本当に皇子
城を出てしばらく南に行くと、小さな村がある。
その村の少し手前にある森の中に、俺の住む小さな家が建っている。
城から村まではざっと数えて6里。その手前にある俺の家までは5里ぐらいだろう。
普段から家と城を行き来している俺にはなんてことも無い距離だが、城から出たことも無さそうな第四皇子には少し遠いかもしれない。
皇子になら馬なり馬車なり出すだろ、普通。
この第四皇子の扱いは、他の皇子に比べるとかなり雑という印象だ。
城門まで送り届けた兵士も、外へ出すなりすぐに門を閉めたしな。
第一皇子から下の皇子になるにつれて権力は徐々に落ちていくと聞いていたが、末子だろうが皇子は皇子。
王族以外が侮辱をしていい相手ではない。
しかし、第四皇子は明らかに蔑ろにされている。
あー、考えたくない。早く終われこの仕事。
そういえばこの仕事任期はいつまでだ?この皇子がどうなったら終わりなんだ?
まさか死んだらとか言わないよな……。
はぁ。後で伝書鳩飛ばすか。
「着きましたよ、皇子。ここが私の家です」
なんだかんだ考えている間に、いつの間にか家についてしまった。
途中魔物に絡まれたような気がしたが、気のせいか。
……皇子の服汚れてるぞ。
「服すいません」
「いえ。これぐらい洗えばいいのですよ。それよりも、助けて頂きありがとうございました」
この子供、本当に皇族とは思えないな。俺の知っている皇族は、傲慢で、自己中で、腹黒い最低野郎だ。
まさか偽物?皇帝の悪趣味なお遊びに付き合わされてるってオチもあり得るな。
「あの、僕は何をすればいいんでしょうか」
「まずは身分を証明してもらえるか」
「……はい」
皇子相手に強く言い過ぎたが仕方ない。
もし偽物ならすぐさま追い出してやる。
おおかた書状を持っている筈だ。それを確認して本物かどうか判断しよう。
「準備できましたか――」
な、なぜ服を脱いでいる!?
まてまて、俺はそんなこと頼んでないぞ!?
「どうですか?」
「……どうとは?」
どうもこうも、肌白すぎだろ。
服の上から見ても華奢だとは思っていたが、脱いだらもっと細いじゃないか。俺の体とは比べ物にならないくらい、なめらかで綺麗だ。
触れたらきっとスベスベで気持ちいだろうな。
「ここですよ。証明に値すると思いますが」
ここと言いながら手の示す先は胸の辺り。
見ていいのか?皇子だど名乗っているが、万が一女だったらどうする。
生まれてこの方、母親と姉の体しか知らない俺の理性は耐えられるのか?
しかし、見ろと言うもの、見ないのも申し訳がないと思うのも事実だ。
男としてのプライドもある。ここは自分を信じて、いざ!
「……男か」
「はい?」
恥ずかしそうに上目遣いで見てくる辺りが、完全に乙女のそれだが、胸を見れば一目瞭然。
そして、右胸に刻まれた痣が皇族としての証。
どちらの疑いも晴れ、ひとまず安心だ。
「いや、何でもありません。ご無礼をお許しください」
俺が深々と頭を下げる先で、着崩れの音がする。
皇子が服を着てるんだろう。分かっているが、色っぽく思えてしまうのは仕方ない。
童貞をこじらせている俺に、男と言えどあそこまで綺麗な裸体を見せつけられれば、少しは雄が反応してしまうんだ。
そんな俺の気も知らず、着替え終わった皇子が俺の左肩に手を置いた。
反射的にビクつく俺。
「私が皇子がどうか疑われたのは、私のせいです。貴方が謝る必要はありません。どうか顔を上げてください」
皇子に促されるまま顔を上げれば、優し気な瞳で俺を見つめる皇子がいた。
「誤解は解けましたか?もし、まだの様でしたら直接触れて頂いても——」
おかしなことを言いながら服をめくり上げる皇子を制止しようと、咄嗟に皇子の服を掴み下げる。
ビリッ!
服が破れる音が盛大に響く。
ああ……やってしまった。
焦った俺は力加減を間違えたようで、皇子を下ろすどころか引きちぎってしまったようだ。
右手には、さっきまで皇子が着ていた服の布が、無残な姿になって握られている。
「あ、えっと……どうぞ」
この状況をどうと捉えたのか、皇子は隠しようもなく露わになった上半身を俺にさしだしてくる。
さすがにこの状況で俺の雄がどうにかなる筈も無く、床に膝をつき、手をつき、頭をつけ、人生で一番の土下座をした。
「本当に申し訳ございません!!」
声量も魔王討伐の歓喜より出てたと思う。




