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第三十三話 優香視点

◇


私、傷つきやすい不器用な男の子を甘やかしてあげたい、ごく普通の一般人レンタル彼女(優香)。

……のはずなんだけど、もう私の精神も完全に限界よ!!


これまでのデートでの恐怖が忘れられなくて、もう二度と駆くんの指名は受けないって心に誓ってたの。だけど、あの子、泣きそうな声で「今度は絶対絶対大丈夫だから! 優香ちゃんは学校の卒業生だし、現役の在校生である僕がちゃんと調理実習の許可も取ってあるから!」って何度もメッセージを送ってくるんだもの。

あんな可愛い顔で必死に頼まれたら、断れるわけないじゃない……!


そうして、母校の制服を引っ張り出して命がけで向かった休日の学校。

教室にいた駆くんは、私が入ってきた瞬間、本当に嬉しそうに目を輝かせて、「ここは完全な安全圏だから大丈夫だよ!」って、私のために家庭科室で凄くスマートにお手製のスパイスカレーを広げてくれたの。

お互いにスプーンで「あーん」なんてしながら、

(うわぁ……駆くん、現役の高校生らしくて本物の主役みたいで最高に格好いい……抱きつきたいな……)なんて、普通の甘酸っぱいデートを楽しんでいたのよ、最初の十分間だけは。


廊下の方から、エリカちゃんの『駆くんのスケジュール管理は私たち【海外パッション同盟】だけよ』って、地響きみたいな凄まじいドラゴンの咆哮が響いてきた瞬間、私の全細胞が「死」を察知したわ。


駆くんは完璧に裏をかいたつもりだったみたいだけど、違うわよ。あの芸能界のエリート組の怪物たちは、ファミレスをすべて出禁になって困っていたところを、二作目を期待した学校の担任の先生に「校舎を使ってください!」って親切に案内されて、二十七名全員で堂々と正面玄関からなだれ込んできただけなのよ!


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!!」

私スプーンを放り出して、五度目の音速脱走を敢行したわ。もうあの男の子、絶対に何かの呪いの装備を身につけてるに違いないわよ!


下駄箱の物陰からこっそり覗き見たら、駆くんが脳内にチキンナイフを装備して、凄まじい超高速のステップで校舎を脱出しようとしていたの。

(凄い! 駆くん格好いい、これなら逃げ切れる――)って思った瞬間に、家庭科室から漂うカレーの匂いに釣られて猛ダッシュしてきたココちゃんとひよりちゃん(カレー好きの2人)に、「読書にはカレー、駆くんの居場所はここよ!」って、一瞬で首根っこを掴まれて捕獲されてた。


そのまま大物プロデューサーのお姉さんの胸の中にすっぽり埋め込まれて、詩織ちゃんたちに手足をロックされながら、駆くんが「もうやだぁぁぁお家に帰るぅぉぉぉ!!」って涙目で絶叫してるのが見えたわ。


駆くん、ごめんなさい。私、ただの一般人の女子大生だから、あの大自然すら恐怖で支配するピンクの欲望の化物たちから、あなたを救い出してあげる力はないの。

でもね……あんなに必死に逃げ回って、最後はみんなに寄ってたかって『よしよし』されてボロボロになってる駆くんの姿を見ていたら、私の中の何かも、完全にキュンと狂いそうになっちゃった……。


もし、あの二十七名の包囲網の隙を突いて、私六回目のデートで駆くんを完全に私のワンルームマンションに連れ去って、一生鍵をかけて閉じ込めて甘やかしてあげたら……駆くん、私のことだけを大好きになってくれるかしら……?


夕暮れの校門前のバス停で、スマホのレンカノアプリを開き、駆くんの『お気に入り登録』をガチチに固定しながら、私――一般人代表の優香もまた、あの大河内駆という危険な劇薬によって、静かに、完璧に狂わされていくのだった――。


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