第三十五話裏話 かめ視点
私、声と態度と甲羅の硬さだけは天空級の、自他共に認める健気な恩返しヒロイン(亀梨かめ)。
だけど、ぶっちゃけ私の正体は、昔海辺でいじめっ子子役たちにいじめられていたところを大河内駆くんに助けられた、本物の『亀』なのよ!
民話のルールに従って、あいつを竜宮城へ連れて行ってタイやヒラメの舞い踊りでおもてなしをして、お土産に玉手箱(※中身はただの最新の美容健康ガス)を渡して恩返しを完了させようと、人間の姿で映画『友達100人』に出演したりして機会を窺っていたんだけど、ここで重大なバグが発生したわ。
駆くんのやつ、現代日本の防犯教育を徹底的に叩き込まれすぎているせいで、「知らない人の背中に乗って知らない場所へは行かない!」って、国家機密シェルター並みの鉄壁のガードで私の誘いを1ミリも受け入れてくれないのよ!
ルールでは、竜宮城に連れて行かないと私の恩返しが完了しないのに、あいつの防犯意識が高すぎるせいで、私はずっと海に帰れず現代日本に居残り続けるはめになっていたの。
「まぁ、ぶっちゃけ竜宮城なんてどうでもいいのよね! でも、どうしてもあいつを私の世界に引きずり込みたいじゃない! ならば、まずは私のことを存分に知ってもらって、知らない人から『知っている人』に昇格すればいいじゃないのよ!」
そう意気込んだ私は、ネットの知恵袋で調べた『レンタル彼女』という名のマンツーマン個室空間に最高級キャストとして電撃登録し、亀の執念で駆くんの予約枠を力ずくで上書きしてやったの。
そうして迎えた、海沿いカフェでの再会。
私は最高の自分アピール(ハニトラ工作)をブチかましてやるつもりだったんだけど、一般人になった駆くんは、私の目をまっすぐ見つめて「周囲の目が集まるから座りな。君のそういう真っ直ぐなところ、嫌いじゃなかったよ」って、もの凄くインテリジェンスでスマートな言葉を叩きつけてきたの。
スープをスッと差し出す手つき、視線の配り方、および私の過去の空回りを誰よりも解ってくれている、あの洗練された大人の男のオーラ……!
……絶句したわ。
自分を知ってもらって海の底へ連れて行くつむりが、私のハート(※爬虫類)の方が、一瞬であいつの底知れない『大人の男の魅力』に完璧に落とされて(ホールドされて)しまったじゃないのよ……っ!?
あいつ、あの芸能界のエリート組の女の人たちにどんな揉まれ方をしたら、高校生のくせにこんな極上のジェントルマンに育つのよ! あんなの、野生の亀の私だって一瞬でただの雌にされちゃうに決まってるじゃない!
竜宮城へ連れて行くための偵察のつもりだったのに、私のハートは完全にカケルのイケメンオーラ(愛)に美味しく陥落させられちゃったわ!
竜宮城なんてどうでもいいわ! こんな極上の王子様が手に入るなら、あんな薄暗い海の底へ戻るなんてやめよ! これからは、この現代日本でカケルと一緒に生涯を共にする方向に目標変更よ!
(カケルの隣が世界一の竜宮城なら、私がこれから海の底の真珠を密漁して稼ぐ全財産を使って、駆くんを私の『専属の旦那様』として、一生私のプライベートの神殿(部屋)に閉じ込めて愛してあげればいいのよね!?)
スマホを見ると、詩織ちゃんたちが裏のチャットで「新参のウミガメ、抜け駆けはコンプラ違反よ!」ってギャーギャー騒いでいるのが見えるわ。もちろん、私の正体が恩返しの亀だなんてあの子たちには露知らず、ただの大人しいかめちゃんだと思っているみたいだけど。
ふふ、お黙りなさい、おいたが過ぎる方々。亀としての執念と、恋する乙女としての『智謀とパッション』をナメないことね。あなたたちの予約枠、私の張り巡らせた策略ですべて『密漁(白紙化)』にして差し上げますわ。
待っていなさい、私の愛しい駆くん。
これからは私の、誰よりもお淑やかで、誰よりも熱くて逃げられない『前代未聞の恩返し系・ラブストーリー』で、あなたのボッチな人生を完璧にプロデュースしてあげるからね――。




