閑話が本題 駆のカレー研究
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすためにため息をついていた。
事の始まりは、映画『友達100人』の神7黄色担当であり、インド帰りの黄川田ココ(仮名)ちゃんが、俺の作った自作カレーを「これぞ理想の『駆は王子様カレー』よ!」と多方面に大絶宣伝して回ったことだった。
芸能界の一流たちが「ただの家庭用スパイスカレーだろ」とスルーする中、その噂に意外すぎる角度から食いついた人物がいた。
「駆くん……ココちゃんから聞いたんだけど、あなたの作ったカレー、とっても美味しいんですってね? ……実は、読書にはカレーが最高なんです。スパイスで頭がすっきりしますし、何よりスプーン一本、片手でページをめくりながら食べられるのが素晴らしいわ」
目を輝かせて熱弁を振るってきたのは、学校の図書館で再会した地味子――三上ひよりちゃんだった。
「えっ、三上さん、読書のためにカレーを……?」
「ええ! だからお願い駆くん、ココちゃんも交えて、3人で『もっと読書に合う最高のカレー』を一緒に作ってみない……?」
本を愛するひよりちゃんの、あまりにも純粋で健気な提案。これなら、お外のヤンデレや財閥の包囲網を完全に巻いて、静かにスパイスの歴史でも語りながら穏やかな時間を過ごせるはずだ。俺は救いを求めるように、そのカレー研究会への参加を快く了承した。
そして放課後。家庭科室を借りて行われた、3人だけのカレー研究会。
「ナマステ、駆くん、ひよりちゃん! さあ、私たちの愛のチャクラを込めて、世界一のスパイス調合を完成させるわよ!」
「はい、ココちゃん! 私は隠し味に、脳が活性化するハーブのデータを調べてきました!」
ココちゃんのボリウッド級の情熱と、ひよりちゃんの読書への信仰心が完璧に融合し、家庭科室にはなっから香ばしいスパイスの香りが漂い始めた。俺も元天才主演としての手慣れた大人のサポート(※ただの火加減の調整や野菜のカット)を流れるようにこなし、3人で何度も味見を繰り返す。
さすがに本場インドの宮廷料理とまではいかなかったが、俺たちの知恵を合わせたカレーは、驚異的なコクとすっきりとした後味を両立。読書に集中するのにこれ以上ない、最高の『インテリジェンス・スパイスカレー』が完成したのだ。
「うわぁぁぁ……! すごい、美味しい! これなら本を汚さずに、いくらでも読書に没頭できるわ!」
ひよりちゃんは一瞬で目を輝かせ、ココちゃんも「さすが私の王子様カレーだわ!」と大感激。これ以上ないほど綺麗な日常パートの空気で、和やかにハッピーエンド――。
――になるはずが、家庭科室の窓の外から、ドス黒い大人のオーラ(ピンクの欲望)が音もなく立ち上った。
「――ちょっと待ちなさいよ、あなたたち。駆くんが放課後の密室で、女の子と手取り足取り『共同作業(お料理デート)』をしているなんて、立派なコンプライアンス違反よ?(グヘヘヘ、駆くんのエプロン姿、最高にエロ可愛くて、今すぐ私が美味しく平らげてあげたいわ♥)」
ガラララッ!! と扉を笑顔で開けて入ってきたのは、コンプラの鬼・高坂マネージャーだった。さらにその後ろからは、
「カケルくんの自作カレーの噂は、プロデューサーの私の耳にも届いているわ。その『駆ママ特製カレー』、局の全予算を賭けてでも、私が一番最初に手取り足取りよしよしされながらあーん(※大いなる下心)して食べる権利があるわ!」
と五味プロデューサーが突撃し、さらに新藤鏡子総監督までもが、
「ノーよ、五味さん。カケルの作った映画の最初の観客(お代わり)は、この私よ。さあカケル、私のプライベートのキッチン(審査室)へ今すぐ連行させてあげるわ」
と、恐ろしい社会的権力を行使してなだれ込んできたのだ。
「ぶっっっ!!!!???」
俺が女の子と料理を作っているという噂を聞きつけた、高坂マネージャー、五味プロデューサー、新藤鏡子監督といった【マネジメント同盟(大人組)】の面々が、完璧に目を血走らせて一斉に家庭科室へとカチコミをかけてきたのだ。
「駆ママのカレーは私のよ!」「私が赤ちゃんとして食べます!」「私の専属主演(旦那様)にしなさい!」と、ありとあらゆる歪んだ設定資料を引っ提げ、家庭科室の中は一瞬で「誰が駆の手料理を独占するか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ読書用のカレーを作っただけなのに、なんで学校の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、お代わり(所有権)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずのカレー開発は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




