第36話:桃太郎の勧誘と、世界一魅力的なきびだんご
「……はぁ。学校の家庭科室が天天下武道会の会場になるなんて、俺のライフはもう完全にマイナス10億域を突破してるな……」
あの「鶴亀格闘技大戦」を経て、俺の精神生命力は消滅寸前だった。今度こそ、俺に歪んだ設定や狂気的な格闘の執着を抱いていない、ごく普通の大人しそうな女の子と静かに過ごしたい。俺は涙目で携帯を操作し、新しいマイナーなレンカノアプリで、プロフィールに【正義感が強くて真っ直ぐな性格です。少し凛々しい口調ですが、あなたのために一生懸命お尽くしいたします】と書かれた、一番まともそうなキャストを指名した。
デート当日。和風の落ち着いたお茶専門カフェの個室。
「――待たせたな、カケル! 我が最高にして無敵の相棒よ! さあ、このきびだんご(※レンカノの契約)を受け取り、私と共に鬼ヶ島へ赴き、あの凶悪なる鬼どもを退治しに行こうではないか!」
「ぶっっっ!!!!???」
お冷やの高級ほうじ茶を盛大に吹き出した。
個室の座布団に堂々と背筋を伸ばして座り、陣羽織を思わせる格好いい和柄のブラウスを着て、精悍な瞳で俺をロックオンしてきたのは、映画『友達100人』の撮影当時、正義の味方ポジション(桃太郎役)として圧倒的な剣劇を披露していた元共演者の美少女――百瀬もも(仮名)ちゃんだった。
実は彼女、前世や異世界とかではなく、これから鬼を退治する予定の『本物の桃太郎(女性)』であり、お供となるお猿やキジ、イヌを探している途中で、当時子役として圧倒的なオーラを放っていた俺を発見。「あいつこそ我が軍の最大戦力(お供)にふさわしい!」と確信し、俺を説得して旅に連れ出すために映画に出演していたという、凄まじい秘密を持っていた。
「も、百瀬ちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、さっきから鬼退治とか何の話だ!?」
「ふん、とぶけるな。私は知っているぞ、あんたの体内に渦巻くそのあらゆる同盟を平伏させるレベルの凄まじい覇気を! 昔のよしみだ、私のお供として鬼ヶ島へついてこい!」
「いや、俺は知らない場所へは絶対についていかないよ! 今の時代、知らない人や物騒な場所について行っちゃダメって防犯ブザーを鳴らされるレベルだからな!?」
俺が本気で冷ややかな、インテリジェンスな真顔でツッコミを入れると、百瀬ちゃんは「くっ、さすが伝説の主演、防犯意識が高すぎて私の真っ直ぐな言葉が響かないとは……!」とわなわなと手を震わせた。
だが、そこからの彼女の行動は、とにかく直情型でポンコツだった。
どうしても俺を最大戦力として連れ帰りたい彼女だったが、俺のガードが固すぎるため、事前にネットの知恵袋(使い魔)で調べたところ、『防犯意識の高い現代の男は、レンタル彼女という名の最高級のきびだんご(色仕掛け)で籠絡して骨抜きにすれば、喜んでどこへでもついてくるようになる』という極端な解決策にたどり着き、そのまま素直に突撃してきたのだという。
「……百瀬ちゃん。とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前にみたらし団子でもお食べよ。君、昔から本番前に無駄にテンション上げて空回りする癖、変わってないね。でも、そういう君の真っ直ぐなところ、俺は嫌いじゃなかったよ」
俺としては、これ以上個室で大騒ぎされて詩織たち芸能界のエリート組に見つかったら人生が白紙化するので、穏便に終わらせるための手慣れた大人の対応(ただの紳士的なお茶の勧め)を繰り出しただけだった。
「ひゃうんっ……!?(な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的な洗練されたエスコートと、優しすぎる大人の男のオーラは……っ!?)」
百瀬ちゃんは小さな悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
きびだんご(ハニトラ)でお供にするための条件を達成しにきたはずの元桃太郎の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。




