだな。

 それとも世間知らずの方か。


 どちらにせよ、皇子への無礼を許すわけにはいかない。

 俺は目の前ではしゃぐ男の肩を掴み、人ごみから連れ出した。


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