第28話:レンタル彼女を頼んだら、前世が悪役令嬢だった元共演者が現れた件
「……もう、学校の自分の席すら針のむしろじゃないか。左に詩織、前に蓮、右に未来……。席替えをしても、俺のライフは削られ続ける運命なんだな……」
あの逃げ場のない完璧な『教室包囲網』に捕まった俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすために新たなマイナーレンカノアプリを開いていた。お外の強豪や学校のプレデターたちの網の目をくぐり抜けるため、今回はプロフィールに【お芝居の練習相手になります。少し古風な口調ですが、優しくお喋りしましょう】と書かれた、一番落ち着きそうなキャストを指名した。
デート当日。格式高いクラシックホテルのティーラウンジ。
「お待たせいたしました、大河内駆様。……ふふ、こうしてお外であなたと対面できるなんて、まるで運命の悪戯のようですわね?」
「ぶっっっ!!!!???」
現れたのは、落ち着いた女の子どころか、背筋をピンと伸ばした圧倒的なノーブルのオーラを放ちながら優雅に紅茶を傾ける超絶美少女――映画『友達100人』の撮影当時、気品溢れる演技で周囲を圧倒していた元共演者の、コレット(仮名)ちゃんだった。
実は彼女、前世では『冤罪をかけられて処刑された異世界の悪役令嬢』であり、現代の日本に記憶を持ったまま転生してきたという、とんでもない秘密を持っていた。
今世の家はかなりの貧乏だが、前世の冷酷な実家とは違い、今世の不器用な両親は彼女の子役デビューを我がことのように喜び、全力で応援してくれていた。映画の仲間たちとも仲良くなれて、今度こそ自分の好きなように幸せに生きようと順風満帆な日々を送っていたのだ。
「こ、コレットちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、何でそんなに達観した目で俺を見てるんだ?」
「ふふ、訳あって少しだけ、現金が必要になりまして。……でも、駆様が指名してくださって本当に救われましたわ。私、あなたの前だと、前世の悪役令嬢の仮面を外して、ただの女の子に戻れる気がいたしますの」
お淑やかに微笑むコレットちゃん。ヤンデレや脳筋の圧力がない、その気品に満ちた穏やかな時間に、俺の心は久しぶりにじんわりと満たされていった。
しかし、デートの最中。ホテルのロビーへ移動したところで、最悪の男が目の前に立ちはだかった。
「おや、コレットちゃんじゃないか。こんなところで何をしてるんだい? 君の次の番組の件だけどね、僕の個人的な『特別面談』を受けてくれるなら、主役の座を確約してあげてもいいんだよ?」
嫌らしい笑みを浮かべ、コレットちゃんの肩に馴れ馴れしく手を回そうとしてきたのは、業界でも女癖の悪さで悪名高い、某局の有名芸能プロデューサーだった。
「っ……!」
コレットちゃんが、恐怖と前世のトラウマで、小さく身を震わせて顔を真っ白にする。
前世でも今世でも、また汚い大人に踏みつけられるのかと、彼女の瞳から光が消えかけた、その瞬間だった。
バシッ!!!
「――そこまでですよ、プロデューサーさん。うちの『元主演』と『大事な共演者』に、随分と汚い手を伸ばそうとしているみたいですね?」
俺の手が、無意識のレディファーストでプロデューサーの手を叩き落としていた。
さらに、俺の背後からは、たまたま業界のコンプライアンス会議の帰りで一緒にいた高坂マネージャーや五味プロデューサー、城ヶ崎先生といった【マネジメント同盟】の大人たちが、恐ろしい黒いオーラを放ちながら音もなく現れた。
「ちょっとプロデューサーさん。ウチのタレントや駆くんに手を出すなんて、立派なコンプライアンス違反よ? 業界から消されたいの?」と高坂マネージャーが書類を叩きつけ、五味Pが「あなたの番組、今すぐ全予算を凍結して打ち切りにしてあげましょうか?」と冷笑する。
「ひ、ヒエッ……! なんだこの権力の塊の集団は……っ!?」
あまりの社会的恐怖に、女癖の悪いプロデューサーは脱兎の如く逃げ出していった。
「……大丈夫だった、コレットちゃん? 怖かったよね」
俺は自然な動作で、怯えるコレットちゃんの前に立って背中で庇い、優しく声をかけた。
「あ……。駆、様……」
至近距離で見つめられる、コレットちゃんの濡れたような瞳。
前世の理不尽な冤罪からも、今世の芸能界の闇からも、誰も助けてくれなかった彼女の世界に、大河内駆という男の圧倒的な『主役のオーラ』と『スマートな優しさ』が、ド直球で突き刺さった。
「決まりましたわ。……私、もう二度と、あなた以外の男の言うことなんて聞きません。これからは毎週、私この『レンカノ』で、あなたを私だけの本物の王子様にして差し上げますわ!」
俺の「ただの仲間を助けるための無自覚なレディファースト」によって、異世界転生してきた元悪役令嬢の恋心と執着に爆速で火をつけてしまい、レンタル彼女の指名争奪戦へと、新たなクソデカ感情を孕んだ本格参戦を決定されるのだった。




