閑話が本題 駆の鶴亀合戦
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
あの海沿いカフェでの「知らない場所(竜宮城)には絶対行かない事変」を経て、俺の精神生命力は完全にマイナス域を突破していた。
しかし、その日の放課後の家庭科室で、俺はまたしても頭を抱える事態に直面していた。
「お初にお目にかかります、つる様。私は昔、海辺でカケル様に助けていただいた亀の化身ですわ」
「あら、かめ様。奇遇ですわね、私は罠から助けていただいた鶴の化身ですの。……って、え? なにそれ?」
放課後の家庭科室にたまたま集まっていた元共演者の鶴見つると、亀梨かめの二人。かめちゃんは、駆を竜宮城へ連れて行くために用意していた、お土産の『玉手箱(※中身はただの最新の美容健康ガス)』を大切そうに抱えていた。
だが、お淑やかにつまみ食い(※ただのクッキーの味見)をしようとしたつるちゃんが、お菓子の箱と勘違いして、その玉手箱の紐をうっかりカチリと解いて開けてしまったのだ。
プシューーーッ!!!
白い煙が家庭科室に充満し、二人は人間の姿のままボフンボフンと煙に包まれたが、ガスが完全に消え去った数秒後には何事もなかったかのようにすんなり元の姿のまま立っていた。
「「……あっ!!!!」」
その瞬間、二人はお互いの顔を見つめ合い、十年前の映画の撮影から今日に至るまで全く気づいていなかった驚愕の真実に、ついに気がついた。
「あなた、本物の野鳥(鶴)だったのね!?」
「あなたこそ、本物の爬虫類(亀)だったなんて!?」
「鶴は千年、亀は万年! 長寿の格としては、我が甲羅の硬さの方が上ですわ!」
「何を言うの、大空を気高く舞う私の方が駆くんのパートナーにふさわしいですわ!」
お互いに初めて同族(動物の恩返し系ヒロイン)だと気づいた二人は、どちらがより長く駆を愛し、どちらが駆の隣の特等席にふさわしいかを巡って、家庭科室の中で「空と海のクソデカ感情バトル」へと爆速で発展してしまった。
「お黙りなさい、海の藻屑にして差し上げますわ!」
「あなたこそ、私の羽ばたきで大空の彼方へ追放して差し上げますわ!」
つるちゃんが激しい羽ばたきで強風を巻き起こし、かめちゃんが圧倒的な粘り腰で一歩も引かない。空と海の意地をかけた、激しいキャットファイト。
しかし、お互いに野生のパッションを全開にして戦ううち、二人の攻撃は完全に相殺され、実力は完全に互角であることが分かった。ゼェ、ハァ、と息を切らしながら拳を突き合わせる二人。
「……やるわね、かめ様。私の風圧に耐え切るなんて」
「あなたこそ、つる様。私の鉄壁をここまで揺るがすなんて……フフ、なんだか、凄くお気持ちが通じ合えた気がいたしますわ」
お互いの実力と、駆への一途な恩返しの執念を認め合った二人の間に、突如として熱い友情が芽生えた。
そんな彼女たちの激しい掴み合いの喧嘩から、奇妙な和解に至るまでの一部始終を、俺は物陰からハラハラしながら見守っていた。
(※ちなみに俺自身は彼女たちが本物の鶴や亀の姿になったところは見ておらず、ただの女の子同士の激しい取っ捕み合いの喧嘩だと思っている)
「……ふぅ。何はともあれ、喧嘩が終わってよかったよ。二人とも、もう仲直りできたんだよね?」
俺はこれ以上家庭科室を破壊されてはたまらないと、ほのぼのとした優しい笑みを浮かべ、エスコート(※ただの安心からの歩み寄り)をしながら二人の元へ近づいた。
「はい、駆くん! 私たち、魂のレベルで最高のフレンドになりましたわ!」
「ええ、これからも二人で手を取り合って、あなたをおもてなしいたしますわね!」
二人と笑顔を交わし、これ以上ないほど綺麗で暖かな日常パートの空気でハッピーエンド――。
――になるはずが、その家庭科室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよあなたたち!! 放課後の家庭科室で『駆争奪戦・天下一武道会トーナメント』を開催しているって聞いて、飛んできたわ! 芸能界のエリート組であるこの西園寺麗華、シード枠(正妻)として今すぐその大戦に電撃参戦してあげますわ!」
「カケルのハネムーンの権利を賭けたトーナメントの優勝者は、この白雪詩織に決まっています! 鶴も亀も、まとめて私の愛のチャクラで白紙化してあげます!」
「駆! お前、俺という大事な相棒に黙って、いつの間にそんな熱い格闘技大会の予選を開いてやがったんだよ! ほら、俺とも戦えよな!」
「ぶっっっ!!!!???」
二人の激しいバトルの音をどこからか、執念で聞きつけた白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々。
さらにその背後からは、噂を聞きつけた【モブモブ同盟】のカフェの葵先輩やひよりちゃん、正美ちゃんたちまでもが、「駆先生の個人格闘技レッスンの枠は渡さない!」と、完璧に目を血走らせて家庭科室へなだれ込んできたのだ。
「カメぇ〜〜〜〜〜〜!!!!」「鶴もカメも、まとめて私が美味しく調理してあげますわ!」と、総勢二十七名というあまりにも多すぎるクソデカ感情の化物たちが一斉にカチコミをかけ、家庭科室の中は一瞬で「駆天下一武道会」の開戦を告げる大混戦の大爆発乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 二人はただ普通に和解しただけなのに、なんで唐揚げの次は勝手にトーナメント大会が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、エントリー枠(所有権)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの鶴亀大戦は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




