旅する魔人御一行様【銀の森】
銀の森の銀狼は、人間に媚びる下等な魔族。
ちょっと崇められた程度で、人間に肩入れして、魔王に殺された哀れな獣。
更に残念なことに、その亡骸を見つけた人間は埋葬するでもなく、毛皮剥いで売りさばいた。
僕には分からないよ。
人間なんて私利私欲の為にしか生きられない、可哀そうな生き物を、自分を犠牲にしてまで守る意味がさ。
「あ〜。君がグズグズしていたから持ってかれちゃったよ。どう責任とってくれるのかな、アル君」
僕はお気に入りのアル君と旅に出ているんだけど、これがとっても面倒くさい旅なんだよね。
粉々に砕けた石探しなんて、何で僕がこんなことをしなくちゃいけないんだか。
全部、勇者が悪いんだ。
どの時代も勇者って言うのは、身勝手で馬鹿ばっかり。
魔王倒すだけなのに、玉座を壊す必要ある?
「どうと言われましても、私のせいでは無いと思いますが」
アル君が、もうちょっと面白いことを言えれば、面倒なこの旅も少しは楽しくなるって言うのに。
「これはもうアレだね。アル君が魔王になるしかないね」
「先日、嫌だと申し上げたばかりです」
「君のせいで玉座の破片持ってかれちゃったんだから、責任を取るべきでしょ?魔王になるなら、今回のことは水に流してあげるからさ。さあ、喜んで魔王になりなよ」
「お断りします」
まったく。
結構前から誘ってるのに、アル君はどうして魔王になりたくないんだろ。
魔王は魔族の王なんだよ?
全魔族がひれ伏して、命令し放題の、ラクし放題。
面倒な仕事は全部任せて、自分は自堕落な人生を謳歌できるって言うのに。
よくよく考えたら、アル君が魔王になっていれば、玉座を破壊されることも無かったんじゃないの?
そう思ったら、すっごくムカムカしてきた!
「あっそ。それじゃ、勇者から玉座の破片取り返して来なよ」
アル君が道草食ってる間に、勇者が玉座の破片を持って行ったんだしね。
久しぶりの城下町で、美味しい物たくさん食べられたのは良かったけど、仕事を忘れて遊んでたのは感心しないよね。
当然、アル君が取り戻すに決まってるでしょ。
「命をお受けすることは可能ですが、その場合、勇者様の命の保証はできかねます」
勇者の命?
そんなの、どうでもいいでしょ。
勇者が死ぬところなんて何回も見て来たし。
もしかして、アル君は魔王じゃない自分が、勇者を殺すことを気にしてるのかな?
確かに、感の良い人間は気づくよね。
魔王に勝った勇者が他の魔族に殺されるなんておかしいって。
新しい魔王がもう出てきたのかって、大騒ぎになりそう。
それとも、勇者が倒したのは魔王じゃなかったのかって、展開になったりするかも。
それはそれで面白そうだから見てみたい気はするけど……。
たぶん無理だろうね。
今期の勇者、規格外にしても度を越してるし。
「別にいいよ?アル君に負けるような奴に興味無いし。てか、リン君の方こそ危ないかもよ?玉座を壊した相手を舐め過ぎなんじゃないのかな〜」
「現在の勇者様は聖剣を持っておられないようなので」
聖剣の有る無しで変わるような戦闘力だったら、玉座壊したりなんてできないからね。
アレは僕が魔力を込めた特別製なんだよ?
今までたくさんの魔王と勇者の戦いを見届けて来たけど、傷がついたことさえも無かったんだから。
それが粉々になるなんて、全くの想定外だよ。
それに、あの時勇者は聖剣の力なんて使ってなかった。
その証拠に、刺された魔王は浄化されていない。
生まれ変わっても、また魔族として生まれてくるだろうね。
勇者は聖剣の力も使わずに、腕力だけで玉座を粉砕したんだ。
魔族の僕から見ても、人間とは思えない力だよ。
「なるほどねー。うんうん。リン君って、本当お馬鹿さん。そんなんじゃ、魔王になってもすぐに勇者にやられちゃうよ」
「仰る通り。やはり魔王になるなど、私には荷が重いようです」
アル君のこういうところ、めんどくさいんだよ。
揚げ足とって反論してくるところがさ。
せっかく助言してあげようとしてたのに、水を差すなんて感じ悪いよね。
ちょっとお仕置きしないとダメかな。
「すぐに死んじゃう魔王ほど役に立たないものは無いからね。でもね、アル君。お馬鹿のくせに言うことを聞かない奴は、存在する価値もないんだよ。魔族の常識、忘れちゃったのかな?」
「……」
ちょっと怒気を滲ませただけで萎縮しちゃうなんて、アル君はか弱いいなー。
汗まで掻いて、可哀そうに。
そんなに怖がらせるつもりなかったんだけど、加減を間違えたかな?
