第21話:芸能界のピンクの欲望から逃げ出したい俺と、子守り担当プロデューサーの母性爆発
「……もうやだぁ。お家に帰りたい……普通の女の子と、普通にお喋りしたかっただけなのにぃ……」
ヤンデレ幼馴染、ツンデレ令嬢、男装の親友、義理の家族、果ては敏腕マネージャーまでが目を血走らせて俺の指名枠を奪い合う日々に、俺の精神生命力はついに限界を迎えていた。
あまりのストレスに脳の防衛本能が働いたのか、俺の意識は一時的にぽやぽやとした『幼児退行』気味になっていた。
「よしよし、怖くないよぉ。今週こそ、優しくて、俺をちやほやして、よしよししてくれる、普通のお姉ちゃんみたいな女の子を頼むんだぁ……」
完全に目が据わった状態でスマホを操作し、新たな超底辺マイナーサイトで、プロフィールに【面倒見が良いです。元保育士志望】と書かれた、一番母性のありそうなキャストを指名した。今の俺に必要なのは、リハビリではなく、ただの全面的な保護と子守りだった。
そしてデート当日。お洒落なホテルの託児所風キッズカフェ。
「……ちょっと大河内駆くん。あなた、芸能界の黒い欲望から逃げ出したと思ったら、今度は芸能界の『ピンクの欲望』の爆心地になってるじゃない。……というか、何よそのぽやぽやした顔。反則的に可愛いんだけど!?」
「ぶっっっ!!!!????」
驚きのあまり幼児退行が半分吹き飛んだ。
目の前に立っていたのは、高級なキャリアスーツを着こなし、圧倒的な大人の風格を漂わせる美女――映画『友達100人』の撮影当時、現場で一番泥臭く走り回り、俺の『子守り担当』としてお菓子をくれたり優しく面倒を見てくれていた元ADのお姉さん、五味麻衣さん だった。
当時は無能なドジっ子ADだった彼女だが、癖の強すぎる子役100人をまとめ上げた功績(※実際は俺が裏でサポートしてあげたおかげ)により、現在は若くして番組のチーフプロデューサーへと登り詰めていた。
「ご、五味お姉さん!? なんで番組プロデューサーがレンタル彼女なんかに登録してるんですか!?」
「あんたに会うために決まってるでしょ! さあ白状しなさい、駆くん。あなた、うちのタレントたちだけじゃなくて、スポンサーの西園寺の会長(令嬢の父)まで『立派な娘婿だ』って洗脳して親公認にしてるってどういうことよ!?」
「俺は何もしてないよぉぉぉ!! 毎週女たちに囲まれて、精神的にボロボロにされて、今やこんな幼児退行(ぴえん状態)にまで追い詰められてる被害者なんだよぉぉぉ!!」
俺は半泣きになりながら、これまでの悲惨なレンカノサバイバルの全貌をぶちまけた。
外の女たちに怯え、精神的にすり潰され、「もうやだぁ、よしよししてぇ……」と涙目でソファーのクッションにしがみつく俺の姿を見て、五味プロデューサーは呆然とし、次の瞬間、その目がゴリゴリの『子守りモード(母性)』へと切り替わった。
「……そっか。駆くん、そんなに虐められて可哀想に……。あの『友達100人』の時、100人の重りを背負って私を助けてくれた駆くんが、こんなにボロボロに……」
彼女は俺の隣に座ると、優しく俺を抱き寄せ、その豊満な胸の中に俺の頭をすっぽりと包み込んだ。
「よしよし、もう大丈夫だよぉ、駆くん。お姉ちゃんが全部守ってあげるからね。……ああっ、この幼児感、たまらないわ。十年前より何倍も庇護欲をそそる極上のショタ……ゲフン、男の子に育っちゃって……(グヘヘヘ)」
「プロデューサー!? 心の声の『グヘヘヘ』が完全に大人の黒い欲望になってるんだけど!?」
「よし決めたわ! 芸能界の平和を守る(※建前)ためにも、この壊れかけた駆くんは、元子守り担当の私が独占して、私の部屋で一生『よしよし』してあげる! これからは毎週、お姉ちゃんとの特別チャイルドケア(デート)の時間よ!」
俺の限界寸前の幼児退行(※ただの精神的疲労)と、無自覚な母性破壊オーラによって、今度は業界の全予算を握る最年少プロデューサーの母性と下心を完全爆発させてしまい、レンタル彼女の指名争奪戦(修羅場)へと本格参戦を決定されるのだった。




