第三話裏話 つむぎ視点
### 【音無つむぎの視点】私の可愛い駆くん、いつでもここへ帰っておいで
周りの子役たちが、年齢を重ねるごとに「プロの表現者」として洗練されていく中、私は一人、暗闇に取り残されたような感覚に陥っていた。
映画の中では、主人公カケルを優しく見守る『駄菓子屋の優しいお姉さん』なんて役を演じていたけれど、当時の私は、自分の演技の幅の狭さに、そして才能の限界に、毎晩ひとりで枕を濡らすほど悩んでいた。私はこのまま、使い捨てられる子役として消えていくのだろうか、と。
そんなある日の撮影の休憩中。私がセットの裏の薄暗い物置小屋で、声を殺して泣いていた時のこと。
パタパタと小さな足音が近づいてきて、扉が開いた。そこに立っていたのは、衣装のサスペンダーを揺らした駆くんだった。
駆くんは私の前にしゃがみ込むと、自分の小さな手で、私の泥を掴むようにギュッと強く握りしめてくれたの。
『つむぎお姉ちゃん、泣かないで? 僕はね、つむぎお姉ちゃんの演技がだーい好きなんだ! お姉ちゃんが笑ってくれると、僕、本当に元気が出るんだよ。だから、一緒に世界一の映画にしよう? ね?』
混じり気のない、純真無垢な瞳だった。その言葉が、その温もりが、どれほど私の救いになったか、駆くんはきっと知らない。彼のあの言葉があったからこそ、私は自分を嫌いにならずに、今も自分の道を歩き続けることができている。私にとって駆くんは、私の世界を救ってくれた小さなヒーローだった。
だから、彼が芸能界の荒波に揉まれて傷つき、引退してボッチになってしまったと知った時は、胸が締め付けられるように痛んだ。
さらに、詩織ちゃんや西園寺さんといった、当時の癖の強い女の子たちが、駆くんを巡って裏でギスギスと牽制し合っているという噂を耳にした時、私は決意した。
(あの子たちじゃ、駆くんを追い詰めてしまう。今の駆くんに必要なのは、傷ついた心を癒やす場所……。そう、実家のような安心感よ)
私は駆くんを全肯定して甘やかす『オアシス枠』として、レンタル彼女にコッソリ登録した。
のどかな公園のベンチで、私を見つけて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした駆くん。相変わらず可愛い。
「また大変な目に遭ったんでしょ? 頑張ったね、駆くん」と言って、私の膝の上に頭を乗せてあげると、駆くんは今にも泣き出しそうな顔で、言われるがままに身を委ねてくれた。
私の髪に触れる駆くんの、少し大きくなった手。頭を優しく撫でてあげると、あの子の強張っていた身体が、みるみるうちに解けていくのが分かる。
あの子たちが駆くんをどうプロデュースしようと、どう囲い込もうと、私の役割は変わらない。
駆くんは、私の前ではただの可愛い男の子でいいんだよ。外の世界で振り回されて、疲れ果ててしまったら、いつでも私のお膝に帰っておいで。私はいつだって、駆くんを世界で一番、甘やかしてあげるからね。




