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閑話が本題 駆レストラン


「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」


あの休日の学校での「カレー大捕獲劇」を終え、俺の精神生命力はマイナス域を完全に突破していた。

しかし、そんな過酷な日常の中で、ふと俺の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。


最近、前世の記憶があるとか言って俺の周りで大騒ぎしているコレット、ルカ、リリス、マリア、アキの【転生組同盟】の面々。俺自身は異世界なんて1ミリも信じていないが、よくネットのライトノベンや漫画のトレンドを見ていると、「異世界に現代のカレーや唐揚げ、マヨネーズを持ち込んで料理で無双してウハウハになる話」が山ほどある。


(……待てよ? 逆に『本当の異世界料理』って、一体どんなに美味いものなんだろう……?)

数々のトラウマで心がすり減っていた俺は、現実逃避も兼ねて、ちょっとだけ異世界のグルメに興味が湧いてしまうお年頃だったのだ。


そこで俺は放課後、たまたま集まっていた転生組の5人に、興味本位で質問をぶれつけてみた。

「なぁ、もし本当に異世界があるならさ、そっちの『異世界料理』ってどんな感じなんだ? やっぱり現代の地球にはない、もの凄く美味しい絶品料理とかでウハウハだったりしたのか?」


これが、すべての幻想が粉々に打ち砕かれる始まりだった。


「カケル様、何をおっしゃいますの? 前世の私はお茶会を開くことすら侍女に丸投げでしたのよ? 悪役令嬢たるもの、厨房(キッチン)に入って料理などいたしませんわ。ですから異世界料理が美味しかったかどうかなど、私の記憶にはございません!」

元悪役令嬢のコレットちゃんが、貧しい今世のバイト生活からは想像もつかないノーブルなドヤ顔で、料理経験ゼロを堂々と宣言した。


「私に聞くのが間違いだわ、カケル。大魔王であるこの私は、体内に【マナ】のエネルギーさえあれば食事など不要なのよ。だから異世界での主食はマナよ、マナ! 料理なんて概念、魔王城には存在しないわ!」

元魔王のリリスちゃんが、日傘を突きながら胸を張った。主食がエネルギーそのものという、グルメとは程遠い答えだ。


「駆くん、異世界の食事を美化しすぎですわ。大聖女だった私は、毎日のように魔物討伐の『行軍』に連れ回されていたのですよ? 固くて塩辛い干し肉と、石のようにカチカチの保存パンを泥水のようなスープで流し込むのが日常でしたわ。あんな不毛な世界、二度と御免です!」

元聖女のマリアちゃんが、当時の過酷な食生活を思い出して血の涙を流しそうな目で力説した。


「マリアの言う通りだ、カケル。私だって勇者として前線で戦い続けていたから、まともな調理器具すらないキャンプで、仕留めた魔物の肉をそのまま焚き火で雑に焼いて食うだけだったぞ。味付けなんて塩だけだ。ハニトラの飯(現代のココア)の方が1万倍美味い!」

元勇者のアキちゃんが、脳筋丸出しのサバイバル飯を語って遠い目をした。


「……あの、駆。私は前世もただのしがないオタク男子(ボッチ)だったから、異世界料理なんてアニメの中でしか見たことないんだけど。前世の主食はコンビニの半額弁当よ」

元オタクのルカちゃんが、一番生々しくて悲しい現実をポツリと呟いた。


「異世界グルメ、あまりにも悲惨すぎるだろ……っ!!」


思い描いていた輝かしい異世界料理の幻想が、完璧に音を立てて崩れ去った。ウハウハどころか、文化レベルが低すぎてただの生存競争の食事だ。

あまりにも可哀想な前世の思い出を持つ彼女たちを見つめているうちに、元天才主演としての俺のお節介(※ただの同情心)がうずいてしまった。


「……はぁ。分かったよ。そんなにひどい食生活だったならさ、今日の放課後は俺が、本当に美味しい『現代の地球の料理』を振る舞ってあげるよ」

俺は家庭科室の調理台に向かい、手慣れた大人のレディファースト(プロのエスコート)で、ジューシーな揚げたての唐揚げや、ふっくら炊き立ての白米、出汁の効いた優しいお味噌汁を手際よく作り上げてテーブルに並べた。


「「「「「……っ!!!!」」」」」


料理を口にした瞬間、転生組の5人の瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「ああ、お肉が柔らかくて口の中でとろけますわ……!」「これが、本物の人間の食べ物(愛)の味なのね……!」「駆くんと結婚すれば、毎日この神の祭壇(食卓)で愛のチャクラを満たせるわ!」と、五人ともこれ以上ないほど大感動し、和やかにハッピーエンド――。


――になるはずが、家庭科室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。


「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 私たちに黙って放課後の家庭科室で『駆の手料理(※大いなる誤解)』を5人もの女に振る舞うなんて、一体どんな破廉恥な宮廷晩餐会を開いているのよ!? 私にも手取り足取り、西園寺の財力を尽くしたフルコースを作りなさい!」

「カケルの初めての奥さん(手料理)の座は、この白雪詩織のものです! 新参の転生組だけで駆くんの手作りご飯を独占するなんて、コンプラ違反以前に絶対に許されません!」

「駆! お前、俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で女子会メニューなんてずるいぞ! ほら、俺の口にも唐揚げをあーんしろよな!」


「ぶっっっ!!!!???」


俺が家庭科室で手料理を振る舞っているという噂は、裏のチャットで瞬時に筒抜けになっていたらしい。

ドアの前から目を血走らせてなだれ込んできたのは、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】。さらにその背後からは、噂を聞きつけた【実家連合】の美夜お姉ちゃんやひまり、高坂マネージャーたち【マネジメント同盟】や【モブモブ同盟】の面々までもが、完璧に殺気立ったプレデターの瞳で家庭科室へ殺到してきた(カチコミ)のだ。


「駆の本物のママ(手料理)は私よ!」「駆先生の濃厚な個人調理実習を受けさせてください!」「駆お兄ちゃんの料理データを、私のハードディスクに永久保存します♪」と、総勢二十七名というあまりにも多すぎるクソデカ感情の化物たちが入り乱れ、家庭科室の中は一瞬で「誰が駆の手料理(お代わり)を独占するか」という大混乱の大爆発乱闘へと発展した。


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ可哀想だから普通の唐揚げを作ってあげただけなのに、なんで学校の中で世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」


俺の切実な絶叫は、お代わり(所有権)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの異世界料理談義は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。


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