銀の森4.5【魔導士SIDE】
勇者を銀色の兔の元へ残し、俺と皇子は広間の中央で円陣を組んでいるラビットの方へ向かった。
「さてと、皇子どうします?久しぶりに体を動かしますか?」
「いいえ。私は後方で援護をします」
最近は体を動かすことが少なくなった皇子に、少しくらい戦闘をした方がいいと提案してみるものの、考える素振りも無くかわされてしまった。
かわされたというか、伝わってないのかもしれないけど。
「それじゃあ俺は、ラビットがなるべく後ろに行かないようにすればいいんですかねぇ~」
「そうしてもらえると助かります」
遠回しに手伝って欲しいとお願いしてみるものの、これも見事にスルー。
皇子は天然に真面目が合わさったような性格のせで、遠回しな言い方や、冗談がイマイチ伝わらない。
皇子のことは諦めて、俺は魔力を練りながら手を上げると、前方のラビットに狙いを定めた。
手で作ったピストルの銃口に当たる人差し指に魔力を集中させ、氷の礫を作り、手首を捻るアクションと共に一番手前のラビットに当てる。
氷の銃弾が当たったラビットは、当たった先から凍り付き凍死した。
「命中っと。まずは一匹~。あとは、ひーふーみー……十一匹か。どんどん撃ったらすぐ終わっちゃうなー」
チラリと後方にいる皇子の様子を窺えば、特に構える様子もなく傍観を決め込んでいた。
「さっさと片付けましょう」
「了解でーす」
こりゃ、俺一人で片付けるしかなさそうだ。
次の獲物に狙いをつけ、続けざまに二匹を同じように凍結させる。
すると、今までその場に留まって威嚇していたラビットたちが走り出し、一斉に四方八方へと散らばった。
急な反応だが、想定の範囲内だな。
まずは俺へと向かったって来た一体に正面から氷の弾丸を撃ち、次からは森に逃げようとするラビットから順番に撃つ。
五匹撃ったところで、残り三匹になったラビットは、逃げることを諦め俺に突進してきた。
一気に無力化することもできるが、ここまで一体ずつ撃ってきたわけだし、最後までそうじゃないとつまらない。
手を構えて射撃の構えをとり、近い奴から順に弾を打ち込む。
右、左そして……上?
「上って、そんなの反則だろ~」
ラビットの跳躍力を忘れていた。
最後のラビットが、俺の頭上を飛び越えて降り立った先には皇子がいる。
皇子のすぐ後ろは森だ。
あいつ、皇子を盾にして逃げる気だな。
「考えは悪くないけど、相手が悪かったよな」
一人ごちる俺の後ろで、「キュッ」と小さい悲鳴が聞こえた。
振り返れば、心臓を一刺しにされたラビットが静かに横たわっていて、その横で皇子が角を採取していた。
「角が討伐の証明になるんですよね?」
一匹撃ち漏らしたことを怒っているのか、冷ややかな声で話す皇子がちょっと怖い。
たぶん俺がわざと撃たなかったと思ってるんだろうけど、たまたま上に飛ぶのが予想できなかっただけだし。
やろうと思えば飛んでる時に撃ち落とすこともできたけど、どうせなら皇子に花を持たせてあげたいなーと思って、ラストを譲ってあげたんですー。
「そうですよ」
「でしたら、あのように氷漬けにしてしまっては、面倒になると思わなかったのですか」
皇子は文句を言いながらも、俺が凍結させたラビットに近づき、難なく剣で角を砕いた。
面倒を感じない剣さばきで、角の回収ができてますけど。
皇子には「急所突き」のスキルがある。
そのおかげで皇子は、生物や無機物の急所を突くことが可能なのだ。
氷漬けのラビットの角を折ることも、朝飯前の筈なんだけどなー。
お小言の多いこって。
「皇子ならこれぐらい問題ないと思って」
「魔導士が面倒だっただけでしょう。今の私は、元の半分ぐらいしか力が出せないことを知っていますよね」
愛想のいい笑顔で押し切ろうと思ったけど、残念なことに皇子には通用しないみたいだ。
「すいませーん。以後気をつけますから、今回は大目に見てくださいよー」
「はぁ。これでは私の目標が達成できるか心配です。勇者は私のことをどう思っているのでしょうか」
皇子はパキパキとラビットの角を折りながら、不安そうな声で言った。
俺には厳しく言うくせに、勇者のことになると途端に弱気になるんだよな。
「少なくても、嫌われてはいないと思いますよ」
「第一皇子のことは苦手だと言ってましたよね」
武器屋での話、まだ根に持ってたのか。
「あれは不愛想で、とっつきにくい感じが駄目だったんですよ」
勇者から見た第一皇子の印象は、あまり良くない。
きっかけは大規模魔物討伐作戦の時のことだけど、それ以外にも宮中での皇子の態度も問題だったと思う。
まるで思春期の男子が、好きな子に照れ隠ししてるみたいな感じだったもんなー。
鈍感な勇者にしてみたら、態度悪い奴にしか見えなかっただろうに。
お友達のいない皇子と、恋愛経験ゼロの勇者。
お互いこじらせてるから余計にすれ違うしな。
見てるこっちは楽しいから何にも教えてやらないけど。
「その話は前も聞きましたが、そのように言われたことは、宮中では一度も無かったのですが」
宮中で次期皇帝の第一皇子にそんなこと言える奴いる?