最近表に出ること無かったから、魔力の加減が分からなくなってるみたい。
アル君のことは気に入ってるし、一人旅もつまらないから、逃げ出さないようにフォロー入れとかないと。
「でも良かったね、アル君には優しい僕がいて。アル君がお馬鹿のまま死んじゃわないように、僕がちゃんと世の中のこと教えてあげるからね」
言葉の後には、とびっきりの笑顔で安心させてあげなくちゃね!
どう?効果バッチリ?
「……ありがとうございます」
「ちゃんとお礼が言えるなんて、やっぱりアル君はいい子だね」
うんうん。僕の優しさは、アル君にちゃんと伝わったね。
ご褒美に頭を撫でてあげたら、アル君すっごく嬉しそうだった。
「じゃあ、今のアル君に必要な知識を教えてあげるよ」
それは勇者のこと。アル君だけじゃなくて、魔族も人間も、皆が気づいていない、今期の勇者の知識。
そのことを話すには、まず勇者の素質について知っていなければならない。
この程度の常識は、アル君も知っていると思うけど、一応おさらいね。
勇者の素質として必要なものは「白い心」ただそれだけ。
それを持った人間が聖剣を抜いた時、その人間は勇者と呼ばれるようになる。
実際に歴代勇者たちは、全員染み一つない真っ白な心を持っていた。
人間を守るために魔王と戦うことに何の疑問んも抱かない。
聖剣を手にした自分の宿命だと、信じて疑わない。
他人の為に、自分を犠牲にすることをいとわない。
それが勇者と言う存在の在り方だった。
でも、今期の勇者はどうもおかしい。
勇者の素質である悪意の無い心、目が痛くなりそうなほど白い筈の心が、全く見えないんだ。
人間の心を見ることは、魔族にとって基礎中の基礎。
息をするのと同じくらい簡単なことなのに、アイツの心は、まるで心そのものが無いかのように透明で視覚できない。
心を隠すことなんて、人間にできるはず無いのに。
例外として、魔族と契約すればその限りではないんだけど、魔王城で見た勇者に契約している様子はなかった。
そもそも、魔族との契約には大なり小なり欲が必要だから、白い心を持つ勇者が魔族と契約なんてできるはず無いんだけどね。
「話が長くなっちゃったけど。まとめると、今期の勇者は規格外過ぎて危険、ってことだよ!わかったかな、アル君?」
「はい」
「うんうん。いい子、いい子」
できの良いアル君でほんとよかった。
こんなに丁寧に説明したのに「わかりません」なんて言われたら、お飾りでついてるだけの頭を吹き飛ばしちゃうところだったよ。
僕はできの良いアル君の頭を、優しくなでてあげる。
「勇者が持ってた玉座の破片は、その内取り返すとして。次は何処に行こうかな」
玉座の破片はいくつかあるし、勇者の持ってるのは後回しでも問題ないや。
それより、他の破片がどうなってるか気になるんだよね。
「この辺りですと、帝国の城にも一つあるようですが」
「じゃあ、アル君とってきてよ」
「御意」
仕事が早いなー。もう行っちゃったよ。
勇者のことは分かってて、あんなこと言ったんだね。
僕、やっぱりアル君に魔王になってもらいたいな。
次に次にって魔王選ぶの面倒だし、アル君ならしばらく続きそう。
常識あるから、補佐するのもラクそうだし。
なんなら千年くらい自由になれちゃうかも……。
「自由になってもやること無いんだけどね」
僕には魔王の補佐が丁度いい。
玉座にふんぞり返って、無い頭で考えられた低レベルの提案に振り回される。
そんな日常が僕にはお似合いだ。
「さてと。小言ばっかのアル君はいなくなったし。町に行って観光でもしよっと」
僕は今、魔王不在で非日常な旅の途中。




