第32話:レンタル彼女を頼んだら、前世が女勇者の元共演者が異世界リベンジの勧誘にやってきた件
「……はぁ。学校のボッチ席も実家も戦場になるなんて、俺のライフはもう完全にマイナス1億を突破してるな……」
あの「お友達作戦」を巡る大ドタバタを経て、俺の精神生命力は風前の灯火だった。今度こそ、俺に歪んだ設定や狂気的な執着を抱いていない、ごく普通の健康的でサバサバした女の子と静かに過ごしたい。俺は携帯を操作し、新しいマイナーなレンカノアプリで、プロフィールに【身体を動かすのが大好きです! 少しボーイッシュですが、さわやかにお喋りしましょう♪】と書かれた、一番まともそうなキャストを指名した。
デート当日。駅前のスポーツカフェの個室。
「――待たせたな、カケル。我が剣にして、無尽蔵なる魔力の王よ。さあ、私と魔王と共に異世界へ戻り、あの肥え太った特権階級のクソ貴族どもに一矢報いようではないか!」
「ぶっっっ!!!!???」
プロテイン入りのさわやかドリンクを盛大に吹き出した。
個室のベンチシートに堂々と脚を組んで座り、精悍な、だけど吸い込まれそうなほど真っ直ぐな瞳で俺をロックオンしてきたのは、映画『友達100人』の撮影当時、駆の相棒ポジション(戦士役)として圧倒的なアクションを披露していた元共演者の美少女――天剣アキちゃんだった。
実は彼女、前世では『異世界で魔王を討伐した本物の女勇者様』であり、魔王リリスを監視するという名目でこの世界へ転生してきたという、お決まりの秘密を持っていた。
だが、その実態はあまりにも理不尽なものだった。異世界の王宮では、魔王という共通の敵がいなくなった世界で、勇者や聖女にこれ以上の権力や発言権が行くことを恐れた特権階級の連中が、事実上の「追放」という形で彼女をこのマナなき現代日本へ追い払ったのだ。そのため、彼女は現代で生活費を稼ぐために子役として映画に出演していたのだった。
「あ、アキちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、さっきから異世界リベンジとか何の話だ!?」
「ふん、とぼけるな。実はな、あの魔王リリスは冤罪だったのだ。あいつは何も悪いことをしていなかったのに、貴族どもの都合で魔王に仕立て上げられていた。聖女マリアのやつは頭が硬すぎて今世でもそのことに気づいていないようだが……魔王はすでに、あんたの体内に渦巻く凄まじいマナの奔流に気づいている。だから私は魔王と手を組み、あんたの魔力を借りて異世界に戻り、私を追放した利権者どもをギャフンと言わせる計画を立てたのだ!」
「いや、俺は異世界なんて1ミリも信じないから。ただの一般人の高校生だからな?」
俺が本気で冷ややかな真顔でツッコミを入れると、アキちゃんは「くっ、さすが伝説の主演、この世界に染まってもなお冷徹でブレないな……!」とわなわなと手を震わせた。
だが、そこからの元勇者様の行動は、とにかく直情型でポンコツだった。
どうしても俺を異世界リベンジの主戦力として連れ帰りたい彼女だったが、俺が全く異世界を信じないため、事前にネットの知恵袋で調べたところ、『異世界を信じない頑なな男は、レンタル彼女で籠絡して骨抜きにすれば、喜んで異世界でもどこでもついてくるようになる』という極端な脳筋解決策にたどり着き、そのまま素直に突撃してきたのだという。
「……アキちゃん。とりあえずその物騒な身乗り出しを辞めて座りな。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前にホットココアお飲みよ。君、昔から本番前に無駄にテンション上げて空回りする癖、変わってないね。でも、そういう君の真っ直ぐなところ、俺は嫌いじゃなかったよ」
俺としては、これ以上騒がれて詩織たち芸能界のエリート組に見つかったら人生が終わするので、「とにかく穏便に、事務的に、手慣れた大人の対応」で彼女をあしらい、スッと椅子を引いてココアを差し出しただけだった。
「ひゃうんっ……!?(な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的な洗練されたエスコートと、余裕のある大人の男のオーラは……っ!?)」
アキちゃんは小さな悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
ハニトラで籠絡しにきたはずの元勇者様の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。




