幕間 リジーの人形
物心つく前から、僕はずっと同じ景色の中にいた。
四隅に黴の生えた天井、錆色の厚いカーテン、ランプシェードに積もる埃。
色の褪せた壁紙に向けて置かれた小さな書き物机と、三方に柵を巡らせたベッドが僕の定位置だった。日のあるうちはそのどちらかに座ってじっとしていなければならない。
背筋を伸ばし、顎を上げて、まるで人形のように。
眠りの終わりは恐ろしい。全身が怠くて、重くて、手足の先は夏でも凍ったように痛む。
起き上がれずにもがいていると、"リジー"が現れて鞭を振り上げる。
僕は黙って下を向き、長い時間が過ぎるのを待っている。
食事の時間は恐ろしい。酷い味のトニックを一匙飲むことから始まって、一欠けの生臭いテリーヌを丁寧に切り分け、一切音を立てずに口に運ぶ。
"リジー"は僕の隣に立って、空気をピリピリさせながら見張っている。
もしなにか失敗したら、そこで食事はおしまいだ。
勉強の時間は恐ろしい。書き取りと、暗誦。"リジー"が仕事と呼ぶ時間。
手本を広げ、見て写し、書き損じたら鞭が飛ぶ。読んで聞かされ、繰り返し、言葉に詰まれば鞭が飛ぶ。僕が何度も間違えるから、"リジー"はその分鞭を使える。
「できそこない」は、彼女のお気に入りの言葉だ。
"リジー"の本当の名前は知らない。
ただ、鼻息を荒くした恐ろしい形相を見て、彼女の強い怒りがあればどんなことでもしてしまうだろうと思ったから、心の中でそう呼んでいた。
諳じさせられた詩に出てきた、母親を四十回、父親を四十一回斧で打ったリジー・ボーデンのように。
夜、誰もいなくなると、窓の向こうをそっと覗いてみる。
まばらな枝の隙間から立派な庇と飾り柱が見えた。屋外灯があちこちで光って綺麗だった。
縦長窓の額縁に切り取られた、金細工の銃剣と大きな肖像画も見えた。大きすぎて顔はわからないけれど、胸元にいくつも並んだ勲章があったから、きっと偉い人なんだろう。
ガラス越しの世界は遠い場所。憧れることはしなかった。
ただ、また目を覚まして苦しむことが怖い。だから僕はいつまでも、窓の外を眺めていた。




