閑話が本題 駆の算数教室
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、平日の放課後、すり減った心を癒やすために自室のベッドで横になっていた。
そんなある日のこと。映画『友達100人』の主要キャスト『神7』の1人であり、アメリカへ演技留学していた元共演者の星野エリカ(仮名)が、こちらの学校へ正式に転校してくることが決まったらしい。しかし、そのためには学校の編入試験を突破しなければならなかった。
「ヘイ、カケル! 聞いて頂戴! 私、英語のテストは完璧(満点)だったのに、数学のテストが壊滅的だったのよ! 1足す1はいつだってパッション(200)なのに、学校の先生は『バツ』を付けるの! ナンセンスよ、十倍だぞ十倍!!」
「いや、バツを付ける先生の方が圧倒的に正しいから。というかお前、アメリカで一体どんな勉強をしてきたんだよ……」
泣きつかれた俺は、元天才主演としてのお節介で、彼女がこの学校へ無事に転校してこられるよう、一回限りの『家庭教師(先生)』を引き受けることにした。
とはいえ、彼女の数学のレベルは「壊滅的」なんて言葉では生温い。高校の数学を教えるはずが、気づけば俺は、小学校レベルの算数(割り算や分数の足し算)を教える羽目になっていた。
「いい、エリカ。パッションを足し算に掛け算しちゃダメ。リンゴが2個あって、それを2人で分けたら1人1個でしょ。だから2割る2は1。200にはならないの」
「オーマイガー……! 駆先生のインテリジェンスな授業、なっから頭に入ってくるわ……! 割り算って、パッションじゃなくて優しさで分けることだったのね……っ!でもリンゴを一緒に買いに行って欲しいだけかも…」
「…」
俺がホワイトボードを使って丁寧に、スマートな大人の余裕(※ただの事務的なエスコート)で算数を教えていく。
さすがに高等数学は無理だったが、俺の粘り強い指導(算数特訓)のおかげで、エリカは奇跡的に次の編入試験の最低ラインをクリア。無事にテストを合格し、こちらの学校への正式な転校の流れを勝ち取ることができたのだ。
「カケル、ありがとう! 私、無事に転校できるわ! これで完璧なハッピーエンドね!」
「うん、よかった。これで一安心だね、エリカ」
俺はホッと胸をなでおろし、ようやく平和な日常が戻ったのだと安心していた。
――しかし。俺たちの間で密かに行われていた『密室の個人授業』の噂は、すでに全方位へと漏れ聞こえていた。
ガラララッ!! バァァァン!! と、放課後の教室のドアが同時に前後から激しく蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 私たちに黙ってエリカを相手に『個人授業』なんて、一体どんな破廉恥な個別指導(※大いなる誤解)を繰り広げているのよ!? 私にも手取り足取り、コンプラ違反の勉強を教えなさい!」
「カケルの初めての生徒の座は、この白雪詩織のはずです! 新参の帰国子女にマンツーマンで教えるなんてズルいですよ!」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で勉強会なんてずるいぞ! ほら、俺にも教えろよな!」
「ぶっっっ!!!!???」
ドアの前から目を血走らせてなだれ込んできたのは、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々。
さらに、もう一方のドアからは、
「お外の強豪たちだけズルいです! 私たち【モブモブ同盟】のメンバーにも、駆先生から密室で濃厚な個人授業(※大いなる下心)を受けさせてください!」
と、カフェの葵先輩や、図書館のひよりちゃん、風紀委員の正美ちゃんたちモブモブ同盟の面々までもが、完璧に殺気立った瞳で教室へ殺到してきた(カチコミ)のだ。
「私たちにも個人授業を要求します!」と、総勢2本の同盟の女たちが入り乱れ、教室の中は一瞬で「誰が駆先生のマンツーマン指導を得るか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただの小学生レベルの算数を教えただけなのに、なんで学校の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、受講枠を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの勉強会は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




