第26話:群馬の誇りを胸にフランスへ渡った神7最弱が、ハニトラを仕掛けようとして返り討ちに遭った件
「……もう、これで本当に最後にしてくれ。世界のどの秘境にあるアプリを使っても、あの21名の包囲網からは逃げられない。俺の魂は完全に消滅した……」
あのノーベル平和賞を受賞したまひろの地球規模の迷子劇を経て、俺のライフはついに完全にゼロになっていた。
どこに逃げても捕獲される。こうなったら、世間のコンプライアンスやヤンデレ同盟のレーダーから完全に外れた、超超超超マニアックな『ローカル地域限定・郷土愛レンタル彼女アプリ』を使うしかない。
「今度こそ、俺に執着していない、ただの地方都市の普通の女の子と、特産物の話でもしながら穏やかにお茶をすするんだ……!」
俺は携帯を操作し、プロフィールに【群馬県出身です。故郷の味を愛する、さわやかな女の子です♪】と書かれた、一番健康的で普通そうなキャストを指名した。
放置されたお洒落なフレンチカフェのテラス席。
「ボンジュール、カケル! ついにこの時が来たわね。……ふん、私の圧倒的なフランス仕込みのエレガンスに、今すぐひれ伏しなさい!」
「ぶっっっ!!!!???」
お洒落なカフェオレを盛大に吹き出した。
テラス席に現れたのは、物静かな地方の女の子どころか、不自然なほど気取ったフランス風のドレスを身にまとい、手にはなぜか群馬名物『焼きまんじゅう』のタレをぶら下げた超絶美少女――映画『友達100人』の撮影当時、主演の俺と一緒に『神7』の最後の一人(最弱枠)として活動し、その後「神7の面汚し」とファンに叩かれた悔しさからフランスへお洒落留学していた元共演者、上毛みのり(仮名)だった。
「み、みのり!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、その手にある茶色いドロドロしたタレは何なんだよ!?」
「失礼ね! これは群馬のソウルフード、焼きまんじゅうのタレよ! 聞きなさいカケル、お洒落な国御フランスは、焼きまんじゅうも登利平の鳥めし弁当も売っていなくて本当に食文化が不毛だったわ! フランスは食では群馬に劣るのね……!」
「いや、比べる対象が独特すぎるし、フランスの食文化をナメるな」
呆然とする俺。実はみのり、久々に日本の『神7』のメンバーが駆の周りに大集結しているという噂を業界の裏ルートで聞きつけ、「本命は一番最後に現れるものよ!」と満を持して帰国したらしい。しかし、さっき詩織や麗華たちに挨拶に行ったら「……え? 誰だっけ?」と本気で忘れられており、激怒して俺のところに突撃してきたのだという。
「いいカケル!? 神7トップのあなたをこの私のハニートラップで陥落させれば、私が名実ともに『神7の頂点』に立てるのよ! 覚悟しなさい!」
「目的を口に出しながらハニトラ仕掛ける奴があるかよ! 帰れ!」
俺があまりにも雑に塩対応(※毎週の修羅場で鍛えられた事務的スルー)をしたため、みのりはフレンチエレガンスを投げ捨ててギャーギャーと怒り狂った。
しかし、ここまでの数週間、本物のヤンデレや狂気的な大人たちに揉まれ続けてきた俺の『レンカノ対応』は、すでに神の領域に達していた。
「……はぁ。上毛さんさ、とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前にカフェオレ飲みな。君、昔から本番前にガチガチに緊張してセリフ飛ばしてたよね。でも、誰よりも台本を真っ黒になるまで読み込んで努力してた。俺、そういう君の泥臭いところ、神7の中で一番リスペクトしてたよ」
俺としては、これ以上騒がれて他の同盟に見つかったら人生が終わするので、「とにかく穏便に、事務的に、手慣れた大人の対応」で彼女をあしらっただけだった。
しかし、俺が雑に椅子を引き、冷ややかな、だけど洗練された大人の気遣いを見せた瞬間。
みのりは「ひゃいっ……!」と小さな悲鳴を上げて顔を真っ真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまったのだ。
「(……な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的なレディファーストと、余裕のある大人の男のオーラは……っ!? ハニトラを仕掛ける前に、私の方が完全に落とされてるじゃないのよ……っ!?)」
俺がこれまでのトラウマのせいで『レンカノ対応』に慣れすぎていただけなのだが、ハニトラを仕掛けにきた最弱神7の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。




