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銀の森3


 四匹目の魚を捕り終えて、俺はすぐさま皇子と魔導士のところへ向かった。

 魔導士には、魚の内臓を出し冷凍するように頼んである。

 魚は捕って直ぐに渡しているから、先に捕った三匹の処理はもう済んでいるだろう。

 後は今捕ったこいつの処理を済ませ、早く次に向かえば、何とか今日中に依頼を片付けることができそうだ。


 さて、次はキノコ狩りか、兎狩りか。

 どちらの場所も検討はついている。

 ここから近いのはキノコの方だから、先にキノコを採取して、そのあとラビットの討伐だな。


 今後の算段をたてながら魚の内臓を取り出していれば、すぐに皇子と魔導士に合流する。

 俺は魔導士に魚を渡し、魔導士はそれを受け取り冷凍魔法をかけ、袋に入れた。


 「だいぶ予定が狂っている。早いとこ次に行くぞ」

 「その前にあれ、見てみろよ勇者。兔が魚を食ってるぞ」


 魚をしまった袋を肩にかけた魔導士が、突然意味の分からないことを言い出したので、俺は魔導士が「ほら、あれ」と指さす方を見た。

 兔が魚を食べるわけがないと、半信半疑で視線を送った先で、口元を血で真っ赤に染めた兔が何やら一心不乱に食べているのが見えた。


 「まさか魚を横取りされてはいないだろうな」

 「気にするとこそこかよ……。心配すんな、魚は無事だから。食われたのは取り出した内臓の方だけ」

 「それなら問題ない」


 時間が無いせいで人数分しか捕ってきていない魚を兔に奪われたとなれば、今晩の夕食の予定が狂ってしまう。

 幸い兔が食べているのは捨てた内臓だけだというから良かった。

 もし魚も奪われていたとしても、魔導士の分を兔にやったと思えばいいだけだが、皇子が気を遣うかもしれないし、人数分あるに越したことはない。


 しかし、兔が魚を食べるなんてな……。

 あれが兔によく似た魔物、ラビットであれば納得するところだが、目の前にいる兔には、ラビット最大の特徴である額の角が生えていない。


 となると、ただの兔なのか?


 姿形は一般的な兔とそう違いはない。

 強いて違いを上げるならば、珍しい銀色の毛皮が上手に剥げば高く売れそうだと思うぐらいだ。

 警戒心は低いのか、兔は長い耳を左右に垂らし、ガブガブと魚の臓物を食べ続けている。


 こんなに見られているのに、逃げるどころか気づく素振りも無いなんてな。

 小動物は人の気配に敏感だと思っていたが、こいつはどうも鈍感らしい。


 「兎は草食の獣だと思っていましたが、雑食だったのですね」


 皇子は魔導士の横で、興味深そうに兔を観察しながら言った。


 「いやいや!どう見ても普通の兔じゃないでしょ!?」


 兔の新たな一面に目を輝かせる皇子に、魔導士が全力でつっこんだ。


 やはり普通の兔ではないのか。

 もしや、ラビットの亜種か?


