第37話:レンタル彼女を頼んだら、月からのお迎えが遅れているかぐや姫の元共演者が現れた件
「……はぁ。学校の校庭で総勢27名の真の鬼たちに追い回されるなんて、俺のライフはもう完全にマイナス100億域を突破してるな……」
あの「校庭鬼ごっこ大爆発乱闘エンド」を経て、俺の精神生命力は完全に消滅寸前だった。今度こそ、俺に歪んだ設定や狂気的な執着を抱いていない、ごく普通の大人しそうな女の子と静かに過ごしたい。俺は涙目で携帯を操作し、新しい超マイナーなレンカノアプリで、プロフィールに【少し浮世離れした静かな世界観ですが、竹のように真っ直ぐに、あなたを優しくおもてなしいたします】と書かれた、一番サバサバしてまともそうなキャストを指名した。
デート当日。美しい日本庭園が広がる、由緒正しい高級和菓子カフェの個室。
「お待たせいたしましたわね、大河内駆様。……ふふ、どんな大富豪の貢ぎ物(5つの難題)にも1ミリもなびかなかったこの私が、まさかこのような不純異性交遊の場に降臨するなんて、これも月の導きかしら?」
「ぶっっっ!!!!???」
お冷やの高級宇治抹茶を盛大に吹き出した。
個室の座布団にしとやかかつ圧倒的な気品で座り、満月の夜を思わせる美しい着物風のワンピースを着て、不敵な笑みを浮かべているのは、映画『友達100人』の撮影当時、神秘的な美少女役として強烈な存在感を放っていた元共演者の――輝夜るなちゃんだった。
実は彼女、前世や異世界とかではなく、昔竹の中から生まれて絶世の美女として名を馳せた『本物のかぐや姫』であり、今世では映画の仲間たちと過ごしながら月からのお迎えを待っていたという、凄まじい秘密を持っていた。
『かぐや姫』のルールでは、満月の夜に月の使者が迎えに来て月に帰るはずなのだが、彼女の状況はとにかくポンコツだった。なんと、月からの最新のメッセージによると「現在、地球の衛星軌道上の宇宙ダスト(宇宙ゴミ)が多すぎて、牛車(宇宙船)の運行に支障が出るから、軌道が綺麗になるまでしばらく地球で待機してて!」と連絡を受け、盛大に足止めを食らっていたのだ。
「か、輝夜ちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、お迎えが宇宙ゴミのせいで遅れてるって何だよ!?」
「ふん、待機期間が長すぎて暇つぶしを調べてみたら、あんたの周りがとんでもなくカオスで面白そうなことになっていたのよ! 白雪詩織や西園寺麗華たち芸能界のエリート組があんたを巡って毎日世界大戦を起こしてるんですもの! 私もあの大戦に混ざって、あんたを完璧にハニトラ(魅了)して遊んであげようと思って登録したのよ!」
「目的を全部口に出しながらハニトラを仕掛けてくる奴があるかよ! 帰れ!」
俺があまりにも雑に塩対応をしたため、輝夜ちゃんはフンスと鼻を鳴らして強引に俺の前に身を乗り出し、色仕掛けの体勢に入った。
だが、その強気な態度とは裏腹に、彼女の視線は俺の顔や服装、そして無意識のスマートな身のこなしを前に、なぜかみるみると泳ぎ始め、顔を真っ赤にさせて硬直していった。
そりゃそうだ。俺は友達こそ0人だが、毎週毎週、詩織や麗華たちに揉まれ、さらに手慣れたレンカノエスコートの経験を積んでいる。
ボッチのくせに、俺の『レンカノ対応』と『大人の男のオーラ』は、すでにそこらのトップ俳優を瞬殺できるレベルにまで勝手に強制進化してしまっていたのだ。
「……輝夜ちゃん。とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前に温かいお団子でもお食べよ。君、昔から本番前に無駄にテンション上げて空回りする癖、変わってないね。でも、そういう君のブレないお姫様世界観、俺は嫌いじゃなかったよ」
俺としては、これ以上個室で大騒ぎされて詩織たちに見つかったら人生が終わるので、「とにかく穏便に、事務的に、手慣れた大人の対応」で彼女をあしらい、スッと椅子を引いてお茶とお団子を差し出しただけだった。
「ひゃうっ……!?(な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的な洗練されたエスコートと、余裕のある大人の男のオーラは……っ!?)」
輝夜ちゃんは小さな悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
暇つぶしのハニトラ(大戦への参戦)を仕掛けにきたはずの元かぐや姫の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。




