閑話が本題 駆の迷子センター
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすために少し離れた大きなショッピングモールへとやってきていた。ここなら芸能界のエリート組や学校の包囲網を完全に巻いて、静かに普通の買い物を楽しめるはずだ――そう思っていた。
しかし、広大なモールの案内板の前で、頭を抱えて完全にフリーズしている、どこか見覚えのある美少女の後ろ姿を見つけた。
映画『友達100人』の主要キャスト『神7』の1人であり、当時から究極の方向音痴として有名だった元共演者――一ノ瀬まひろちゃんだった。しかも彼女の服の裾を、小さな男の子が泣きながらぎゅっと握りしめている。
「……あれ? まひろちゃん? なんでこんなところにいるんだ?」
「あ、駆くん……!? ああ、よかった、やっと知っている顔に会えたわ……! 聞いて、この子、迷子になっちゃったみたいで、私を『迷子センター』に連れて行ってあげようとしたの。……そしたら、気づいたら案内板ごと、私とこの子でさらに派手に迷子になっちゃって……」
「迷子を助けようとした本物の迷子が、さらに迷子を増やしてどうするんだよ!?」
呆然とする俺。しかし、泣きじゃくる小さな子供と、今にも泣き出しそうなまひろちゃんをこの広いモールの中に放っておくわけにはいかない。
「……はぁ。分かったよ。俺も一緒に、この子の親を探してあげるから」
俺は元天才主演としてのお節介を発揮し、まひろちゃんと2人で、子供の小さな手をしっかりと握りながらモール内を探索することにした。
駆の洗練されたスマートなレディファーストと、まひろちゃんのフワフワとした癒やしのオーラ。まるで本当の若いパパとママのようなコンビネーションで、俺たちは迷子センターに頼ることなく、フードコートの前で必死に子供を探していた母親を無事に発見した。
「ああ、よかった……! ありがとうございます、本当にありがとうございました……っ!」
母親は子供を抱きしめて大号泣し、何度も俺たちに頭を下げた。そして、俺とまひろちゃんの手が、子供を挟んで自然と近くに並んでいるのを見て、温かい笑顔を向けてくれた。
「とっても優しくて、息もぴったりで、まるでお似合いのカップルですね♪」
「えっ!? あ、いや、私たちはそんなんじゃなくて、ただの元の仕事の知り合いというか――」
「ふふ、お似合いのカップル……。駆くん、なんだか、凄く嬉しい響きね……っ」
まひろちゃんは頬をポッと赤らめ、お淑やかに微笑んだ。これ以上ないほど綺麗で穏やかな日常パートの空気。これで完璧なハッピーエンド――。
――になるはずが、俺の背後の通路から、地響きと共に凄まじい黒い大河内家のオーラが爆発した。
「ちょっと待ちなさいよ、あなたたち。駆と『お似合いのカップル』なのは、義理の姉であるこの私よ! ほんの一瞬、私がトイレに行っている隙を狙って、駆を連れ去り不純なカップル設定を付与するなんて絶対に許さないわ!」
腕を激しく回しながら猛ダッシュで突撃してきたのは、俺のキレイ系脳筋義姉――大河内美夜だった。さらにその後ろからは、
「ひまりちゃんのデジタル分析によると、まひろお姉ちゃんの迷子スキルによる接近は、計算済みのハニートラップです。駆お兄ちゃんの『本物のパートナー(妹)』は私です。今すぐお兄ちゃんを私の部屋へ連行させてください!」
と、ノートPCを掲げた義妹のひまりまでが、完璧に目を血走らせて殺到してきたのだ。
「ぶっっっ!!!!???」
実は、俺は今日、美夜お姉ちゃんとひまりの2人に強引にショッピングに付き合わされており、俺がほんの数分だけ「トイレに行ってくる」と言って別れていたその短い隙に、まひろちゃんとの偶然の親探しイベントが発生していたのだ。
「駆くんの初めてのカップルの座は私です! 泥棒猫の身内たちは退きなさい!」まひろちゃんも珍しく頑なに一歩も引かず、モールの通路のど真ん中は、一瞬で「誰が駆とお似合いのカップルか」という大混乱の実家連合VS神7の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ迷子を親に届けただけなのに、なんでトイレから戻ってきた瞬間に第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずのショッピングは、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発乱闘エンドで幕を閉じるのだった。




