閑話が本題 駆の鬼ごっこ
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
あの和風カフェでの「きびだんご色仕掛け自爆事変」を経て、俺の精神生命力は完全にマイナス域を突破していた。
しかし、その日の放課後の校庭で、俺はまたしても頭を抱える事態に直面していた。
実はその頃、お供としてスカウトされ、桃太郎である百瀬ももをハチ公前で待ち続けていた『猿・キジ・イヌ』役の元子役の女の子3人は、怒り心頭に発していた。
「遅い! 桃太郎が全然来ないじゃないの! この待ち時間は凄まじい機会損失よ!!」
彼女たちはビジネスライクな怒りを爆発させ、あろうことか「もう鬼を退治する側なんてやめて、鬼の側についた方がコスパがいいわ!」と、本来退治するはずだった本物の鬼ヶ島の鬼たち(※巨体の悪役レスラー子役たち)とまさかの同盟を電撃結成。そのまま、ももが囲い込もうとしていた最大戦力である俺たちの元へと、凄まじい足取りで襲撃をかけてきたのだ。
放課後の校庭のど真ん中、禍々しい棍棒を構えた鬼たちと、お供から寝返った3人組が俺の前に立ちはだかる。
「フハハハハ! 大河内駆、覚悟しろ! 桃太郎を裏切った我らのパッションで、あんたを今すぐ――」
――バガァァァン!!!
「そこを退きなさい有象無象ども!! 大河内駆を西園寺のリムジンに強制連行する邪魔をする者は、私の財力と権力でこの世界から丸ごと白紙化してあげますわ!」
「駆くんを鬼ヶ島へ拉致するなんて絶対に許されません! 24時間体制で私が手取り足取りエスコートする権利を邪魔する悪党は、すべて私の愛のチャクラで調教して差し上げます!」
「駆! 俺という大事な相棒に黙って、いつの間にそんな物騒な着ぐるみ軍団と秘密の裏格闘技大会を始めてやがったんだよ! ほら、俺も混ぜろよな!」
「ぶっっっ!!!!???」
俺が校庭で襲撃されているという噂を裏のチャットで爆速で聞きつけた、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々。
さらにその背後からは、
「エリート組だけズルいです! 駆先生の濃厚な放課後サバイバル個人レッスンの枠は渡さない!」
と、カフェの葵先輩やひよりちゃん、正美ちゃんたち【モブモブ同盟】の面々までもが、完璧にハイライトの消えたプレデターの瞳で殺到。
さらに家の方から「駆お兄ちゃんに接近する不審な野生動物のバグを検知しました♪」とひまりがデジタル工作の電波を飛ばし、美夜お姉ちゃんがレザージャケットを脱ぎ捨てて肉体的な覇気を解放、総勢二十七名というあまりにも多すぎるクソデカ感情の化物たちが一斉に校庭へとカチコミをかけてきたのだ。
「「「「カケルの特等席は私のものですわぁぁぁぁ!!!!」」」」
地鳴りのような怒号を上げ、地面を割りそうな勢いで服を脱ぎ散らかしながら乱闘を始めた彼女たちの姿を目の当たりにして、襲撃してきたはずの鬼ヶ島の鬼たちは、一瞬でガタガタと震え出して自信喪失した。
「ひ、ヒエッ……! なんだあの女たちは……!? 怨念の濃度が違いすぎる……!」
「俺たち、ただちょっと棍棒振り回して悪いことしようとしただけなのに……あいつら、本物の『鬼』じゃねえか……っ!」
自分たちの「悪事」なんて足元にも及ばない、ガチ恋勢の凄まじい狂気(ピンクの欲望)の前に完璧に圧倒された鬼たちは、
「……もう鬼(悪事)なんてやめよう。これからは田舎で農業とか始めて、真っ当な仕事に就いて生きるんだ……」
と涙を流して改心し、そっと棍棒を置いて田舎へ帰る決意を固めるのだった。
こうして、俺は何もしていないにもかかわらず、見事に鬼ヶ島の鬼退治に成功し、世界に平和がもたらされた。めでたしめでたし。
――だが、そんなハッピーエンドを、当の俺が知る由もなかった。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ校庭にいただけなのに、なんで総勢二十七名の『真の鬼』から必死に逃げる命がけの鬼ごっこが始まってるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺は脳内にチキンナイフを完全装備し、神崎トレーナーに仕込まれた超高速の骨盤連動ステップで、目を血走らせて追いかけてくる詩織たちの群れから涙目で全力疾走で逃げ回り続けていた。
少年兵やまひろのアフリカ戦線すら生温いと感じるほどの、狂気的な学園チェイスの怒号に俺の悲痛な絶叫はかき消され、日常閑話のはずの放課後は、結局いつも通りの大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




