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昇格試験


 俺はギルトの受付嬢に、採取した魔物の素材や薬草と、受けていた依頼の依頼書を渡した。


 「お疲れ様です。本日も薬草採取の依頼を受けて頂き、ありがとうございます」


 受付嬢は、依頼書と渡した物を見比べ、依頼書に判を押した。


 「依頼の達成が確認できました。こちらが本日の報酬です」


 俺は受付嬢から、依頼書に書かれていた額の金銭を受け取とる。


 俺と皇子は、先日ギルドに加入してから、毎日のように依頼受けている。

 その都度、あまり受ける人がいない薬草採取の依頼も受けるようにしていた。


 その甲斐あってか、皇子はこの辺で取れる薬草の名前と効果を、すっかり覚えてしまった。


 「お二人のこと、教会の司祭様も感謝されていましたよ。今度直接お礼を言いたいそうです」


 感謝されるのは嬉しいが、気持ちだけ受け取っておこう。

 司祭に会うなんて、面倒なことはしたくないからな。


 「帰りがけに採取することができるので、少しでも生活費を稼ごうと受けているだけです。特別お礼を頂くようなことをしている訳ではありませんから」


 皇子もお礼は要らないようだ。

 俺と同じ気持ちかはさておいて、皇子が断っているのだから、司祭も無理やり押しかけてはこないだろう。


 「皇子様の御心使いに感謝いたします」


 受付嬢も皇子の意志を汲んでか、それについて、これ以上何か言ってくることはしなかった。

 同じことを俺が言ったら、と考えたがすぐに止める。


 皇子と自分を比べるなんて、懲罰ものの不敬罪だ。


 「感謝するのであれば、私ではなく勇者に。私は彼の意志に共感したに過ぎません」


 「俺は皇子の教育の一環として丁度いいと思ってやっているだけだ。皇子が俺の方針に賛同してくれていることに感謝するべきだな」


 皇子が俺を持ち上げる様な発言をしたため、俺は間髪入れずに、皇子を持ち上げる言葉を発した。


 どんな時でも目上の者を立てる。

 魔導士から教わった処世術の一つだ。

 貴族相手にこれができないと、簡単に島流しになるらしい。


 冷や汗を浮かべつつも、何とか対応ができたと思うのだが……。

 なんせ初めてのことで、何が正解なのか分からない。

 皇子の様子を窺ってみても、気を悪くした感じはないし、問題は無いのだろう。


 「ふふっ。お二人とも、これからも薬草採取お願いしますね」


 不意に受付嬢が笑った。

 なぜ笑ったのか理由は分からないが、悪い意味では無さそうだ。


 「はい」


 にこやかに返事をする皇子を見て、これからも皇子は薬草採取の依頼を受け続けるのだろうことを確信した。


 「任せろ」


 もちろん俺も同じ気持ちだ。


 そもそも、俺は以前からやっていたことだし、一人でもやるつもりだった。

 実際、以前は一人でやっていたのだ。


 だが、今は皇子が賛同してくれている。

 そのことに、胸の当たりが温かくなるのを感じた。


 「それでですね。お二人にお伝えしたいことがあります」


 突然、受付嬢の雰囲気が変化した。

 先ほどまでの嬉々としたものから、

 真剣みを帯びたものへ、がらりと変わったのだ。


 「何でしょうか」


 皇子もそのことに気が付いたのか、表情が硬くなる。


 緊急性のある依頼か。

 それとも、重要度の高い依頼か。


 あるいは、ギルドの規則に変化がおこり、その内容が俺と皇子にとって問題のあることなのかもしれない。


 いずれにせよ、それ以外にせよ、何か重大な知らせなのは間違いないだろ。

 そうでなければ、数々の依頼を裁いてきた受付嬢が、あんなに真剣な表情で伝えてくることなんて無いはずだ。


 「実は……」


 たっぷり溜めてから、受付嬢は大きく息を吸って口を開いた。


 「お二人とも昇格試験が受けられるようになりました!おめでとうございます!!」


 ……そんなことか。


 予想と違い、特に重大な話と言う訳ではなかったようだ。


 「そうか」