 魔王を倒討伐してからは、魔物の数が徐々に減っていると聞いている。

 数の減った魔物たちが、生き残るために変異を起こしたとしてもおかしくはない。


 そうなると、この兔モドキは魔王討伐の副産物と言うことか。

 魔王を討伐した手前、このまま放って置く訳にもいかない。

 初めて遭遇した人はただの兔だと勘違いし、食われる等の被害が出る前に仕留めておかないとな。

 帰ったらギルドにも報告しよう。


 「皇子、お下がりください。魔導士、皇子の護衛を任せたぞ」


 俺は皇子を背中に庇い、未だに食事を続ける兔モドキに剣を抜いた。


 「了解~。んで、あの兔どうすんの?」


 魔導士は皇子の後ろで守護の体勢をとる。


 「仕留めてギルドに持っていく」

 「ま、妥当だな」


 新種と思われる生物を発見した時は、まずギルドに報告するのが通例だ。

 提出した生物をギルドが鑑定し、新種であれば図鑑に登録される。

 さらに報告者は、発見報酬として結構な額が貰えるらしい。


 このチャンスを逃がす手はないな。


 「危険な生物なのでしょうか」


 心配そうな皇子を安心させるため、俺は兔モドキから皇子が見えなくなるように立った。


 「初めて見るのでわかりませんが、用心するに越したことはありません。御覧の通り肉食のようですし、人を食べる可能性もあります」


 人を食べるなど憶測でしかないが、肉を食べている時点で、その可能性は十分にある。


 「そうなんですか?」

 「キュキュッ!」


 俺の背中から少し顔を出し皇子が兔モドキに語りかけると、兔モドキは必死に頭を振り、皇子に答えている様な素振りをする。

 薄目で見れば少年と兔が心を通わせているように見えなくもないが、口まわりの血がその考えを一蹴させる。


 「皇子の同情を買おうとするなど、ずる賢い魔物め」


 剣を構え、兔モドキに狙いをつける。

 ヤツの行動に注視しながら、ゆっくりと距離を詰め、柄を握る手に力を込めた。


 「キュッ!?キュー」


 切り伏せようと右足を前に出したのとほぼ同時、少しヤツの方が早かったか、兔モドキは身を翻し森の中へ猛スピードで逃げだした。


 「待て!」


 俺はすぐさま兔モドキの後を追い、茂みの中へと飛び込んだ。


 「おい勇者!ったく、勝手に行くなよ」

 「私達も追いましょう!」


 せっかく見つけた新種だ、絶対に逃がすものか。

 ヤツを捕らえて、貧乏生活から脱出してやる。




 茂みを抜けた先は、森の中だが少し開けた場所になっていた。

 その入り口で、銀色の毛玉が俺に背を向けて立ち止まっている。


 「覚悟しろ!」


 走って来た勢いをそのままに、振り上げた剣をヤツに向かって縦に振り下ろすが、寸でのところで、ひらりと横にかわされた。

 振り返った兔モドキが、俺を見上げ何やらもの言いたげな表情をしている。


 「キュキュ……」


 いかにも「私は無害です」と人畜無害アピールをする兔モドキを見下ろしながら、俺はその脳天に迷うことなく剣を構える。


 「覚悟は決まったか?大人しくしていれば一撃で逝かせてやる」

 「キュ!キュキュ!!」


 騒ぎ出した兔モドキが再び逃げ出す前に、さっさと仕留めなくては。

 今度は横にかわされないようにと、斜めに剣を振り下ろした。


 「キューーーッ」


 兔モドキが渾身の叫びを上げる。


 「勇者、あれはなんでしょうか?」


 ドスッ。


 狙いが外れ、剣が地面に突き刺さった。

 後ろから来た皇子にあれはと聞かれ、剣を振り下ろした体制のまま反射的に顔を上げる。


 「あれはラビット群れか?あんなに集まって何してんだか」


 兔モドキに気を取られ過ぎて全然気が付かなかったが、茂みを抜けたこの場所はちょっとした広間になっていた。

 その中央に複数のラビットが集まっている。


 「円になって、会議でもしているのでしょうか」

 「魔人ならともかく、ただの魔物に会議する知能なんて無いでしょ」


 ラビットは円になり、その中心にある何かを囲っているようだ。


 「キュキュ!」


 ラビットたちの様子を見ていると、兔モドキが俺の足にしがみつき騒ぎ出した。


 「キュ、キュキュ」


 何が言いたいのか、サッパリ分からん。

 さっきまで自分を殺そうとしていた相手に縋りつくとは、俺よりもあのラビットの群れの方が怖いのだろうか。


 「何か伝えたいようですね。勇者、わかりますか?」

 「いいえ、分かりません」

 「魔導士はどうですか?」

 「俺に魔物語が分かるように見えます?」

 「困りましたね。このまま仕留めてしまうのは可哀そうな気がします。私には、この獣は悪さをするようには見えません。せめて意思の疎通ができれば、危険かどうか簡単に判断できるのですが……」


 魔物をそこまで気に掛ける必要があるのだろうか。

 皇子が優しいことは十分理解してると思っていたが、まだまだだったらしい。

 まさか魔物の意思を読もうとするなんて、全くの想定外だ。


 「それならいい手がありますよ、皇子」


 魔導士が話しながらニヤニヤし始める。


 これは絶対面倒なことになるな……。


 釣りの件で今日はもう懲りたと思っていたが、そうでもないらしい。

 次から次へと、よくもまあ面倒事を思いつくものだ。

 いっそのこと言う前に黙らせてやりたいが、皇子からの提案に良い答えが浮かばない以上、そうはできない。

 俺は諦めて魔導士の意見を聞くことにした。


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