閑話が本題 駆のコンプライアンス教室
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
週末のレンカノ修羅場の数々を経て、俺の精神生命力は限界を迎えていた。
そんなある日のこと。芸能事務所の敏腕チーフマネージャーであり、コンプライアンスの鬼として知られる高坂麗美マネージャーは、深刻な顔で頭を抱えていた。
最近、なぜか白雪詩織や西園寺麗華といった、俺の周りで毎度のようにコンプライアンス違反(拉致・不法侵入・ストーカー工作)を繰り返す元共演者たちの世間的な人気が急上昇していたのだ。
「なぜあんな法律を無視した暴走ばかりしている子たちが支持されるのよ……!?」
高坂マネージャーが血眼で調査した結果、衝撃の事実が判明した。どうやら現代のエンタメ界では『負けヒロインの暴走』こそが最先端のトレンド(流行)らしい。
しかし、トレンドはいつか必ず崩れる。彼女たちが本当に一線を越えて逮捕でもされたら、事務所も財閥も一発で終わりだ。
「やはり、彼女たちに徹底的な『コンプライアンス教室』を開いて、社会のルールを叩き込まねばならないわ……!」
危機感を募らせた高坂マネージャーは、放課後の空き教室を強引に借り切って特別講義を開講した。
そしてなぜか、「あなた、すべての諸悪の根源として、そこで一緒に授業を受けなさい」と、俺(本人の意見は完全無視)までがパイプ椅子に座らされて参加させられることになってしまった。
教卓の前に立つ高坂マネージャー。受講生として並ぶ詩織、麗華、蓮、未来の【出し抜き同盟】の面々。
「いいですか、あなたたち。深夜に他人の家に鍵を開けて入るのも、通学路を長い高級車で物理的に完全封鎖するのも、すべて立派な不法侵入および威力業務妨害――つまりコンプライアンス違反です!」
高坂マネージャーがホワイトボードを激しく叩きながら熱弁を振るう。しかし、俺以外のメンバーは揃って小首を傾げ、揃いも揃って眠そうな目を向けていた。
「コンプライアンス……? ナニソレ、美味しいの?」
「そうですわね。西園寺の辞書にそのような微々たる文字列は載っていませんわ」
「駆との距離を阻む壁があるなら、それは法律だろうと爆破して乗り越えるのが監督の演出(愛)よ!」
全然、話が通じていなかった。
彼女たちの脳内では、駆へのクソデカ感情(ピンクの欲望)が法律や社会のルールを完全に凌駕しており、高坂マネージャー一人では全く手に負えない。
「くっ、これほど規律の概念が欠落しているなんて……! 駆くん、お願い、あなたからも言ってやって頂戴! あなたの言葉なら、この猛獣たちを大人しくさせられるはずよ!」
「えぇっ!? 俺も先生側をやるの!?」
涙目で縋りつかれ、俺は仕方なく教卓の前に立ち、高坂マネージャーと一緒に『教師側』として教鞭を執ることになった。元天才主演の圧倒的な説得力と、毎週の修羅場で培われた手慣れた身のこなしで、俺は3人をじっと見つめて優しく語りかけた。
「いい、みんな。ルールを守らない女の子は、いくら綺麗でも、普通の男の人は怖がって逃げ出しちゃうんだ。俺、やっぱりちゃんとした大人のマナーを守れる、品のある女の子の方が素敵だと思うな」
俺がスッとみんなの目を見つめ、大人のレディファースト(※ただの穏便に終わらせるための懇願)で諭した瞬間。
「「「……っ!!!!」」」
詩織たちの瞳に、凄まじい稲妻(※いい子ちゃんアピールの熱)が走った。
「分かりました、駆くん! 私、今日から世界一コンプラを守る最高の清純派女優になります!」
「フン、西園寺が本気を出せば、法律遵守の模範囚(令嬢)になることくらい一瞬ですわ!」
俺の一言によって、彼女たちは急に背筋をピンと伸ばし、大急ぎでノートをカリカリと取り始めた。高坂マネージャーは「す、すごいわ駆くん……! たった一言でこの無法者たちを完璧にコントロールしてしまうなんて……!(グヘヘヘ、教卓の上の駆くんの先生オーラ、最高にエロかっこいいわ♥)」と大感動。
何とか無事にコンプライアンスの重要性を教え終え(※彼女たちがルールを守る気は全くなく、単に駆に好かれたいだけだが)、これでようやくお話はハッピーエンド――。
――になるはずが、その教室のドアが、ガラララッ!! と勢いよく開き、受講していなかった【モブモブ同盟】のメンバーたちが一斉になだれ込んできた。
「ちょっと待ちなさいよ! 駆くんが『大人のマナー指導(特別授業)』を開いているって聞いて、飛んできたわ!」
「お外の強豪たちだけズルいです! 私たちモブモブ同盟にも、駆先生から手取り足取り、密室で濃厚なコンプラ授業(※大いなる下心)を受けさせてください!」
「駆先生! 私の襟元、また乱れてるから更生(指導)して!」
「ぶっっっ!!!!???」
カフェの葵先輩や、図書館のひよりちゃん、風紀委員の正美ちゃんたちモブモブ同盟の面々が、完璧に目を血走らせて教卓の俺の元へと殺到。
それを見た詩織たちが「駆くんの初めての生徒は私たちです! 泥棒猫たちは退きなさい!」と応戦し、教室の中は一瞬で「誰が駆先生の特等席(マンツーマン指導)を得るか」という凄まじい大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただルールを守れって言っただけなのに、なんで学校の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、受講枠を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの勉強会は、結局いつも通りのグダグダな大爆発乱闘エンドで幕を閉じるのだった。




