閑話が本題 駆の鶴舞う形の群馬県
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
あの老舗旅館での「絶対に覗かない鉄壁のジェントルマン事変」を経て、俺の精神生命力はマイナス域を完全に突破していた。
しかし、その日の放課後の教室で、俺はまたしても頭を抱える事態に直面していた。
「おれまーっ! つるちゃん、ついに見つけたわよ! 私、あなたに凄まじいシンパシー(親近感)を感じていたのよ! なぜなら我がグンマー帝国は、上毛かるたの『つ』にある通り、地形そのものが【鶴舞う形の群馬県】なんですもの! あなたは実質、群馬の化身よ!」
「な、なんですって……!?(このおいたが過ぎる方、私の正体が罠から助けられた鶴だって見抜いているのかしら……っ!?)」
フランス帰りのはずの生粋の群馬っ子――上毛みのりちゃんが、もの凄いパッションで元共演者の鶴見つるちゃんに猛烈に接触していた。みのりちゃんの謎の群馬レーダーが、つるちゃんの「鳥類の気配」を敏感に察知したらしい。
「ちょうどいいわ、つるちゃん! そこで今から群馬の伝統的なお着替え(※ただの体育着への着替え)をするから、あなたも一緒においで!」
「あ、あの、お待ちになって、みのりさん! 私が着替えている間、絶対に更衣室の中を覗かないでくださいね!?」
つるちゃんは、これ幸いとお約束の前振りをブチかまし、家庭科室の更衣室へと駆け込んだ。
今度こそ「覗かれて正体がバレて元の世界へ帰る」という、民話の絶対条件を達成する大チャンス。いつも鋼鉄の理性を貫く俺とは違い、この猪突猛進な群馬っ子なら、お約束通りに勢いよく襖を開けて覗いてくれるはずだ――。
バァァァン!!!
「お待たせつるちゃん! 群馬のからっ風に負けない着替えのコツを教えてあげるわ!」
みのりちゃんは、つるちゃんの期待通りに、一切のコンプラを無視して更衣室の襖を豪快に踏み荒らすように開け放った。
「ああっ、見られた――って、おれまーっ!?」
次の瞬間、更衣室の中にいたつるちゃんは、民話の絶対ルール(呪い)が強制発動し、ボフンッ! という激しい煙と共に、人間の姿から**【本物の美しい一羽の鶴】**へと姿を変えてしまっていたのだ。
――これで、つるちゃんの恩返しは終わり、彼女は元の動物の世界へと帰っていく。
物陰からその様子をハラハラしながら見守っていた俺(※俺自身が覗いたわけではない)は、一人の女の子が目の前で完全に鳥になってしまった衝撃に、ただガタガタと震えるしかなかった。
……だが。ここから、グンマーの狂気がすべてのロジックを破壊した。
「……あら? つるちゃん、どこに行ったの? あら、綺麗な鳥ね。ねぇ鳥さん、つるちゃんを見かけなかった? ああ、そういえば群馬のサファリパークにもこういう鳥がたくさんいたわ。焼きまんじゅうのタレ、食べる?」
コウ、コウ……。
みのりちゃんは、目の前で人間の女の子が鶴に変身したという超常現象を1ミリも理解していなかった。それどころか、ただの野生の鳥が更衣室に迷い込んできたと大真面目に勘違いし、鶴(中身はつるちゃん)に向かって至近距離で群馬のローカルトークをノンストップで話しかけ続けているのだ。
(つ、鶴見ちゃん……! みのりちゃんがアホすぎて『正体がバレた(認識された)』ことになってないから、元の世界に帰るに帰れなくなってるじゃないか……っ!!!)
鶴の姿のまま、更衣室の床で激しく羽をバタつかせて困惑しているつるちゃん。覗かれたのに、相手の脳筋っぷりのせいで帰れないという前代未聞のバグが発生していた。
しかし、その家庭科室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 芸能界のエリート組であるこの私に黙って、放課後の更衣室で天剣アキの『聖剣』の次は『鶴(※大いなる誤解)』を覗くなんて、一体どんな破廉恥な昔話プレイを繰り広げているのよ!? 私の着替えだって、西園寺の財力を尽くして今すぐ1から100まで覗きなさい!」
「カケルの初めての覗き(正妻)の座は、この白雪詩織の特権です! 駆くん、私を24時間体制で手取り足取り、更衣室の襖の隙間から覗き見してハッピーエンド(婚姻届)にしなさい!」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で女子の更衣室にカチコミ(覗き)なんてずるいぞ! ほら、俺のことも覗けよな!」
「ぶっっっ!!!!???」
「駆が更衣室を覗いて女を鳥にした」という歪んだ設定資料(噂)が裏のチャットで爆速で広まった結果、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々が、完璧に目を血走らせて一斉に更衣室へなだれ込んできたのだ。
「私を覗きなさい!」「いや、私が一番最初に覗かれます!」「駆お兄ちゃんの視線データをハードディスクに保存します♪」と、総勢二十七名というあまりにも多すぎるクソデカ感情の化物たちが更衣室になだれ込み、現場は一瞬で「誰が駆に一番最初に覗かれるか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 俺は最初から1ミリも覗いてないし、ただみのりちゃんがアホなだけなのに、なんで更衣室の中で世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権(覗かれる特等席)を巡って服を脱ぎ散らかしながら再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの鶴の恩返しは、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