「そりゃ、城の人間が皇子に向かって、そんなこと言えるわけないじゃないですか~。みんな思ってても我慢してるんですよ」
そもそも皇子としては完璧なんだから、文句も無いと思うけど。
「そう……なんですね……」
ラビットを前に動きを止め、皇子は元気無さげに項垂れている。
声も弱々しく、少年の見た目も相まって、儚げに見える。
本気で凹んでるみたいだから、一応慰めてあげないとか。
「あー、でも例外はありますよ?騎士団なんかは、硬派な皇子をメッチャ尊敬しているようでしたし。特に副団長は重症でしたね~。俺らに殺気ビンビン飛ばしてましたもん」
城では信者がいるほどに、皇子は人気者だ。
それに相反して勇者は不人気。
こういうこともあって、勇者は城に行きたがらないんだよなー。
副団長なんかは皇子を尊敬しすぎて、ちょっとだけ不遜な態度をとる俺らのことを嫌っているし。
しかも、皇子が勇者を気に入っていることに嫉妬して、勇者に対しての当たりがかなり強い。
「それは申し訳ありませんでした。今度注意をしておきます」
皇子がこうだから、副団長もああなるんだろうけど。
尊敬してる皇子に、気に入らない奴の肩を持たれたら、余計嫉妬するでしょうが。
「それ、煽ることになりません?」
これでどうにか俺の言いたいことが伝わってくれると良いんだけど……。
「どうしてですか?勇者や魔導士に無礼な態度をとらないように言うだけですよ」
案の定、無理だよな~。
「そうですねー。そうでした。それじゃあ、一応お願いします」
もうどうにでもなれ。
俺には関係ないし、勇者だってどうせ副団長には嫌われてるんだから、態度が少し悪化したところで問題ないよな?
「これで最後ですね。勇者の方はどうなったんでしょうか」
ラビット十二匹全部の角を採取し終えた皇子が、広場の隅に顔を向けた。
そこには、少し前の姿とほとんど変わらずに、銀色の兔と向かい合っている勇者がいた。
「んーと、まだ兔と向かい合ってるみたいですね」
テイムしろって言ったのは俺だけど、勇者はスキルを習得してない。
だが、テイマーという職が誕生したのは、ひいては魔物呼びの笛で魔物をテイムするようになったのは、間違えなく勇者が原因だ。
ある時、魔物呼びの笛で特定の種類の魔物を呼び出せる人間がいると言う噂が広まり、魔物を人間に従わせる研究が行われた。
その研究の発端こそが勇者だ。
研究の末、新しいスキル、テイムが生まれた。
それなら一か八か、勇者にもテイムが習得できるか試したくなるよな。
「こちらは片付いたので、報告しに行きましょう」
「了解でーす」
よっぽど勇者のことが気になるのか、皇子は早足で駆けていった。
俺はその後ろからゆっくりと二人の元へ歩いていく。
なんだかんだで、あの二人は似た者同士なんだよなー。
思い付きで行動するところとか、周りが見えてないところとかがさ。
振り回されるこっちの身にもなれっての。
……まあ、面白いからいいんだけどな!




