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第35話:浦島駆の防犯意識と、海の底からやってきたレンタル亀


「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」


あの更衣室での「私も覗きなさい大戦争」を経て、俺の精神生命力は完全にマイナス域に達していた。

今度こそ、俺に歪んだ設定や狂気的な執着を抱いていない、ごく普通の大人しそうな女の子と静かに過ごしたい。俺は涙目で携帯を操作し、新しい超マイナーなレンカノアプリで、プロフィールに【海のように広い心で、あなたのすべてを優しく受け入れて差し上げます】と書かれた、一番物静かそうなキャストを指名した。


デート当日。波の音が心地よく響く、海沿いの静かなカフェ。

「ついに、ついにあなたと巡り合えました、大河内駆様! さあ、私の背中に乗って、素晴らしき深海の楽園――竜宮城へといざ参りましょう!」


「ぶっっっ!!!!???」


お冷やのトロピカルジュースを盛大に吹き出した。

出会い頭に、エメラルドグリーンのワンピースの裾を翻しながら、あまりにも古典的すぎる浦島太郎の前振りをブチかましてきたのは、映画『友達100人』の撮影当時、海辺のシーンで水着姿のモブとしてひっそり出演していた元共演者の――亀(かめ)梨(なし)かめちゃんだった。


実は彼女、前世や異世界とかではなく、昔海辺で子供(※子役時代のいじめっ子役のモブ)にいじめられていたところを駆に助けられた『本物の亀』であり、その恩返しをするために現代の日本へ人間の姿でやってきたという、これまた異色の秘密を持っていた。

『浦島太郎』のルールでは、「助けてくれた人を竜宮城へ連れて行って、おもてなしをすること」が恩返しを完了させて自分の世界に帰るための絶対条件。しかし、現代を生きる駆の「防犯意識」は、あまりにも高すぎた。


「亀梨ちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、知らない人の背中に乗って知らない場所(竜宮城)へなんて絶対に行かないよ! 今の時代、知らない人について行っちゃダメって防犯ブザーを渡されるレベルだからな!?」

「知らない人だなんて水臭いですわ! 昔のよしみではありませんか! ならば、私のことを存分に知ってもらうために、こうしてレンタル彼女として正式にエントリーいたしましたの! さあ、私の素性を隅々まで知った上で、安心して海の底へ拉致(エスコート)されてくださいな!」


涙目で必死に自分をアピールしてくる亀梨ちゃん。だが、俺は毎週毎週、詩織たちのコンプラ違反の突撃や高坂マネージャーのコンプラ教室、神崎トレーナーの理詰めの指導を経験している。

ボッチのくせに、俺の『防犯意識(鉄壁のガード)』は、もはや国家機密のシェルターレベルにまで勝手に極限進化してしまっていたのだ。


「……亀梨ちゃん。とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前に温かいアサリのスープでも飲みなよ。君、昔から本番前に無駄にテンション上げて空回りする癖、全然変わってないね。でも、そういう君の真っ直ぐなところ、俺は嫌いじゃなかったよ」


俺としては、これ以上海沿いのカフェで大騒ぎされて詩織たち芸能界のエリート組に見つかったら人生が白紙化するので、穏便に終わらせるための手慣れた大人の対応(ただの紳士的なスープの勧め)を繰り出しただけだった。


「ひゃうんっ……!?(な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的な洗練されたエスコートと、優しすぎる大人の男のオーラは……っ!?)」


亀梨ちゃんは小さな悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。

自分を知ってもらって竜宮城へ連れて行くための条件を達成しにきたはずの元亀の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。


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