第三十六話裏話 もも視点
私、声と態度と正義感だけは天空級の、自他共に認める絶対無敵の元女桃太郎(百瀬もも)。
だけど、ぶっちゃけ私の正体は、これから鬼ヶ島へ行って凶悪な鬼どもを退治する予定の本物の『桃太郎』なのよ!
民話のルールに従って、お猿やキジやイヌを探していたんだけど、そこで十年前、映画『友達100人』のオーディション現場で、とんでもない男の子を見つけたの。
一般人になって友達0人のボッチ生活を送っているはずの大河内駆の体内に渦巻く、見たこともないほど濃密で凄まじい『覇気』……! あいつこそ、私の鬼退治に必要な「我が軍の最大戦力」に間違いないわ!
そう確信して、あいつをお供にするために機会を窺っていたんだけど、ここで重大なバグが発生したわ。
駆くんのやつ、現代日本の防犯教育を徹底的に叩き込まれすぎているせいで、「知らない場所へは行かない!」って、国家機密シェルター並みの鉄壁のガードで私の誘いを1ミリも受け入れてくれないのよ!
ルールでは、あいつをお供にしないと私の鬼退治が始まらないのに、あいつの防犯意識が高すぎるせいで、私はずっと鬼ヶ島へ出発できず現代日本に居残り続けるはめになっていたの。
「まぁ、ぶっちゃけ鬼退治なんてどうでもいいのよね! でも、どうしてもあいつを私のお供(旦那様)にしたいじゃない! こうなったら作戦変更よ! 使い魔の言う通り『レンタル彼女』という名の最上級のきびだんご(色仕掛け)を仕掛けて、あいつを私にガチで惚れさせて籠絡し、私の終身奴隷にしてやるわ!」
そう意気込んで、この多国籍レンカノサイトに『元桃太郎の最高級キャスト』として電撃登録し、桃のパッションでカケルの予約枠を力ずくで上書きしてやったの。
正式に迎えた、和風カフェでの再会。
私は最高のきびだんご(ハニトラ)をブチかましてやるつもりだったんだけど、一般人になったカケルは、私の目をまっすぐ見つめて「周囲の目が集まるから座りな。君のそういう真っ直ぐなところ、嫌いじゃなかったよ」って、もの凄くスマートな言葉を叩きつけてきたの。
お団子をスッと差し出す手つき、視線の配り方、および私の過去の空回りを誰よりも解ってくれている、あの洗練された大人の男のオーラ……!
……絶句したわ。
ハニトラでお供にするつもりが、私のハートの方が、一瞬であいつの底知れない『大人の男の魅力』に完璧に落とされて(魅了されて)しまったじゃないのよ……っ!?
あいつ、あの芸能界のエリート組の女の人たちにどんな揉まれ方をしたら、高校生のくせにこんな極上のジェントルマンに育つのよ! あんなの、元桃太郎の私だって一瞬でただの雌にされちゃうに決まってるじゃない!
鬼退治の戦力にする偵察のつもりだったのに、私のハートは完全にカケルのイケメンオーラ(愛)に美味しく陥落させられちゃったわ!
鬼ヶ島なんてどうでもいいわ! こんな極上の王子様が手に入るなら、あんな物騒な島へ行くなんてやめよ! これからは、この現代日本でカケルと一緒に生涯を共にする方向に目標変更よ!
(カケルの隣が世界一の桃源郷なら、私がこれから鬼の宝を先取りして稼ぐ全財産を使って、駆くんを私の『専属の騎士』として、一生私のプライベートの部屋に閉じ込めて愛してあげればいいのよね!?)
スマホを見ると、詩織ちゃんたちが裏のチャットで「新参の桃、抜け駆けはコンプラ違反よ!」ってギャーギャー騒いでいるのが見えるわ。もちろん、私の正体が鬼退治の桃太郎だなんてあの子たちには露知らず、ただのボーイッシュなももちゃんだと思っているみたいだけど。
ふふ、お黙りなさい、おいたが過ぎる方々。桃としての執念と、恋する乙女としての『智謀とパッション』をナメないことね。あなたたちの予約枠、私の張り巡らせた策略ですべて『退治(白紙化)』にして差し上げますわ。
待っていなさい、私の愛しい駆くん。
これからは私の、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも熱くて逃げられない『前代未聞の桃太郎系・ラブストーリー』で、あなたのボッチな人生を完璧にプロデュースしてあげるからね――。




