閑話が本題 駆のお茶会
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすためにため息をついていた。
そんなある日のこと。あの女癖の悪い芸能プロデューサーから俺や【マネジメント同盟】の大人たちが救い出した、元共演者のコレットちゃんから、一通の非常に美しい蝋封付きの招待状が届いた。
どうやら彼女は、あのときの救出劇のお礼として、俺やマネジメント同盟の面々を招いた『優雅なお茶会』を開催したいらしい。
実は彼女、前世では異世界の悪役令嬢だったため、こうした社交の場には慣れているはずだった。――が、ぶっちゃけ前世でのお茶会の準備はすべて優秀な侍女たちに丸投げして任せきりだったため、いざ現代の日本で自分一人でお茶会を開こうとしたところ、具体的なお茶の淹れ方やマナーのやり方が全く分からなかったのだという。
困り果てたコレットちゃんは、俺が働くカフェの指導先輩である橘葵さんに「お茶会の作法を教えて頂きたいのですわ……!」と涙目で相談。葵先輩の協力のもと、なんとかカフェの個室を貸し切って、手作りの焼き菓子とお茶を用意することに成功したのだ。
そうして迎えたお茶会の当日。
「皆様、先日は不届きな悪党から私を救ってくださり、本当にありがとうございましたわ。不手際ばかりですが、どうぞ私の感謝の心を受け取ってくださいな」
コレットちゃんは背筋をピンと伸ばし、貧しい今世のアルバイトで一生懸命貯めた現金で用意した極上の紅茶を、俺や高坂マネージャーたちの前に優しく差し出した。
元天才主演としてのスマートなレディファーストを崩さず、俺も「ありがとう、コレットちゃん。すごく美味しいよ」と微笑み、高坂マネージャーたちも「これならコンプラ的にも完璧なハッピーエンドね!」と大満足。彼女の感謝の言葉と共に、これ以上ないほど綺麗で穏やかな日常パートの空気でお茶会は幕を閉じるはずだった。
――しかし。その静かなカフェの個室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 芸能界のエリート組であるこの私に黙って、放課後の個室でコレットを相手に、一体どんな破廉恥な『秘密の夜会(※大いなる誤解)』を繰り広げているのよ!?」
「カケルの初めての夜会のパートナーは、この白雪詩織のはずです! 新参の悪役令嬢、夜会のドレスコードを盾に駆くんを独占するなんてズルいですわ!」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒でイブニングドレスのパーティーなんてずるいぞ!」
「ぶっっっ!!!!???」
ドアの前から、なぜか完璧に気合の入ったド派手なパーティードレス(夜会服)を身にまとい、目を血走らせてなだれ込んできたのは、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々だった。
コレットちゃんが「優雅な会(お茶会)を開きますわ」と裏のチャットで少しだけ呟いたのを、彼女たちが勝手に『駆をエスコートするための大人の夜会』だと猛烈に勘違いし、全員が最高級のドレスを新調してカチコミをかけてきたのだ。
「駆くんのエスコートの特等席は私です!」「西園寺の財力でこの夜会の会場ごと買い占めますわ!」と、ありとあらゆる歪んだクソデカ感情(下心)を引っ提げ、個室の中は一瞬で「誰が駆とダンスを踊るか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただコレットちゃんに紅茶を淹れてもらっただけなのに、なんでカフェの中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権(ファーストダンスの権利)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずのお茶会は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発ドタバタエンドで幕を閉じるのだった。




