第23話:ハリウッドからの帰国子女が、計算違いな情熱を引っ提げてレンタル彼女に参戦した件
「……もう無理だ。2個隣町のファミレスですら、あの18名の包囲網からは逃げられない。俺のライフはもう完全にマイナスだ……」
あの四つ巴マウント大戦から命からがら帰宅した俺は、自室のベッドで抜け殻のようになっていた。
こうなったら、誰も俺の居場所を特定できないような、海外にサーバーがある超超マイナーな国際派レンタル彼女アプリを使うしかない。
「今度こそ、俺に執着していない普通の女の子と、穏やかな英語のレッスンでもしながらリハビリデートをするんだ……!」
俺は携帯を操作し、プロフィールに【アメリカからの帰国子女。日本語の方が得意ですが、さわやかにお喋りを楽しみましょう♪】と書かれた、一番健康的で普通そうなキャストを指名した。
もっとも、指定した異国情緒あふれる赤レンガのオープンカフェで、その幻想は一瞬で打ち砕かれることになる。
「ヘイ、カケル! 会いたかったわ! さあ、私と一緒に今すぐハリウッドへ飛び立ちましょ!」
いきなり大音量で叫びながらポーズを決めて現れたのは、金髪のインナーカラーを入れたド派手なライダースジャケットを羽織った超絶美少女。
映画『友達100人』の撮影当時、主演の俺と一緒に『神7』として圧倒的な人気を誇り、その後アメリカへ演技留学していた元共演者の日本人、星野エリカ(仮名)だった。
呆然とする俺の前に詰め寄り、エリカはビシッと指を突きつけてくる。
「いいカケル!? 私たちの才能が合わされば、ハリウッドなんて一瞬よ! 1足す1は2じゃない、200よ! 十倍だぞ十倍!!」
「……え、ちょっと待って。1(駆)足す1(私)が、なんで200になるんだよ? 2でしょ」
「ノーノー! 1(駆)足す1(私)は200!! 十倍だぞ十倍!!」
「いや、2の十倍は20だし、そもそも1足す1の十倍でも20でしょ。どこから200って数字が出てきたんだよ、百倍になってるじゃねえか。というか何が十倍なんだよ」
「パッションよ、パッション!! だから十倍なのよ!!」
「いやパッションを足し算に掛け算するな。計算がめちゃくちゃすぎて脳が痛いんだけど」
「いいから大人しく連れ去られなさい! 1足す1は200、十倍だぞ十倍なんだからね!!」
あまりの勢いに頭痛がしてきたが、俺はなんとか深呼吸をして、あえて彼女のおバカなレベルに合わせた適当な計算で返してみることにした。
「……はぁ。分かった、百歩譲って1(駆)足す1(私)が200だとするよ。でもさ、それなら100友メンバー全員(残り98人は1として)で集まったら、合計で戦闘力298になるから、ぶっちゃけハリウッドに行くより日本で活動した方がいいのでは?」
「……え?」
エリカは動きをピタッと止めて、自分の両手の指を折り数えながら激しく絶句し始めた。
「に、298……? 日本の方が……多い……? ジーザス、ハリウッドより日本の方がコスパが良いなんて……!」
「いや、コスパの話はしてないけど」
「日本の元共演者たちが、裏でこぞって『レンタル彼女』っていう最先端の演技指導を受けてるって聞いたからよ! 私も負けてられないから登録したの! さあ、私の完璧なハリウッド仕込みのエスコートを受けなさい!」
エリカは自信満々に俺の手を引いて歩き出したが、そのデート内容はとにかく破天荒だった。
海外の挨拶だからと、会った瞬間に不意打ちでギュッと抱きついてきて俺の心臓を爆発死そうにさせたかと思えば、カフェで注文する時には「コーラ、ラージサイズ、氷なしで」と発音だけネイティブっぽく言ってドヤ顔を決め、道端で犬を見かけるたびに「オーマイガー! キュート!」と日本語で大騒ぎする。
おバカで、直情型で、とにかくうるさい。
だけど、今までのヒロインたちみたいなヤンデレの殺気やコンプラの圧力が一切ないその明るさは、ボロボロだった俺の心を別の意味でパニックに陥らせてくれた。
「カケル、あなたやっぱり最高に格好いいわ! ハリウッドなんてどうでもよくなった! これからは毎週、私がこの『えんぎしどう』で、あなたを私色のアメリカンにしてあげるからね!」
俺の何気ない適当な計算へのツッコミによって、帰国子女(※ただし生粋の日本人)の恋心の導火線に爆速で火をつけてしまい、レンタル彼女の指名争奪戦へと、文字通り世界規模の破天荒な参戦を決定されるのだった。