 拍子抜けな内容と、受付嬢のあまりの声量に、何とか一言返すのがやっとだった。


 皇子は皇子で、どういう反応をしたらいいか分からず、困っているようだ。


 「もっと喜んでくださいよ!勇者さんは何度目かのことですけど、皇子様は初めてなんですから」


 そう言われても、あんな話の切り出し方をされては、素直に喜べないのは仕方ないだろ。

 皇子だって、嬉しさよりも戸惑いの方が大きくなるのも無理はない。


 「昇格試験と言いますと、ランクを上げるために試験を行うのでしょうか」


 皇子が困惑していた原因はそれか。


 ギルドのランクやグレードについて簡単には説明したが、ランクを上げる際に試験があることは、まだ話していなかったな。

 今回もまた、受付嬢が説明してくれるだろうから、ここは彼女に任せよう。


 「その通りです。次のランクに上げる為には、まず依頼を受け、それを達成し実績を上げていきます。ある程度の実績が得られると、次のランクへと上がる為の試験を受けることができます」

 「実績を得てなお試験を行う理由はなんでしょうか」

 「実績は一人でもグループでも上げることができます。それによって、実績が高くても実力が伴わない方が出てきます」


 「なるほど。単純に実績だけを見て昇格させると、力のない者も高いランクを有してしまう、ということですね」

 「はい。そうなってしまえば、ランクに対しての信頼性を失い、適切な依頼を行うことができません。ですから、ランクに見合った試験を行い、合格した方は昇格できる制度になっています」


 「となると、試験は一人で行うのですね。どういった内容なのですか?」

 「一つ上のランクの方と、一対一の模擬戦を行っていただきます。皇子様はFランクですので、相手はEランクの方になります。時間は十五分です。我々ギルドの昇格審査担当が観戦し、終了後に審査の結果をお伝えします」


 「勝利することが条件ではないのですね」

 「もちろん勝利すれば間違いなく合格になります。しかし、必ずしも勝利することが条件ではありません。ランクが上の方との戦いなので、まず勝てる方はいません。ほとんどの場合が審査により昇格します」


 ランクの昇格についての説明が終わり、受付嬢が昇格試験の申請書を二枚机に並べた。

 俺と皇子の分だ。


 この試験に合格すれば、FランクからEランクになれる。

 ギルドに所属する者にとって、それはめでたいことだ。


 だが、皇子にとってはどうなのだろか。

 皇子がギルドに入ったのは、皇帝の命があったからだ。

 さらに、理由は市民の私生活を学ぶため。


 そんな皇子が、わざわざランクを上げる必要があるのか。

 Fランクのままで十分ではないか。


 「皇子、無理に試験を受ける必要はありません。Fランクのままでも受けられる依頼は沢山ありますから」


 EランクとFランクの違いなんて、魔物の強さが変わる程度。

 魔物討伐の依頼以外は、受けられる依頼に大差はない。


 市民の私生活に、高位の魔物討伐は含まれないだろう。

 皇子がEランクになる必要性はないに違いない。


 「確かに、ギルドに入ってから色々な依頼を受けてきましたね。ですが、受けられない依頼の方が多いことが、Fランクである私達の現状です。僕はもっと上に行きたい。できることなら、かつて貴方が立っていたSランクにまで上り詰めたいのです」


 決意に満ちた皇子の力強い眼差しに、俺は自分の考えの浅はかさに気づかされる。

 FランクからEランクになることの意味を考えていた俺は、狭い視野でしか物事を見ることができていなかったんだ。


 皇子は最高位であるSランクを目指している。

 その上で、現状の力不足を嘆いているんだ。


 そんな皇子の世話係を任されたものとして、俺は打算的ではなく、誠実な対応をしなければならないだろう。


 だからこそ言わせてもらいたい。

 かつての俺の最高ランクは、Aランクです、と。


 俺は声に出さずに、心の中でそう呟いた。


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