閑話が本題 駆が聖女?
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすためにため息をついていた。
そんなある日のこと。前世が異世界の大聖女であり、今回が二度目の転生となる聖園マリアちゃんは、自室のベッドの上でノートを開き、ある壮大なテーマについて真剣な考察(当社比調べ)を行っていた。
「いいですか、私。この現代社会に溢れる物語を研究した結果、異世界における『聖女の定義』が完璧に解明されましたわ」
マリアちゃんはペンを走らせ、脳内で導き出した独自の聖女マニュアルを呟いていく。
一、ピンクブロンド系の聖女は高確率で婚約破棄されてザマァされる。
二、金髪で虐げられているドアマット系のヒロインは、最終的に王子様と結ばれる確定ルートに入る。
三、黒髪転生系のヒロインは、大体どこかの見目麗しい侯爵令息と恋に落ちるルートを辿る。
四、赤髪のヒロインは、前世が伝説の大聖女であるにもかかわらず、ひたすらにその事実を隠して平穏に生きようとする傾向にある。
「……ですが、ここで重大なバグが発生していますわ。この私は黒髪転生系。それなのに、現世において見目麗しい侯爵令息になんて、ただの一人も出会っていませんの。……まさか」
マリアちゃんはガタッと椅子を蹴立てて立ち上がり、恐ろしい仮説にたどり着いた。
「まさか、あの伝説の主演である大河内駆くんこそが、現世における私の『侯爵令息』枠なのでは……!?」
彼女がそんなくだらない妄想を脳内で爆発させていた、まさにその時だった。実家のリビングのドアが勢いよく開き、ひまりと一緒に怪しげな眼鏡型の機械を抱えた魔王院リリスが、顔を真っ青にして飛び込んできたのだ。
「マ、マリア大変よ! カケルの体内のマナを測定したら、まさかの【五十三万】という破滅的な数値を叩き出したわ! あいつは人間じゃない、無尽蔵なるマナの怪物(王子様)よぉぉぉ!!」
「なんですってーっ!?」
魔王の叫びを聞いた瞬間、マリアちゃんの聖女脳はさらなる斜め上の勘違いへと暴走した。
「マナパワー五十三万……!? ということは、現世における『真の聖女』は、私ではなく駆くんの方ですの!? ということは私、真の聖女の立場を奪ってイキり散らかした末に、最終的に手酷く婚約破棄されてザマァされる側の悪役ヒロイン(ピンクブロンド系精神)だったというわけ!? ひ、ひえええええ!!」
自分が将来ザマァされる未来を勝手に想像し、顔を真っ白にしてガタガタと震え出す元大聖女。
己の破滅ルートを回避するため、そしてカケルが本当に自分をザマァするような恐ろしい存在なのかを確かめるため、彼女は急ぎ学校の放課後の教室へと向かった。
そうして、物陰から駆の様子をウォッチング(偵察)し始めたのだが――。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 放課後の教室から音速で脱走して、一体どこの泥棒猫の元へ向かうつもりよ!? 私が西園寺のリムジンで拉致して一晩中コンプラ指導をしてあげるわ!」
「カケルの放課後の所有権は、この白雪詩織(正妻)のものです! 逃げても無駄ですよ、駆くん!」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で一人で下山しようなんてずるいぞ! 待てよ!」
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ普通に家に帰りたいだけなのに、なんで毎日放課後の校舎の中で命がけのチェイスが始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
そこにあったのは、圧倒的な聖なる力で世界を支配する王の姿などでは微塵もなかった。
白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々に血眼で追い回され、涙目で必死の超高速ステップを刻みながら校舎の廊下を全力疾走で逃げ回っている、ただの哀れなボッチ高校生の不憫すぎる姿だった。
「……あら。あはは、なによあれ。全然私をザマァするような余裕なんてないじゃない」
そのあまりにも情けない駆の逃亡劇を見て、マリアちゃんはホッと胸をなでおろし、いつもの自信に満ちた聖女の笑顔を取り戻した。
「フフ、決まりましたわ! 駆くんがただの無力なボッチ(※実際は包囲網の爆心地)なら、私は悪役令嬢でもザマァヒロインでもありませんわね! よし、聖女の慈悲として、私もあの『駆鬼ごっこ』に参加して、あいつを私の聖なる結界の中に一番最初に捕獲して差し上げますわ!」
マリアちゃんは純白のワンピースの裾を翻すと、聖なるパッションを全力で爆発させ、「駆くん、私から逃げられると思わないことですわ!」と、目を血走らせた詩織たちの猛追に笑顔で合流した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! なんで聖女様まで笑顔でプレデターの群れ(カチコミ)に混ざって俺を追いかけてくるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権(鬼ごっこの終着駅)を巡って再び五十三万の数値を叩き出しながら追いかけてくる彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの放課後は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発暴走エンドで幕を閉じるのだった。




