閑話が本題 駆のエクスカリバー
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすためにある『聖域』へと避難していた。映画『友達100人』で駄菓子屋の娘役を演じていた、穏やかで優しい音無つむぎお姉ちゃんの駄菓子屋だ。
店内の古びたパイプ椅子に座り、つむぎちゃんが淹れてくれた温かいお茶をすする。ここなら芸能界のエリート組のレーダーも届かない、俺にとって最高の避難所のはずだった。
「ふふ、駆くん。今日も大変だったんだね。ここなら誰も来ないから、ゆっくりお菓子でも食べていってね」
「ありがとう、つむぎちゃん。本当に心が洗われるようだよ……」
つむぎちゃんの変わらない優しさに、俺の心は久しぶりにじんわりと満たされていった。駄菓子屋のおばあちゃんも奥でニコニコと見守ってくれている。これぞ完璧なハッピーエンド。そう思っていた。
――だが。駄菓子屋の引き戸が、バシィィン!! と勢いよく開け放たれた。
「――見つけたぞ、カケル! こんなところで油を売っている場合か! さあ、行くぞ、我が聖剣エクスカリバー駆よ!」
「ぶっっっ!!!!???」
お茶を盛大に吹き出した。
駄菓子屋の入り口に堂々と立ち、精悍な瞳で俺をロックオンしてきたのは、前世が女勇者の元共演者――天剣アキちゃんだった。彼女は俺の体内のマナの相性の良さを感じ取るあまり、俺のことをかつて異世界で使用していた伝説の武器と同じくらい最高のパートナーだと認識し、事あるごとに俺を「聖剣エクスカリバー駆」と変な名前で呼んでくるのだ。
「ア、アキちゃん!? なんでこの店が分かったんだよ!? というか、公共の場で俺をそんな恥ずかしい名前で呼ぶのをやめてくれ!」
「何を言う、あんたは私にとって唯一無二の、最高に相性の良い聖剣なのだからな! ほら、早く抜かせて(※特訓に連れ出させて)もらうぞ!」
アキちゃんが直情型な脳筋口調で俺の手を引っ張った、まさにその時だった。
「――ちょっと待ちなさいよ天剣アキ!! 放課後の駄菓子屋で、駆くんの『聖剣(※最悪の卑猥な大誤解)』を勝手に独占しようなんて、一体どんな破廉恥な行為を企んでいるのよ!?」
「カケルの『聖剣』の所有権は、この白雪詩織(正妻)のものです! 新参の勇者、そんな卑猥な設定を駆くんに付与して自分だけで使いこなそうなんて絶対に許されません!」
「駆! お前、俺という大事な相棒に黙って、いつの間にそんな立派な伝説の聖剣を隠し持っていやがったんだよ!」
「ぶっっっ!!!!???」
アキちゃんの不穏すぎる大声(聖剣エクスカリバー駆)をどこからか、執念で聞きつけた白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々。さらにその背後からは、
「お外のエリート組だけズルいです! 私たち【モブモブ同盟】のメンバーにも、駆くんの『聖剣』を手取り足取り、密室で濃厚に磨かせて(※大いなる下心)ください!」
と、カフェの葵先輩や、図書館のひよりちゃん、風紀委員の正美ちゃんたちモブモブ同盟の面々までもが、完璧に目を血走らせて狭い駄菓子屋の店内へ一斉になだれ込んできたのだ。
「駆くんの聖剣は私のものです!」「西園寺の財力でその聖剣ごと駆を買い占めますわ!」と、総勢2本の同盟の女たちが入り乱れ、駄菓子屋の店内は一瞬で「誰が駆の聖剣(※ただのニックネーム)を手に入れるか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「わ、わわわ、みんな落ち着いて! お店のおもちゃや10円ゲームを壊さないでぇぇぇ!!」
つむぎちゃんが涙目で必死に止めようとするが、狂気的な女たちのピンクの欲望の暴走は誰にも止められない。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ変な名前で呼ばれただけなのに、なんでつむぎちゃんの駄菓子屋の中で聖剣の宇宙大戦争が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権(伝説の聖剣の特等席)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの避難は、大切なお店を巻き込んだまま、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発大乱闘エンドで幕を閉じるのだった。




