第二十二話裏話 まさかの準レギュラー 視点
【優香の視点】お前のことは忘れないよ、だから私の部屋へおいで?
私は、傷つきやすい不器用な男の子を甘やかしてあげたい、ごく普通の一般人レンタル彼女。
……のはずなんだけど、もう私の精神も限界よ!!
前回のファミレスでの恐怖が忘れられなくて、もう二度と駆くんの指名は受けないって決めてたの。だけど、あの子、泣きそうな声で「今度は絶対大丈夫だから! 2個隣町の広いファミレスだから!」って何度も縋るようにメッセージを送ってくるんだもの。
あんな可愛い顔で必死に頼まれたら、断れるわけないじゃない……!
そうして、震える足で向かった2個隣町のファミレス。
席にいた駆くんは、私が来た瞬間、本当に嬉しそうに目を輝かせて、「ここは隔離エリアだから大丈夫だよ!」って、私のために凄くスマートにレディファーストでお水を注いでくれたの。
なんとなく、駆くん、前よりずっと大人の男の人っぽくて格好よくなってる……ちょっとドキドキしちゃうな……なんて、普通の甘酸っぱいデートを楽しんでいたのよ、最初の10分間だけは。
パーティールームの方から、高坂マネージャーの冷徹な声で『駆くんのスケジュール管理は私たち【マネジメント同盟】が全権を握るべきよ』って会話が聞こえてきた瞬間、私の全細胞が「死」を察知したわ。
次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開いて、中からトップ女優や財閥令嬢、果ては大物プロデューサーにコンプライアンスマネージャーまで、芸能界の最高権力者たち(総勢18名)が、4つの勢力に分かれて完全な暴走マウント大戦を繰り広げながらなだれ込んできたの!
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!!」
私はハンバーグを喉に詰まらせながら、3度目の音速脱走を敢行したわ。もうあの男の子、絶対に何かの呪いの装備を身につけてるに違いないわよ!
お店の外に逃げ出して、遠くの物陰からファミレスのガラス窓を覗き見たら、駆くんが映画のアクションシーンみたいな凄まじい超高速のステップで逃げ出そうとしていたの。
凄い! 駆くん格好いい、これなら逃げ切れる――って思った瞬間に、自動ドアの前に仁王立ちしてたジャージ姿の凄いスタイルの美女に、一瞬で首根っこを掴まれて捕獲されてた。
そのまま大物プロデューサーのお姉さんの胸の中にすっぽり埋め込まれて、詩織ちゃんたちに手足をロックされながら、駆くんが「もうやだぁぁぁお家に帰るぅぅぅ!!」って涙目で絶交してるのが見えたわ。
駆くん、ごめんなさい。私、ただの一般人の女子大生だから、あの芸能界のピンクの欲望の化物たちから、あなたを救い出してあげる力はないの。
でもね……あんなに必死に逃げ回って、最後はみんなに寄ってたかって『よしよし』されてボロボロになってる駆くんの姿(お前のことは忘れないよ)を見ていたら、私の中の何かも、ちょっとだけキュンと狂いそうになっちゃった……。
もし、あの16人の包囲網の隙を突いて、私が4回目のデートで駆くんを完全に私のワンルームマンションに連れ去って、一生閉じ込めて甘やかしてあげたら……駆くん、私のことだけを大好きになってくれるかしら……?
夕暮れの2個隣町の駅のホームで、スマホのレンカノアプリを開き、駆くんの『お気に入り登録』をガチチに固定しながら、私――一般人代表の優香もまた、あの大河内駆という危険な劇薬によって、静かに、完璧に狂わされていくのだった――。




